「分かりました、その依頼お引き受けします。」

私がそう言うと、満面の笑顔になった近藤さんが私の手を握ってぶんぶんと上下に大きく振る。

「有難うパチ恵ちゃん!依頼料は前金でこの額と、成功したら同じ額を払わせてもらうよ!!」

そう言って差し出された小切手にはビックリするような金額が書き込まれてて…これで前金…!?

え…?コレってヤバい仕事…?
今からでも断って…

「あの…近藤さん私やっぱり…」

「じゃぁ結婚式は明日だからちゃんと家まで迎えに行くからね!一ヶ月も総悟と同居するのは、なかっっっなか大変かと思うけど頑張って!この芝居には真選組の…いや、地球の運命がかかってるから失敗は出来ないからヨロシク!」

「え…ちょ…明日ァァァ!?同居ォォォ!?地球ゥゥゥ!?」

「あれ?言って無かったかい?ヌメール星人は色んな物を吸収して大きくなる習性があってね。この話が嘘だったら地球ごと吸収する、なんて脅されてるんだ。」

「え…ちょ…えぇぇぇぇっ!?吸収ってなんですかァァァ!?そんな大事な事聞いてませんんん!!」

あまりの事に叫ぶしか出来ないでいると、良い笑顔の近藤さんが、バチ―ンとウインクをキメた。

「大丈夫!パチ恵ちゃんなら出来る!頑張れ、未来の義妹よ!」

「誰が義妹ォォォ!!!」

いつもの癖でそう突っ込むしか出来なかった私を残して、捕まえて断る間もなく足取りも軽やかに近藤さんは帰っていってしまった。

どうしようどうしようどうしよう!地球の運命なんて私…

頭がぐるぐるして動けないまま固まってると、後ろから両方の肩がポン、と叩かれる。
あ!銀さん!神楽ちゃん!!何か良い案を…!
期待をこめて後ろを振り向くと、生温かい笑顔を浮かべた2人が、首を横に振りながら私を見ていた…

「…女優になるネ、パチ恵…」

「…ガラスのお面読むか…?」

…残念ながらこの依頼はどうしても成功させなくてはいけないようだった…





近藤さんの予告通り、翌日の早朝から真選組のパトカーが恒道館道場に私を迎えに来た。
それも、近藤さん・土方さん・沖田さんの真選組のトップ3が直々に…もう絶対私を逃がさないって事なんだろうな…

「八ちゃんしっかりね!私もお式には間に合うように向かいますから。」

珍しく近藤さんを隣に並べた姉上はひどくご機嫌で…裏でどんな取引きが有ったのかは考えないようにしておこう…

「結婚式ってのは色々用意が有るらしいから、すぐに式場に向かうぞ。」

そう言った土方さんはなんだか凄く不機嫌だ。
まぁ、機嫌の良い土方さんなんて私は見た事無いけど、それにしてもちょっと恐い。

そんな土方さんの後ろを、つまらなそうな顔で沖田さんがついてくる。
いくら仕事だからって、沖田さんは私に挨拶も何も無いんだ…玄関に現れた時から目も合わせないし。
こんなのでこれから仲良く出来るかなぁ…嘘の旦那さんとはいえちょっと心配だよ…

「あの…沖田さん…」

せめて私から挨拶ぐらいはしようと声を掛けると、大きく深呼吸した沖田さんが私の手を掴んで姉上の前に立つ。

「姐さん、妹さんを頂きやす。絶対俺が護りやすんで…宜しくお願ェしやす。」

沖田さんが姉上に勢い良く頭を下げるんで、ついつられて私も頭を下げると姉上がクスクスと笑いだす。

「なんだか本当に八ちゃんをお嫁に出すみたい。絶対に傷付けないでくださいね?約束ですよ?」

「へい、約束しやす。」

顔を上げると楽しそうに笑う姉上。
ちらりと沖田さんの顔を盗み見ると、凄く真剣な顔…うわ…カッコいい…アノ沖田さんだって分かってても心臓がドキドキしてきた…

「パチ恵…いや、八恵ちゃん。」

「はっ…はい!」

「まさかアンタがこの話を受けてくれるなんて思ってもいやせんでした。絶対傷付けさせやせんから、けっ…一緒に地球守って下せェ。」

そう言ってニコリと笑った沖田さんは本当に王子様みたいでドキドキは治まらない…
私…この人と1か月も一緒に過ごすんだ…
どっ…どうしよう!今更緊張してきたよ…!

「ぎゃっ…ぎゃんばりみゃす!」

思いっきり噛んだ私に、沖田さんは爆笑して土方さんが溜息を吐く。
呆れられちゃったかな…

「かぁーわいい嫁さんでィ。その調子で宜しく頼みまさァ。さ、いってきますのちゅーは?」

「なんで嘘の結婚なのにそんな事しなきゃいけないんですかァァァ!」

「ちぇー、ケチィー。どうせ後でするんですぜ?」

ひょいっと抱き上げられて、そのままパトカーに詰め込まれる。
なっなっなっ…何するの!?この人っ!?
どうしよう心臓が壊れそう!だってこんな事され慣れてないもん!!

顔に血をのぼらせて泣きそうになりながら沖田さんを見上げると、にっこりと微笑まれて隣に乗り込まれて優しく手を繋がれる。
イヤァァァ!
こんな事されたらドキドキし過ぎて心臓壊れるっ!
…こんなのでちゃんと依頼出来るかな、私…

そうしてにこやかに手を振る近藤さんと姉上に見送られて、私の人生で最大の仕事が始まった。