日常カタオモイZ



今年いちばんの冷え込んだ朝。
まだまだ先の事だろうなんて油断して冬支度なんてしてなかったから、まだ手袋なんて用意して無くって。
おんなじ高校に通うお姉ちゃんと2人、手に息を吐きかけながら『寒いね』なんて言って登校していた坂道の途中で大好きなクラスメイトを発見した。

「…お姉ちゃん、近藤さん…」
「あら、沖田君が居るわね。」



流石姉妹。
2人とも全然素直じゃないから、お互いお目当てじゃ無い方を指差して微笑みあってしまう。

でも、私の方がお姉ちゃんより少しは素直だと思うよ?
だって私はちゃんとお友達にはなったもん。
お姉ちゃんはまともに名前も呼べなくて、憎まれ口しかきけないんだから。
近藤さんはいつもお姉ちゃんに好きだって言ってくれてるのに、恥ずかしいからって殴り飛ばすのは良くないと思う。
どんな時でも一緒に居てくれるし、いつも見守ってくれてる。

…まぁ…ストーカーとも言うけど、それでもお互い好き同士ならそうじゃなくなるよね?

私だったら…沖田君にそんな事言われたら、嬉しくて泣いちゃうかもしれないよ。



遠くに2人を眺めながら、はぁっ、と冷えた手に息を吹きかける。

「…八ちゃん…私頑張ってみようかな…」

目を合わせてニヤリと笑ったお姉ちゃんが走り出すんで、私もニヤリと笑って走り出す。
前を歩く2人に後ろから駆け寄って、すれ違いざま声を掛ける。
勿論、それと同時に冷えきった両手を頬っぺたにくっつける事も忘れない。


「沖田君、おはよっ!」

「私の前を歩かないでよゴリラ。」

「「冷た攻撃!」」

「「ふぎゃっ!?」」


あはは!男の子2人もおんなじ反応。
驚いて目を丸くしてる表情が可愛い!

イタズラが成功した事が嬉しくて、きゃらきゃらと笑いながらお姉ちゃんと2人走って逃げる。
沖田君はドSだから、きっと仕返しされてしまうもん。
でも、そうしたらいつもよりいっぱいお話し出来るから。
早く追いかけてきてくれないかな…

走りながらそっと後ろを振り返ると、2人は頬っぺたを押さえたまま1歩も動いて無い。
…あれ…?どうしよう!怒らせちゃったかな…

「お姉ちゃん…」

私と同じように振り返って様子を見ていたお姉ちゃんに声を掛けると、走るスピードが更に速くなる…え…?

「大人しくなって清々するわ。」

…そんな事言ってるけど、泣きそうだよ?お姉ちゃん…
私もスピードを上げて付いて行こうとすると、お姉ちゃんに向かって何か黒いモノが飛んでくる…何っ!?

「おったえさぁーん!もう!!突然可愛らしい事されたら心臓止まりましたよ!!!お妙さんの愛、この近藤勲、確かに受け取りブバッ!!」

「愛なんかじゃありません!嫌がらせです!!」

飛んできた黒いモノは近藤さんで。
お姉ちゃんに抱きつこうとしてぶっ飛ばされた。

「…お姉ちゃん、顔真っ赤だよ?」

「そんなのっ…寒いからよ!寒いから!!そんな事より八ちゃん早く沖田君に謝ったら?怒ってるんじゃない?アレ。」

お姉ちゃんの指さす方を見てみると、未だに固まったまま動いて無い沖田君。
すっ…凄く怒ってるのかな…?
もう…話しかけてくれなくなったり…


「しぃーむぅーらぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

地の底から響いてくるような低音は…おっ…怒って…
怖くなって走り出した私を、あっと言う間に掴まえた沖田君は、私なんか問題にならないくらい冷たい手をそこいらじゅうに押し当ててきた!

「うわーん!ごめんなさいぃぃぃぃちょっとしたイタズラのつもりだったのー!」

「俺にイタズラするなんざ100年早ェんだよ。」

ふふん、と勝ち誇って見下してくる顔ですらカッコいいとか…反則だ…
負けた感いっぱいで、唇を噛んで俯くと、突然沖田君が私の手を握り締める。
なっ…!?

「おきっ…」

「予鈴鳴ってっけど?遅刻するかィ?」

「それは嫌っ!遅刻したら銀八先生に雑用押し付けられるよぅっ…凄く遅くまで国語科準備室の掃除させられて、下手したらそのまま銀八先生の家の掃除までさせられるんだよー?ご飯食べさせてくれたりもするけど、ヤダー!」

「…走りやすぜ。ってかソレ、訴えたら勝てるんじゃね?」

「そうなの?」

「多分。」

そのまま思いっきり手を引かれて今迄出した事も無いようなスピードで私は走らされた。
おかげで遅刻はしなかったけど、もう2度と沖田君にイタズラするのは止めようと思いました。

…手を繋げたのは嬉しかったけどね…