昨日クラスメイトの志村パチ恵にくだらない悪戯をされてから、俺の頭の中はヤツで一杯になった。
寝ても覚めても24時間事あるごとに、寒さで真っ赤に頬を染めた笑顔が浮かんでくる。
その度に心臓がバクバクと騒ぎだし、顔はだらしなく緩んでしまう。
その上、話に聞いた担任の所業を思い出す度に、イライラと怒りが湧いてくる。

コレは一体何なんでィ!?
志村、アイツコテンパンに仕返ししてやったから俺に呪いでもかけやがったのか?生意気な。
珍しくこの俺が友達認定してやってるってェのに何だってんだ。
明日はもっと苛めてやらァ!

そう思うとちょっとだけスッキリして、姉ちゃんが観てるドラマを暇つぶしに一緒に見る。
いっぱしの男が、恋だ愛だと情けねェ。
何が面白いんだ?こんなの…

『僕、恋に落ちちゃったよ!これが恋なんだよ!!』

へぇーえ。

『もうさぁ、寝ても覚めてもあのコの顔ばっかり浮かんじゃってさ!』

…ずっと顔が浮かぶ…?

『なんかもう、本物見ちゃったらキラキラ光って見えるんだよ!目がおかしい訳じゃ無いよ!!』

…疲れ目だろ…?
だって俺、昨日沢山目薬点したら治ったぜィ…

『心臓はバクバクうるさいしさー』

…走ったからじゃね…?

『顔にも血が上って来ちゃって大変なんだよ!』

…寒いからだろ…

『話しかけられたりしたら大変だよ!天使の声に聞こえるもん。』

…アイツ、声だけは良いし…

『返事しようとしたら、緊張して噛んじゃうしさー!』

………それは………

『恋だよ!』

ブチっとテレビの電源を切ると、凄い笑顔の姉ちゃんに拳固をくらった。

恋…?
いやまさか俺に限って。
それもよりによって志村パチ恵?
無い無い無い!
だってアイツ眼鏡が本体じゃん。
ぜんっぜん好みじゃ無ェし!
友達だし!!

…そんな…まさか…

その晩、にこにこと可愛らしく笑う志村が好きですと告白してくる夢を見た。
俺ァ…嬉しかった気がする…



「沖田君、おはよっ!」

「…おう…」

朝イチで聞こえてきた声は、耳に心地よくてずっと聞いていてェ。
ふわりと俺を追い越していく時に、何か良い匂いがした。
振り向いてにこりと笑う姿はキラキラと輝いて見えらァ…スゲェ可愛い…

って!何考えてんでィ俺!!

「そんなゆっくり歩いてたら遅刻しちゃうよ?銀八先生の雑用押し付けられちゃうよ!」

小さな手が俺の手を掴んで走り出す。
そこから熱が俺の全身を駆け廻って脳味噌をおかしくする。

「おりぇは遅刻したって別に…」

…噛んだ…

「沖田君、銀八先生を嘗めてるでしょ?面倒くさいんだよ?」

振りほどこうとした手を更に強く握られて、俺の頭は爆発しそうになる。
仕方ないんでそっと握り返すと、その手はちっこくて柔らかくて何かがすとんと心に落ちて来た。
それと同時に、走ったせいだけじゃなく心臓がバクバクと騒ぎだす。


…そっか…コレが恋に落ちる、ってヤツか。
思いの外悪い気はしないモンでィ。


繋いでる手をグイッと引っ張ってやると、勢いで俺の腕の中に飛び込んでくる。
ぎゅうっと抱きしめてみると、スゲェ柔らかくて気持ちい…

「…きもちい…」

「なっ…なっなっなっ…!?」

「べっつにー。遅刻すんじゃねェの?走らねぇの?」

「走るよっ!沖田君が引っ張って…」

今度は俺が手を引いて走り出すと、真っ赤に染まった顔が可愛い。
もっともっと近くで見ていてェ。色んな所。
色んな声も聞きてェし、色んな所触りてェ。

志村は俺の事どう思ってるんだ?
こんな赤い顔で目ェうるうるさせて俺を見るなんざ、脈アリですかィ?
まぁ、どっちにしたってすぐに手に入れてやらァ。
覚悟しなせェ、逃がさねェから。





2日続けて沖田君と手を繋いで登校出来たなんて嘘みたい!
…まぁ、手を繋いで、って言うより、引っ張られて、って表現の方が正しいんだけど…
おかげで2日とも遅刻しないで済んだんで、銀八先生に雑用を押し付けられる事も無く、手袋も買う事が出来た。

あの後から沖田君の様子がちょっとだけおかしい。
いつもより優しくて、ドキドキが納まる暇が全くなくって、私はきっと1日中真っ赤な顔をしていたに違いない。
その上家に帰ろうと教室を出る前に、そっと近付いてきた沖田君に

「志村、今晩おやすみメールしろよ?」

なんて囁かれたら…私は酷く期待してしまうよ…
もしかしたら、沖田君も私の事想ってくれているんじゃないか…なんて…

それなのに、期待に胸膨らませて約束通りにおやすみメールを送った私に、沖田君からの返信は無い。
ずっとずぅーっと返事を待って、何回も携帯を開いても、メールマークは付いてなくって…

昨日の冷た攻撃の仕返しだったのかなぁ…?
明日には『え?何?マジでメールしてきた?』とか言って苛められるのかなぁ…?

不安になってちょっと涙が零れた時、沖田君専用のメール着信音。
ちょっと怖いけど、やっぱり嬉しくて震える手でメールを開くと

『おやすみ(ハート)』

思わず携帯をベッドの上に落として慌てて拾う。
何回見直して見ても、それは変わらない。
…はーと、って事は…嫌われてはいないんだよね?
好き…なんて想うのはずうずうしいかな?
でもでも!はーとマークなんて普通付けてこないし…

あわあわしていると、又、普段は聞かない着信音。

『(ハート)はそういう意味だから。
又明日な。』

そっ…そういう意味って!?
そういう意味って…私の良いように考えちゃって良いのかな…?
あっ…明日!明日聞いてみよう!!
本当は今日聞きたいけど、メールとか電話じゃ嫌だから!

明日逢えるし…ね?

もしかしたら、すぐに夢で逢えるかもしれないし…ね…?
逢えると良いな。

私は夢でも逢えるように、こっそり山崎君に貰った沖田君の写真に、おやすみなさいと声を掛けてベッドに潜り込んだ。



END


hyadain/kakakatakataomoi

色々萌え滾ったのに、中々形に出来なかったです。
日常のアレです。