恋とは中々…



俺がおかしくなり始めたのはここ最近の事で。
今迄やってらんねェと思ってた筈の見廻りが、凄く待ち遠しくなり始めたり。
出来れば近寄りたくねェと思ってた貧乏道場に、毎日ゴリラの回収に通ったり。
関わるだけでイラッとする筈の万事屋を見付けっと、話しかけちまったり。

…眼中になんか全然無い筈の眼鏡を見付けたら、嬉しくなったり…
笑いかけられたら心臓が壊れそうなくらい騒ぎ出したり…
声聞いちまったら、脳味噌真っ白になっちまったり…
偶然触っちまったら、そっから物っ凄ェ熱くなったり…
いちんちじゅう、寝ても覚めても眼鏡が頭ん中ぐるぐるして。
幻覚や幻聴が襲ってきたり…
それでも嫌な感じはしねェで…何か嬉しくって…

とうとうおかしくなったと思って近藤さんに相談したら、スゲェ嬉しそうに笑ってその日の晩は赤飯を炊かれた。

近藤さん曰く、ソレは『恋』なんだそうで。
俺みたいに若い時は、どんどんアタックしていくと良いんだそうで。

…あたっく、って何だ…?

よく判らないまま見廻りの途中のコンビニでじゃんぷとさんでーとまがじんを立ち読みしたら、更に判らなくなった。
『恋』ってのは、偶然エロい事する事なんですかィ…?
そんな事あの眼鏡に…物っ凄ェしてェ…
でも、アイツそこら辺堅そうだからなぁ…んな事したら嫌われそうだ。

そんなん思いつつ、いつもの見廻りの時間になったんで大江戸ストアの前を通ると、いつもの通りに重そうな荷物を抱えた眼鏡が居た。

「よう、眼鏡。今日もパシリですかィ?」

「沖田さんっ!買い物ですから!!人聞きの悪い事言わないで下さいっ!!」

「じゃぁ間違わないようにメイド服着ろィ。」

「イヤ、意味分かんないですからっ!」

もぅ、と言いつつ膨れる顔を見ると、心の中がふわっと暖かくなる。
あの柔らかそうな顔に触ってみたくなる。
…まぁ、触ったりなんかしたら心臓壊れるからしねェけど。

いつもみたいに重そうに抱えてる荷物を奪い取って歩きだすと、慌てた眼鏡が小走りで俺に着いてくる。
そんな他愛ない仕草も俺の心臓をドキドキと騒がすなんざ、本当はコイツ俺の寿命を縮めようとしてんじゃねェか?

「あのっ!沖田さん…いつも有難う御座います…」

「今日は自宅ですかィ?」

「あ、イエ、万事屋です!」

…ちぇ…自宅だったら茶ァ飲ましてくれんのに…
万事屋に行くよりも、ちっとだけ長く一緒に居られんのに…
仕方ないんで、眼鏡に歩調を合わせるフリしてゆ〜っくり歩く。
そうしたら、間が持たねェ眼鏡が色んな事話してくれる。

今日有ったたわいのない事とか。
姐さんの自慢話とか。
ムカつく万事屋の話とか。
眼鏡自身の話とか。

それがなんだかくすぐったくて、得した気分になって嬉しい。
ふんふん、と相槌を打って聞いてっと、眼鏡も楽しそうに話をしてくれる。
それが幸せで楽しくて…あたっくなんて…恋なんてしねェ方が良いんじゃねェかなんて思っちまう。
エロい事しなくたって、俺ァ…

楽しい時間はすぐに経っちまって、万事屋の前まで来ると、はい、サヨウナラ。

「あのっ…あの、有難う御座いました!…明日も…見廻りですか…?」

「おう、俺ァ毎日見廻りしてまさァ。真面目ですからねィ。」

「ウソばっかり!知ってますよ?よくサボって銀さんと一緒に駄菓子屋さんとかお団子屋さんに居る事っ!あんまり銀さんに甘いもの食べさせないで下さいね?あの人、糖尿予備軍なのにすぐに私の目を盗んで甘いもの食べてるんですからっ!」

…なんでィ…
まるで嫁さんみたいな台詞じゃねェか…
怪しいとは思ってやしたけど…こんなん聞かせられたら…
俺ァガラスのSなんでィ…

「そんなん…アンタがしっかり掴まえときゃァ良いじゃねェか…」

「へっ?そんなの…」

「んじゃァ俺ァ見廻りの続きが有りやすんで…」

「あ…」

眼鏡がまだ何か言いたそうだったけど、俺ァこれ以上は耐えられそうに無ェ…
逃げるように万事屋の前から立ち去って、絶対ェ振り返らねェ。
万が一にでも旦那が一緒に居たらなんて、想像しただけでも耐えらんねェ。

そのまま屯所に帰って部屋に籠ってフテ寝してっと、早番が終わる頃ドヤドヤと俺の部屋にオッサン達が集まってくる。
…何だ…?

「お〜い総悟ぉ〜恋しちゃってんだって?」

「アレだろ?万事屋の眼鏡だって?あの娘イイよな〜」

「そうそう!可愛いしおっぱいデカいし!」

「仕込めば何でもしてくれそうだよな〜、初心そうだし。」

…デレデレと汚ェ笑顔で好き勝手言いやがって…
もぞり、と布団から起き上がって睨みつけると、手に手に何か本を持ったオッサン達が良い笑顔で酒を掲げる。
あ…鬼嫁…あっちは美中年…

決して酒に釣られた訳では無ェが、俺ァオッサン達の悪ふざけに付き合ってやる事にした。
まぁ俺ァ大人だから?
構ってやるって言うか?
たまには交流を深めてやるって言うか?

…そんな軽い気持ちでオッサン達を受け入れるんじゃァ無かった…
ニヤニヤ笑った悪い大人達に、俺は一気に大人の階段を上らされた…
いらん知識ばっかり四方八方から吹き込まれて。
経験なんか皆無だってェのに、知識ばっかり…それもマニアックなヤツばっかり教えられて…
もう眼鏡を邪な目でしか見らんねェ!
明日逢っちまったら、想像しちまったハダカにしか見えねェよ!!



そんなんで一晩中変な事考えちまって、あんまり寝れねェで。
見廻りの時間までちょっと昼寝でもしようかと立ち寄った公園で、俺ァとんでも無ェモンを見付けちまった。

…アレ…?
妄想の具現化…?

「おっ…沖田さんんんんんんん!?」

ソレは、着てる服と同じぐらい顔を真っ赤に染めた眼鏡で…
きわどいスリットが入ったチャイナドレスに身を包んでた。


……
………
なんっだアノたわわに実った我儘ボディ…
既に凶器でさァ!
最終兵器でさァ!!
昨日教え込まれたいらん知識が総動員で俺の頭と股間を攻撃してくらァ!
落ち着け!落ち着け俺!!