恋ぷらす勇気いこーる青春



それは、高校受験の日。
それなりに頑張ろうと早目に家を出て、真っ直ぐ学校へ向かってた筈なのに…コレは何なんでィ…
俺の前方から、調子っぱずれな歌が聞こえてきやがる…
そのゴッドボイスは、無理矢理詰め込んだ受験勉強が全部飛んでいっちまいそうな勢いで…

「あー!止めろ!!脳味噌に詰まった知識が飛んでいっちまわァ!!!」

俺が叫ぶと、前に居た女がビクリと跳ねて、そろりと俺の方を振り返る。
………何…でィ…
今にも泣き出しそうな眼鏡女がキラキラして見える。
ゴッドボイスで俺の頭、おかしくなっちまったんじゃねェのか…?

「あっ…あの…ごめんなさい…でも…あの…今から受験に行くの…怖くって…」

…声も可愛い…

…って!?何だソレ!?
コイツが可愛いって!?

「…あの…?ごめんなさい…」

何だ?コイツ…ビクビクと怯えてるってェのに、動かなくなった俺を心配してんのか…?
いきなり怒鳴りつけたのに?

動かないし喋らない俺を不審に思ったのか、首を傾げながら、とてとてと俺の前までやってくる姿がスゲー可愛い。

って!何だコレ!?
心臓がドキドキして煩ェ…
まさかコレが…ヒトメボレ…?

イヤイヤまさか!俺に限ってんな事有る訳がねェ!!

そう思ってじーっとソイツの顔を見ていると、ドキドキが酷くなって、顔に血が上ってきて暑くなる。
信じたくねェが…コレはアレだ…ヒトメボレだ…違いねェ…
はぁ…一瞬で変わる事なんて、有るんだねェ…
俺に限ってそんな事有る訳無ェって思ってた。

ずっと黙って固まってる俺を、心配そうに覗き込む顔が又可愛いじゃねぇか。
でっかい目、一杯に涙を溜めちゃってまぁ…
そんな面…俺に見せるなんて、馬鹿だねィ…苛めたくなっちまうぜ?

グイッと手を掴んで歩きだすと、ソイツがあわあわと慌てだす。

「あのっ!何する…」

「…怖ェんだろィ…?手ェ繋いでたら怖く無くなるんじゃねェか?」

ニコリと笑ってやると、ソイツの顔が真っ赤に染まる。

「へっ…?あっ…!はい!怖くなくなりました!」

嬉しそうに笑う姿は花が咲いたようで…
ヤベー…心臓飛び出しそーだ…

「あっ…あのっ…!私、銀魂高校に向かって…」

…マジでか…こんな偶然…運命じゃね!?

「大丈夫でさァ、俺も銀魂高校でィ。」

「え…先輩…」

「俺も受験生でィ。」

「そうなんですかっ!?凄い!心強い!!」

それだけの事ですっかり警戒を解いたソイツは、俺に手を引かれたままペラペラと良く喋った。
さっき歌ってたのが、アイドルの寺門通の歌だとか、銀魂高校は家から近いから頑張ったんだとか。
へぇ、とかふーん、とか相槌をうちながらも、俺にとってはそれどころじゃ無くて…
さっきからずっと、ぎゅうと握り返されてる小さな手が、柔らかくて…きもちくて…話なんて頭に入ってこねェ…

そんなこんなしてるとすぐに銀魂高校に着いちまって、その小さな手はもう一回ぎゅうっと握られて離れていった。

「…じゃぁな。」

「はい!有難う御座います!!あのっ…お互い頑張りましょうね…?」

「おう、又逢えると良いな。」

せめてもの次の約束で、そんな事しか言えねェなんざ…俺らしくねェ…
でも…今の俺はそれでもいっぱいいっぱいで…
恥ずかしそうに微笑んで、コクリと頷いて走って行っちまうその娘を見送るしか出来なかった…

もうこうなったら、なんとしてでも銀魂高校に受かって、あの娘と薔薇色の高校生活を送るしかねぇだろ!
俺は力を込めて、受験会場に踏み込んだ。



そんな意気込みが通じたのか、姉さんの言うようにやれば出来る子だったのか。
俺はかなりの好成績で銀魂高校に入学した。

入学式には、ひどく張り切った姉さんが、会社を休んで一緒に行くと言う。
…受験の時のあの道で、あの眼鏡っ娘を待ち伏せしようと思ってやしたが…
それは明日以降にしよう。
姉さんが折角楽しみにしてくれてんだ、そっちが優先に決まってらァ!

