屋上に通じる扉を、総悟君がこっそり渡してくれた鍵で開けて中に入ると、そこには大好きな人が居て、大好きな笑顔で迎えてくれた。
先々週、皆も屋上にやってきて、やっぱり総悟君と全然お話出来なくて。
放課後の屋上で寂しくて悲しくて泣いていたら、科学の源外先生がくれた不思議な鍵を扉に貼りつける。
これが貼ってあると、向こう側からは絶対開かないんだって。不思議…
「パチ恵、今週は無事に来れやしたね。」
両手を広げて待っててくれる…
「うん!今日はラッキーだったんだよ?」
だから、私はその腕の中に飛び込んだ。
皆が居たら恥ずかしいけど、今は2人っきりだから。
ぎゅう、と抱きつくと、抱き返してくれるのが幸せ。
「早速弁当食べやしょうぜー!弁当弁当!」
「お腹空いたね!あのね、今日はね、わかめご飯のおにぎりと、たこさんウィンナと、ホウレン草入り卵焼きと、鳥の唐揚げだよ?」
毎日は作れないから、総悟君の好きなものばっかりなんだよ…?なんて、恥ずかしいから言えない。
ものっすごく甘やかしてるみたいだもん…
「へぇ、俺の好きなモンばっかじゃねェか…愛がこもってる?」
ニヤニヤといじわるな顔で笑ってるけど…2人きりだからもう恥ずかしく無いもん!
「そうだよ?たっくさん愛を込めてるんだから、ちゃんと味わってね?」
…やっぱり恥ずかしかったけど…
でも頑張ってそう言ったら、総悟君が真っ赤になった。
「じゃっ…じゃぁ、頂きやす。」
総悟君が敷いてくれたビニールシートに座ってお茶を渡そうとすると、唇に温かい柔らかい何か…
「…俺も愛、込めたから…」
そっ…そんな事されたら、ただでさえ短く感じてしまうお昼休みがもっと短くなっちゃうよ…っ…
真っ赤になった顔を上げられなくて、その後は2人無言でお弁当をたいらげました…
その頃教室では、神楽と山崎が屋上に仕掛けた盗聴器で2人の会話を聞いていた。
「…相変わらずらぶらぶアルネ。」
「まぁ、一週間に一回だけなんだから、邪魔するなんてヤボだよねー」
そこに現れる、黒い影…
「「「おーまーえーらぁー」」」
銀八と兄ズが今回の邪魔をした者達に気付いて恨み事を言いに来たのだった。
「神楽ぁ〜、おまっ…何で邪魔すんだよ!パチ恵がドSの餌食になんだろが!」
「銀ちゃんがドSダロ。それに、邪魔が入ったらパチ恵1週間しょんぼりネ。ウザいアル。」
ギリギリと大人気なく神楽を睨みつける銀八だったが、神楽はどこ吹く風と気にもしない。
そして、兄ズは山崎に詰め寄って行く。
「やーまーざーきぃーお前は何でだ、言ってみろ…事と次第によっちゃタダじゃおかねぇぞ…」
「…テメェだろ…女子焚き付けたのは…」
「あ、バレました?や、だって好きなコの悲しい顔なんて見たくないし。1日我慢したら、後は毎日俺とチャイナさんで二人占めだし。」
ねー?と首を傾げあう二人に、野郎三人の怒りは増幅する。
「テメェ…ジミ男のくせに俺らに逆らうのかよ…パチ恵の貞操に何か有ったらどうしてくれんだ…」
「そんなのドSが責任取るに決まってるアル。黙れよシスコン。」
鼻をほじりながら、軽蔑のまなざしで晋助を見る神楽に、晋助はニヤリと笑いかけた。
「オメェが言うなよチャイナ娘…神威は元気か…?」
「なっ…バカ兄貴は関係無いアル!」
聞き慣れない名前に他の面々は首を傾げるが、今はそんな事どうでも良い。
「とにかく!勝手に屋上に上がるのはいけませ〜ん。教師として注意してくるんで鍵貸せよ。」
「そうだ。風紀委員として俺も注意を…」
ついでに十四郎も乗っかった。
最近なにかと気の合う二人だが、仲は悪い。
「アソコは開かないネ。源外センセがパチ恵に何かやってたヨ。」
「ジジイー!余計な事を!!」
「銀ちゃん、しつこい男は嫌われるネ。口うるさい兄貴も。」
「「「はぁ!?」」」
「パチ恵言ってたネ。『お弁当取るなんてさいてい、銀八先生の事嫌いになりそう』って」
「そうそうこんなのも言ってたよね、『お兄ちゃん達とお弁当食べると総悟君とお話出来ない』って。その後屋上でずっと泣いてたよね。」
「な…いて…?」
「ずっと…?」
いい加減面倒になった二人は、最終兵器を発動した。
ソレを聞いた三人は押し黙った。
「明日のパチ恵ちゃんのお弁当何かな?」
「今日ドSとらぶらぶしたから、きっとゴーカアル。タコ様ウィンナも入ってるネ!きっと!!」
「あー、良いね。俺は出汁巻卵が良いかなー。後でリクエストしとこうか。」
「そうアルネ!こんなメンドクサイ事してやってんだから、当然ネ!」
ニコニコ笑いながら、二人は明日のお弁当のおかずの話に花を咲かせる。
こうしてパチ恵の平和は護られているのだった。
END
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