※ 『未来は』の続き
すぐそこにある
慎重に根回ししてこの俺が頑張って、やっと手に入れた可愛くて愛しくて堪らないあのコ、パチ恵と恋人同士になってから二年が経った。
なんとか一緒に入った大学には、パチ恵を諦めないヤロー共もわさわさ居るけど、俺達のお付き合いは順調だと思う。
相変わらずパチ恵は可愛いし、俺の事は『そー君』って呼んでくれる。
…怒ったら『沖田さん』になるからな…呼び方が変わってねェ内は俺の事好きでいてくれてる…と思う…
だから、俺ァ自分が二十歳になった時に心に決めたんだ。
パチ恵の二十歳の誕生日に、プロポーズしようって。
二十歳になったらもう大人だからな。周りにとやかく言われたってなんとか出来る…と思う。
それに、これ以上時間かけてたら俺がパチ恵に嫌われちまうかもしれねェ。
他に良い男が出てくるかもしれねェ。
社会人になんかなっちまったら、大人の金持った色男がパチ恵を誘惑してくるかもしれねェ。
そんなヤツラが出てくる前に、俺ァパチ恵を名実ともに俺のモノにしてェんだ。
だから、学生にしちゃ頑張った婚約指輪も用意したし、役所で婚姻届も手に入れてきた。
今すぐ結婚できるたァ思っちゃいねェが、ソコは気分でィ、気分。
決戦は明日。
速攻で決めてやるぜィ!
◆
八月十二日、パチ恵の誕生日の朝。
いつもは起きらんねェけど、今日ばっかりはパッチリと目が覚めた。
…ってェか、緊張であんま寝てねェ。
服も髪形もバッチリ決めてパチ恵んチの前で待ち伏せてっと、今日も愛らしい俺のパチ恵が寝ぼけ眼で家を出てきた。
…寝不足かィ…?
「パチ恵!おはよーごぜェやす!」
俺が緊張しつつも爽やかに声をかけると、パチ恵が驚いた顔で俺を見た。
「そー君…?え!?私寝坊しちゃった!?」
慌てて腕時計で時間確認してやがる…失礼な…
「今日は早起きしたんでィ。パチ恵の誕生日だろィ?」
ちょっとムクれて横を向いてやると、慌てたパチ恵が俺に駆け寄って腕を掴んできやがった。
チラッと見ると、すんげぇ嬉しそうな顔してやがる…可愛いから許す。
「ご…ごめんなさい!そー君いっつも遅刻だから…それに、毎年なら12時になったら『おめでとう』ってお電話くれるのに今年は無かったから…私の誕生日なんて忘れてるのかなって…」
しっ…しまった!
そういやァ毎年零時になると同時に電話してやした…
今年はそれどころじゃなくて…忘れてやした………
「すっ…すいやせん!今年はちっと…外せない用事が有りやして…」
「ううん、いいの!用事があって遅くなってるのかなって思ってたし!!」
「…電話待ってて寝不足になりやした…?」
少しクマになってる目元を撫でてやると、パチ恵がピクリと震える。
俺のせいでこんなんしちまって…すまねェ…
「あの…えっと…ちょっとだけ…やっぱりそー君の声聞きたかったから…でも!やっぱり声だけじゃなくて逢いたいから!!…早起きしてこんな時間に私に逢いに来てくれて…凄く嬉しい…ありがとう………」
本当に嬉しそうに笑ってくれてるパチ恵に愛おしさが募って、思わず抱きしめちまった。
よし!今がその時でィ!!
パチ恵にプロポーズして永遠の愛を誓うんでィ!!!
少し身体を離して、俺に出来る一番真剣な顔でパチ恵を見つめる。
「パチ恵………」
「おはよーネ、パチ恵ー!」
辺り一面に、アホチャイナのバカ声が響き渡る。
チッ…邪魔が入りやがった…
「神楽ちゃんおはよう!どうしたの?」
「たんじょー日オメデトーヨ!コレ、プレゼントアル!!」
何かデカい包みを抱えて走ってきたチャイナが、ソレで俺を押しのけてパチ恵の前に立ちやがった!
「パチ恵が欲しがってたデッカいかぴばらさんアル!私とジミーと銀ちゃんからヨー!!」
「わー!ありがとう!!うれしい!!!」
包みをギューッと抱きしめるパチ恵はすんげぇ可愛いけど、ドヤ顔で俺を見下ろすチャイナがムカついてしゃーねェよ!
「オヤ?ドSも来てたアルか?朝からゴクロウアルな。アネゴの目の黒いウチは夜通しらぶらぶお泊りなんて出来ないアルからナープクククク…」
すんげぇ悪いツラで見下してくっけどそんな事ァ俺だって解ってらァ。
付き合い始めて最初の誕生日に、パチ恵の部屋に忍び込もうとして死にかけたんでィ…
仕方ねェんで、その後はチャイナも一緒に大学に向かった。
…朝イチでプロポーズってのは邪魔されやしたが、今日はまだこれからでィ。絶対ェ最高の誕生日にしてやらァ!