久し振りに二人並んで歩くと、ちょっと恥ずかしい。
でも、目茶苦茶ウキウキしてる。

「そーちゃん良く頑張ったわね。私、鼻が高いわ。」

本当に嬉しそうに姉さんが笑ってくれると、俺も自然と笑顔になる。

「はい、僕頑張りました!」

頭を撫でられると、恥ずかしいけど嬉しくて。

「高校生活ちゃんと楽しむのよ?可愛いガールフレンドとか出来ちゃうかしら…そうしたら、ちゃんと教えてね?」

「はい!僕頑張ります!」

そんな事話しながら歩いていると、すぐに学校に着いてしまう。
玄関で姉さんと別れて、クラス発表が張り出して有る所で自分のクラスを探しながらあの娘の名前も探す…って名前知らねェや…
キョロキョロと辺りを探してみるけど、あの眼鏡もおさげも見付からない…
…受かったよな…アイツ…俺でも受かったんだ…

担任の指示で入学式が始まる前に体育館に行って並んでいると、隣のクラスの列に俺の天敵のチャイナ娘が居た…

「テメードS!受かったのかヨ!?」

「オメェも馬鹿のクセに良く受かったな。」

ガンを飛ばしあって、ザッと距離を取って構えると、慌てたような声が俺らを止める。

「神楽ちゃんっ!喧嘩はダメだよぅ!!」

…!?…この声は…

「パチ恵、止めんなヨ!これは宿命の闘いアル!!」

「そんなん無いからっ!!」

チャイナから距離を取ってそっと横を見ると、やっぱりあの眼鏡っ娘だ!パチエ…って名前なのか…?
ヤベェ…心臓がドキドキしてきた…久し振りに見てもやっぱり可愛い…
すぐに俺に気付いて可愛らしく笑うんだろう。
ちょいとキメ顔を作って待ってんのに、パチエはチャイナに説教を始めて俺を見ちゃくれねェ…

「…おい…」

ちっとムカついて声を掛けると、ビクリと身体を揺らして思いっきり頭を下げる。

「すいまっせーん!私達前の方に行くんで!じゃあ!!」

…俺の事、見もしねェ…
そのままチャイナの手を掴んで、引きずって行っちまった…
あ…ヤベ…すげェ落ち込んだ…俺ァ、ガラスのSなんでィ!
もっと劇的な再開を期待してたってェのに、これじゃぁ最悪じゃねェか…まぁ、だからって、こんなんで諦める俺じゃねェ。
チャイナと同じクラス、って事ァ結構逢えるよな。
闘いはこれからでィ!
絶対ェ振り向かせてやるぜィ!!



…そう心に決めたってェのに、中々アイツと逢う事は出来なかった。
志村パチ恵、そういう名前だって事だけは、なんとか調べたんですがねィ…

チャイナとカチあって喧嘩になっても、アイツは俺の事なんざ見向きもしないで俯いて走って行っちまう。
一回腕を掴んで止めたら、涙を一杯溜めた目で謝られた。
…俺ァ…怖い奴、とか思われてんのかねィ…
そんな風に脅かしたくないから、あんまり声もかけらんねェ。

だから、授業中窓際を良い事に体育の時間のアイツを見つめんのが精一杯で。
…ってか何だ!?アノ凶器…デカ過ぎるだろ…胸…
ずっと見ていてェけど、俺の息子が黙っちゃいねェ。
銀八っつあんでも見て落ちつけようと前を向くと、バサリと教科書が落ちてくる。

「沖田君〜、先生授業やってんだけどね〜…何?神楽見てんの?」

「…何であんなモン見なきゃならねェんでィ…」

「ま、誰見てても良いけどさ〜今は先生見るように。」

もう一回、ペシリと教科書で頭を叩かれると、クラスのヤツラが笑う。
チッ…仕方ねェ…授業受けとくか…

その後はアイツを見かける事も出来なくて…
いつまでも学校に居たってしゃーないんで、姉さんに頼まれたモンを買いに大江戸ストアに寄った。