そーして、僕らは、家族になった。
ACT15 或る日の坂本家の夜
…暫く大人しくしていてやったがなぁ…
今晩はとっときのブツで…パチ恵のエロ可愛い姿を堪能してやるぜ…ククク…
神威が見付けたっていう、パッケージは一見恋愛映画みたいなコイツはC級マイナーなホラー映画で…えげつなく人の恐怖心をあおってくるらしい。
なんせアノ最強の血筋を継いだ、ハンパな事じゃぁ動じねぇチャイナ娘が観て、泣き喚いて神威に抱き付いてきたってぇシロモノだからなぁ…効果はてきめんだろ?パチ恵がどうなるかなんざ、火を見るよりも明らかだ。
「晋助お兄ちゃん、私、映画なんて久し振りですごく楽しみだよ!今日は早くご飯食べちゃおうね?」
「おう。チャイナ娘も喜んでたらしいぜ…ソレ…」
「神楽ちゃんが?じゃぁすっごく面白いんだね!大体の映画じゃ寝ちゃうんだよ?神楽ちゃん…」
くすくすと笑う顔も可愛いけどなぁ…今日は一晩中俺に縋りついて震えさせてやるよ、パチ恵…ククク………
◆
晋助お兄ちゃんが神威さんから借りてきたっていう、すっごく面白いって今話題の映画。
晩ご飯を食べ終わったら一緒に見ようって約束してて、もう今からすっごく楽しみです!
ちらっとパッケージを見せてもらったけど、恋愛映画っぽいんだよね。
ちょっと泣けたりとかもするのかな?
らっ…ラブシーンとかあったらちょっと恥ずかしいかなぁ…
でもでもやっぱりハッピーエンドが良いよね!!
ラブストーリー…総悟君ともっと仲良くなる参考になったら良いなぁ…なんて!そんな事も思っちゃったり!!
あー!楽しみだなぁ!!早く観たいよ!!!
いつもよりちょっと早めに晩ご飯を食べて晋助お兄ちゃんと2人で急いで片付けをしていると、お父さんがどうしても外せない用事が有るって言って会社に戻っていってしまった。いつも忙しいのにご飯は絶対一緒に食べに帰って来てくれるんだもんな…大好き!
片付けも終わってお茶も淹れて、2人並んでいよいよ映画を観ようとした時に晋助お兄ちゃんの携帯が鳴った。
「…神威…?」
しばらく何か言い合ってたお兄ちゃんは、大きく溜息を吐いて電話を切った。
そしてぐるりと振り返って、困った顔で私を見る。
「悪ぃパチ恵、今から神威んトコ行ってくる。」
「え!?今から映画観ようって…」
私がそう言うと、晋助お兄ちゃんが悲しそうな顔をする。
神威さん、何かあったのかな…?お兄ちゃんが私との約束を守らないなんて、よっぽどの事だよね…?
今どうしても映画が観たい、なんて…私の我儘だよね…
「行ってらっしゃい!気を付けてね?」
「悪ぃ…明日は絶対ぇ観るからな。」
ホッとしたように私の頭を撫でて、晋助お兄ちゃんはすぐに家を出ていってしまう。
すごく大事な用事だったんだ…少しでも困らせちゃって、私、悪い妹だよ…ちゃんと送り出せて良かった!
…でも…すっごく面白い映画が気になって仕方ないよぅ…
すっごく面白いんなら…2回観てもきっと面白さは変わらないよね…?
1回だけじゃ解らなかった所とか発見できるかもしれないし…
でも、晋助お兄ちゃんも楽しみにしてたし…私だけ先に観るのは申し訳ないよね…
でも…黙ってたら分かんない…よね…?
私がパッケージを手にとってじっと見つめたまま心の中で天使と悪魔が闘っていると、いつの間にか後ろに十四郎お兄ちゃんが立っていた。
「何の映画だ?」
「今すっごく面白いって話題の映画なんだって!十四郎お兄ちゃん一緒に観る?」
「おう。映画なんて久し振りだな。」
珍しく笑顔の十四郎お兄ちゃんが、デッキにソフトを入れてリモコンを持ってソファに座るんで、私は電気を落として十四郎お兄ちゃんの分のお茶をコップに入れる。
晋助お兄ちゃんごめんね?
十四郎お兄ちゃんも観たいって言うし、私先に観ちゃいます!
明日観る時、絶対オチは言わないから許してね?
◆
恋愛映画なんざガラじゃねぇけど、パチ恵がソワソワしながら観たくて堪らねぇって態度してんなら仕方ねぇだろ。
晋助への言い訳の為に、俺が共犯者になって一緒に観てやんのに躊躇いなんざねぇ。
内容になんざ一切興味無ぇけど、隣で泣いたり笑ったりするパチ恵を見てるだけで俺は十分に楽しめるよな。
そん時のパチ恵の表情は俺だけのモノだから。
長い予告や配給会社のロゴが終わっていよいよ映画が始まる。
「始まるね!」
なんてにこにこ笑いかけてくる顔が可愛過ぎんだよ!
そういやぁここ最近、コイツのこんな顔見て無かったよな…沁みるわコレ。
取り敢えず、最初っから映画を全く見ないってのも何なんで画面を見てる…が…
………コレぁ………音楽といい…画面の感じといい………
アレ…?コレ…恋愛映画じゃなかったっけ………?
そーっと隣を見ると、スゲェわくわくしながら画面に見入ってるパチ恵。
…コイツ…全然気付いて無ぇな…
どうする俺!?
コレをこのまま観てんのは危険だぞ!?絶対!!
腹壊して厠に…イヤ、そうしたらコレをパチ恵独りで観せる事になるそんな事出来ねぇ!
でも俺はコレを最後まで観れんのか!?
この………
俺が一瞬で猛烈に頭を回転させてる間に、当の映画は一回目の佳境に入った。
ついさっきまで愛だの恋だので揉めてた筈の男女の誤解が解けて、見つめ合う二人のラブシーンが始まろうとしたその時に、二人の背後から血まみれの女の幽霊が襲いかかる!?
「『キャァァァァァ!!』」
画面の中の女の悲鳴とパチ恵の悲鳴が重なって、背後にザワザワした何かを感じた俺が慌てて後ろを振り向くと、パチ恵も慌てて後ろを振り返る。
なっ…何も居ないな!よし!これはもう消そう!!
パチ恵が怖がってるからね!こんなの観せてらんねぇから消そうすぐ消そう今消そう!!
背後をソファでガードして、リモコンのボタンに手をかけつつ何気なく画面に目を戻すと、逃げまどう男女を追いかける幽霊女が、俺に目を合わせてにやぁりと笑った。
『逃がさない…途中でやめるなんて…許さない…』
ギャァァァァァ!
ダッ…駄目だ!!
途中で観るの止めたら呪われる!!!
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