◆
…とは言え、授業中に軽々しくプロポーズなんて出来るもんじゃねェ。
やっぱりここは昼休みか放課後…ですかねィ…
授業を聞きつつスマホで良い感じのレストランを予約してっと、隣に座るパチ恵の様子がおかしい。
誰もパチ恵の隣に座れねェように、常に端に座らせてるってェのに一体何が…?
「パチ恵…?」
「………そんな事しません…無理です…」
「今日ぐれぇ良いだろ?まぁ、俺は今日だけで黙る気もねぇけどなァ…」
ムカつく男の声に気がついて横を睨むと、通路に座りこんだ高杉がパチ恵の手を取って何事かを囁いていやがる!
「高杉ィ…テメェこんな所で何してやがる…?」
「あぁ?授業受けつつパチ恵口説いてんに決まってんだろ…?」
ニヤニヤ嗤うツラが余裕あってぶん殴りてェ…
「俺のパチ恵に手ェ出してんじゃねェよ…」
一応小声で、たっぷりの殺気を込めて高杉にぶつけてやると、肩をすくめて立ち去っていった。
…まったく…油断も隙もねェな…
「パチ恵、大丈夫だったか?」
「うん、高杉君って顔は怖いけど意外と面白い人なんだよ?でも、手を握ったり撫でられたりするのはちょっとドキドキしちゃうから困るよね。」
ドキドキすんのかよ!?
ムカついたんで、パチ恵は困ってたけど授業が終わるまでずっと恋人繋ぎして離さないでやりやした。
高杉のせいで、授業中すら油断できねェ事に気が付いた俺なんですがねィ…この後の授業は全部別々なんでスゲェ心配でィ!
…でもまぁ、チャイナが一緒のはずだから…大丈夫だろ…アイツがそうそう誰かにパチ恵を渡す筈なんかねェ。
本当なら、今日ぐらい授業なんかサボってパチ恵を護ってたいってェのに、そんな事したらパチ恵本気で怒りやすからねィ…この後の事を考えるとそんな事出来やしねェ。
仕方ないんで真面目に授業を受け続けて、やっと昼休み。
今日はカフェに居るってェメールがパチ恵から来てたんで、俺はすぐにカフェまで走った。
俺がソコに着いた時には、パチ恵を囲んでチャイナと山崎と土方までが居やがった。
「今日、パチ恵ちゃんの誕生日だから俺ケーキ買って来たんだ!あ、サボって無いからね?丁度前の時間が休講だったんだ。」
「え?そうなの?じゃぁ次の時間私休講だ…」
「あ、じゃぁその時間一緒に遊ぼうよ!俺も次の時間授業無い…」
山崎の野郎、パチ恵口説く気か…?
「あ?山崎オメェ次は落とせない教科だろうが。」
あ、土方が止めた。
ざまぁ。
「スゲェなァ…ホールケーキじゃねェか。」
俺が近付いていくと、気が付いたパチ恵が満面の笑みで迎えてくれた。
「そー君!山崎君が買ってきてくれたんだよ?皆でお祝いしてくれるって…照れちゃうけど凄く嬉しいよ…」
幸せそうに笑うパチ恵の前じゃぁ、今日ばっかりは山崎ぶっ飛ばしたり土方呪ったりなんざ出来ねェや…
土方のマヨライターでロウソクに火を付けて、全員で歌を歌って祝うと、恥ずかしそうに頬を染めたパチ恵がそれでも嬉しそうに笑って火を消した。
山崎が買ってきた、有名店の一番人気のケーキは流石に旨かった。
偶然残ってた、なんて言ってっけど絶対予約してたよな、コレ。だってパチ恵が喰いたいって言ってたヤツだもん。
全く、油断も隙もねぇや…まぁ、山崎の企みなんざすぐに消されたけどなァ。
次の授業もサボれねェから、俺はさっきレストランを予約した事だけ誰にも聞こえねェようにこっそりパチ恵に囁いた。
他に約束なんざされちゃァたまんねェからな。
「え…!?」
「デートしやしょう?」
他の誰にも見せねェ笑い顔で俺がそう言うと、はにかんだパチ恵も嬉しそうに笑ってこくりと頷いてくれた。
よし!ソコでプロポーズでィ!!
俺が心の中でガッツポーズを決めてっと、のっそりと黒い影が近付いて来やがった…
「おいパチ恵、俺は次授業無ぇから一緒に図書館でも行くか?」
「あ、土方君。そうだね、レポートの調べ物しようと思ってたんだ!丁度良かったよ。」
…早速土方の下心丸見えな誘いに乗ってんじゃねェよ、パチ恵…
でも、俺だけに聞こえるように『楽しみにしてるね』なんて言いやしたから…上手くかわせよ…?
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