誓いのきっすは突然に



それは、真選組局長の近藤さんが、依頼だと万事屋にやってきていきなり頭を下げた所から始まった。

「えっ!?ちょ…なんなんですか!?腰の低い脅しですか!?姉上はあげませんよっ!?」

「いや違う…違わないけどお妙さんは頂きたいけど今日は違うんだ!パチ恵ちゃん!三ヵ月…イヤ、一ヶ月で良いから総悟のお嫁さんになってくれないか!?」

「へぇぇぇぇっ!?」

大きな体を小さく縮めた近藤さんがテーブルに頭を擦りつけて私に頼みごとをするなんて一体どういう事!?
それも『ソウゴ』って…沖田さん!?え!?お嫁さん!?何で私ィィィ!?

「何言ってるネ、ゴリラ。なんでウチのパチ恵がドSの嫁にならなきゃいけないネ。」

「そ〜だそ〜だ〜。近藤君おかしな事言わないでくれる?パチ恵はウチの嫁なの。つまり俺の嫁…」
「銀さんのじゃないです。」
「銀ちゃんのじゃないネ。」

呆然としている間に私の立ち位置がおかしな事になりそうだったんで、慌てて否定して距離を取ると銀さんが恨みがましい目で私を見ながらブツブツと文句を言いだす。

あー…ああなったらしつこいんだよな…

でも面倒くさいんで無視して近藤さんの方に向き直ると、近藤さんは捨てられたゴリラのような目で私を見ていた。

…こっちはこっちで面倒くさそうだけど…
でも、万事屋の台所はいつものように火の車だし、真選組の依頼はいつも割が良いし、なによりちゃんと依頼料払ってくれるし…沖田さんのお嫁さん、ってのもちょっと気になるし………ちょっとだけだけど!

「あの…それって依頼…なんですよね…?沖田さんのお嫁さん、って一体…」

「ああそうなんだ!実は…」

「パチ恵がアイツの嫁になってやる事なんかないネ!サドヤローならちょっと声を掛ければホイホイついていくバカオンナなんかタクサンいるネ。」

「イヤ!もうパチ恵ちゃんしか居ないんだ!!」

銀さんが大人しくなったと思ったら、今度は近藤さんと神楽ちゃんが言い争いを始める。
放っておくといつまでも話が進まないんで、買ってきてあった酢昆布を神楽ちゃんに渡すと、きゃほー!と叫んで神楽ちゃんが大人しくなった。

…はぁ…

「依頼、って事は本当に結婚するって訳じゃないんですよね?何かの任務なんですか?」

私がそう話を振ると、嬉しそうに笑った近藤さんが話を進める。

「いや、任務ではないんだけどね…実は総悟に結婚話がきてね…まぁそれ自体は今までも何回か有ったんだけど、今回はちょっとやっかいな相手でそう簡単には断れないんだ。」

「わぁ、凄いですねー。そんなにおモテになるんでしたら上手く断る方法はよくご存じなんじゃありませんかー?」

なんだろ、この人沖田さん自慢しにきたのかな?
結婚話なんてそうそうくるもんじゃないと思うんだけど。現に万事屋にはそんな話きた事無いですからね…ちょっと羨ましいよ…
その出だしだけで銀さんはもうすっかり話を聞く気は無くていつものように鼻くそほじってるし、神楽ちゃんは酢昆布に夢中だ。
私もちょっと話を聞く気無くなったけど…でも依頼料は魅力的だよね…

「そう簡単じゃないんだって!…相手が天人で…ヌメール星の第一王女なんだけど…こんなお嬢さんでね…」

そう言って近藤さんが私の前に広げたのは普通のお見合い写真だったけど…中に写っていたのは…

「ぎゃはははは!ドSにはお似合いアル!!」

「やったじゃん沖田君、これで本当に王子様になれんじゃん!」

沖田さんの相手には興味が有ったのか、私の後ろから写真を覗き込んだ銀さんと神楽ちゃんがその写真を指差して大笑いするから2人を押さえてはみたけど、私も笑いをこらえるのに必死だ。
だって沖田さんの結婚相手のお姫様って…

リボンを着けたスライムの女の子、だったんだもの…
人型じゃないもんね…いくらお姫様でもさすがに…ね…

「まぁ、人間見た目じゃないとは思うけど流石にこの女性はなぁ…」

しょんぼりと肩を落とす近藤さんが凄く可哀想になってきてしまった。
話によっては力になれるならなっても良いかな…なんて思うぐらいには。

「私は…何をすれば良いんですか…?」

「依頼を受けてくれるのかい!?」

「あのっ!一応お話を聞くだけで…」

「ああ、まずは話を聞いてくれ。これは流石に断ろうと思ったんだけど、相手は他星のお姫様だろ?外交的にもただ嫌だからって言って断る訳にはいかなくってね…仕方ないんで『総悟には想いあう女性が居て、もうすぐ結婚する』と言って断ったんだ。そうしたら『諦めきれないから相手を見たい』から始まって『結婚式に出席する』とか『幸せな家庭を築いているのを見たい』まで言いだしてね…」

成程、それでお嫁さんを用意するしかなくなったんだ…

「でも、なんで私なんですか…?神楽ちゃんの言う通り、沖田さんならちょっと声を掛けたらお嫁さんになりたがる女性なんていくらでも居るだろうし、依頼料を払うんだったらプロの女優さんでも良いじゃないですか。」

「それじゃ駄目なんだ!総悟にはちゃんと幸せになって欲しいからな。ちゃんとアイツの事を好きになってくれてアイツも好きになれる相手じゃないと結婚なんてさせられない。でも、そんな相手今すぐになんて見付からないし、仕事として結婚相手になってくれる女の子、と思っても総悟はイケメンだろ?後々付きまとわれても問題だからな。その上、アイツはちょっとアレだから…途中で逃げられると困るだろ…?そうならない女の子となると…」

「………私…ですね…」

「そうなんだ!パチ恵ちゃんなら総悟のアノ性格も知ってるから逃げ出したり好きになったりしないだろ?」

…確かに…そんな条件の女の子、すぐに探すなら私以外は考えても浮かんでこない。
神楽ちゃん…は絶対無理だし。
姉上…は近藤さんが嫌だろうし。
仕事で役者さん…は沖田さんの事を好きになってしまうかもしれない。沖田さん顔だけは良いから…

そうなると、やっぱり私だよね…万事屋は常に貧乏だし、姉上が近藤さんにストーカーされてるから真選組の男性なんか好きにならないだろうし、なによりアノ沖田さんだって分かってるし後々付きまとうなんてある訳無いもの。
それにやっぱり全く知らない人って訳じゃないから…事情を知っちゃった以上このまま放っておく事も出来ないし…
いくら沖田さんだって、好きでも無い人と結婚させられるなんて…やっぱり嫌だよね…うん………