お得意様を廻っていつもの喫茶店に行くと、店長さんが笑顔で迎えてくれる。

「あのっ…先日は有難う御座いました!」

「いやいや、俺は何にもしてないよ。でも良かったね、昨日総悟が浮かれまくって大変だったんだよ。」

「…有難う御座います…すみません…」

店長さんの笑顔につられて僕も顔が綻んでしまう。

「総悟はなぁ…ああ見えて色々大変だったから…幼い頃に両親を亡くしてね…ほとんどミツバさんに育てられたようなもんだからな…」

「ミツバさん…お姉さんですか?」

「あぁ…ミツバさんが嫁いだ後はアイツなりに気を使ってなぁ。ずっと苦労をかけたから、早く楽させたいって言って中学に入ってすぐに1人暮らしを始めて…まだまだ甘えたい年だったってのになぁ…」

…そうなんだ…
そんな話、初めて聞いた。
そー君…話してくれないんだもんなぁ…

「じゃぁ、お姉さんにも挨拶しなくっちゃ…」

「んー…ちょっと難しいなぁ…」

「えっ…?」

「ミツバさんは今、旦那さんの仕事の関係でニューヨークに居るからねぇ。」

「えぇっ!?」

「帰ってくるのは…3年後だったかなぁ…」

「…そうなんですか…」

「聞いて無いのかい?」

「…はぁ…」

今日はビックリすることばっかり聞くなぁ…
僕達、もっと色々話さないとだめだな…

「そんな訳だから、総悟の事、大切にしてやって下さい。」

店長さんがペコリと頭を下げる。

「はっ…はいっ!大切に…します…」

僕も慌ててペコリと頭を下げる。
なんだか…本当にお嫁さんに貰うみたいで…ちょっと照れくさいよ…

席に案内されて店長さんとお話していると、カラカラン…とベルが鳴る。

「新にいちゃんお待たせ!」

「あ、そー君…!…と、姉さん…?」

ベルを鳴らして入ってきたのは、待ち合わせしていたそー君と、何故か姉さんだった。

「帰り道でそー君に会ったから、私も一緒に来ちゃったわ。あら…こんな所にゴリラ…」

「姉さんっ!!」

店長さんになんて事を…すっごくお世話になったのに、失礼にも程が有るよ…!

僕が慌てて謝ろうと彼の方を見ると、呆然と姉さんを見てる。
あぁぁぁぁ…姉さんったら…いつも考えなしだから…店長さんビックリしてるよっ…

「…美しい…」

「へっ…?」

「なんて美しい女性なんだ…新八君のお姉さんですか?初めまして、私、総悟の親代わりをやっています近藤勲と申します!」

すっごいキラキラした目で姉さんの手を握って挨拶する。
店長さん…?

「あら、そー君はゴリラに育てられたの?よく人間の言葉覚えられたわね。」

うふふ、と恐ろしい笑顔で姉さんが言うけど、ヒドイよっ!!

「姉さ…」

「ゴリラなんかじゃねェよ!!近藤さんは俺の大切な人でィ!謝って下せェ!!」

「…そー君…?」

わぁっ!本性出てるよそー君んんんんんんっ!!!

「俺ァゴリラだって何だって、近藤さんを尊敬してるんでィ!近藤さんを何も知らねェヤツに酷い事言われる筋合いはねェよ!!」

ギロリと姉さんを睨みつけて噛みつくそー君は止められなくて…
折角2人上手くやってたのに…
でも…店長さんの事あんな風に言われたら…そー君だって黙っていられないよね…
それでもなんとか腕を掴んで止めたんだけど…振り払う勢いで前に出ようとする。
それだけ大事なんだな…近藤さんの事…

「総悟、謝りなさい。」

どうして良いか分からなくて、呆然としている姉さんを見て、店長さんがそー君の頭を押し下げる。
え…?

「このお嬢さんは、別に俺に対して悪い事なんて言って無いだろう?俺の見た目がゴリラなのはお前だって認めてるだろうが。」

そう言って、ウホウホとゴリラの真似をしておどけてみせる。

近藤さんは…凄い大人だ…僕も…こんな人になりたい…

「だって…!」

「謝りなさい。」

「…妙ねえちゃん、ごめんなさい…」

姉さんはしおらしく謝るそー君をジッと見て、その後近藤さんをジッと見る。
何か考えるそぶりを見せて、又すぅっと口を開く。

「良いのよ、そー君。私の方こそごめんなさい…この方はそー君の大切な方だったのよね…それを私は見た目だけで判断してしまったんだもの…私の方が恥ずかしいわ…近藤さん…でしたかしら?失礼しました…ごめんなさい…」

ねっ…姉さんが素直に謝った…!?
凄い…近藤さん、僕も尊敬します!

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