そーして、僕らは、家族になった。

ACT 12 或る日の昼休み


4時限目終了のチャイムが鳴ると同時に、私は鞄を持って教室を掛け出す。
いつもなら、神楽ちゃんや山崎君と一緒にゆっくりとお弁当を囲むんだけど、今日ばっかりは2人に掴まる訳にはいかないの。
だって今日は、1週間に1度っきりの総悟君と2人っきりのお弁当の時間だから。


毎日一緒にお弁当食べたいけど、クラスが別れてしまってそういう訳にもいかないから。
2人で約束して、1週間に1度だけ、私がお弁当を作って何処かで一緒に食べる事になったんです。
ほんとなら、毎日お弁当作って来たいけど、総悟君に止められて…それでも頑張って1週間に1回は約束させた。
だから、絶対絶対!これだけは譲れないの!!

でも、その1日も皆と一緒になる事が有って…
だから私は今、忍者になったようにこっそりと廊下を歩いている。

どこで誰に逢うか分からないから、細心の注意を払わなきゃ!
でも、早く総悟君に逢いたいから急いで…
ドキドキと騒ぐ心臓を押さえつつ、小走りで廊下を進んでいると珍しく誰にも会わないで済んだ。
今日は、ラッキーかも!


でも、ここからは難関だ。
銀八先生の居る国語科準備室の前を通らなければいけないのだ!

何故か、その日に限って銀八先生に見つかって、雑用を押しつけられたりお弁当を取られたりする事が多いんだもん。
折角総悟君の為に作って来てるのに、食べてもらえないなんて悲し過ぎるよ…
いつも、泣いてしまうのに、銀八先生は止めてくれない。
代わりにカップめんをくれるけど、そんなの総悟君にあげたくないよぅ…

先週取られてしまったから、今週は絶対死守するんだ!

そーっと遠くから様子を伺うと、扉の前に先生は居なかった。

でも、油断してると前を通った時にイキナリドアが開いて呼び止められる事も有るんだよ?
心臓爆発しそうになっちゃうよ…

だから、そーっと近付いて中の様子を伺うと、準備室の中から神楽ちゃんの声がした。
え…?何で神楽ちゃん…?
私の方が先に教室を出た筈なのに…

話の内容を聞いてみると、お弁当が足りなかったのか、神楽ちゃんが銀八先生にカップめんをねだってる…
今がチャンスかも!
足音をたてないように気をつけて、ダッシュで準備室の前を抜ける。
…中から人が出てくる気配は無いよね…
良かったー!


「おい!神楽どけ!カップめんならやるから!パチ恵が行っちまうだろ!」

「銀ちゃん大人なんだからパチ恵泣かせてニヤニヤすんの止めろヨ。」

「ばっか、泣き顔が可愛いんだろ?」

「ワタシはパチ恵の笑ってる顔が好きネ。銀ちゃんの変態。」




国語科準備室という難関をクリアして、屋上に向かって階段を駆け上がる。

今日は良い事有るかもしれない!
唐揚げも上手く出来たし、タコさんもくるんと丸くなった。
総悟君、美味しいって言ってくれるかも…

先週は結局カップめんになっちゃったし、総悟君が慌てて購買でパンを買って来てくれたから一緒に居られる時間も短くなってしまった。
銀八先生、嫌いになっちゃうかも…
今週はいじわるしないでくれたから、これ以上いじわるしないで欲しいな。


ちょっとだけ安心して、これからの時間を想って楽しくなったけど、まだまだ気は抜けない。
次が又難関なんだ。

この階段を上った所には、3年生の教室が有るの。
そう、お兄ちゃん達が待ちかまえてる。

いつもなら、お兄ちゃん達も一緒に、って誘うけど、1週間に1回、今日だけはダメ!絶対!!
だって、お兄ちゃん達と一緒だと、2人に囲まれて総悟君とお話出来ないんだもん…
顔を見てるだけじゃ…やっぱり寂しいもん。
お話したいもん。


壁の蔭からそーっと廊下を覗いてみると、なんだかきゃぁきゃぁと沢山の女の人の声がする。
もうちょっとだけ顔を出して見ると、廊下には沢山女の子が居て、皆手にはお弁当を持っている。
その中心には…
晋助お兄ちゃんと十四郎お兄ちゃん…?

何で今日に限って…?


でも、今がチャンス!

私はそのまま階段を駆け上がって、屋上に向かった。


「おい晋助!何で今日はこんなに女共が待ちかまえてんだ!?」

「…知るか…」

「今日はお弁当無いって聞いたのよ!」

「そうそう、妹さんと一緒には食べないって!!」

「「…誰だそんな事バラしたのォォォォ!!」」