そーして、僕らは、家族になった。

ACT9 蜜月タイム


沖田君と、こっ…恋人になってからは毎日が楽しくて!
あんなに悲しかった気持ちがウソみたいに景色までキラキラして見える!!

クラスが離れちゃってても、沖田君が休み時間ごとに私のクラスに遊びに来てくれたり、お昼は屋上で一緒にお弁当食べて…たまーに私がお弁当作っていったりすると、すっごく喜んでくれて、美味しい、って食べてくれる。
その時の笑顔がいつもより何倍も優しいから、本当は毎日お弁当作って行きたいけど…
私のお小遣いだけじゃ、毎日なんて無理だし…アルバイト…しようかな…?
放課後は、沖田君は剣道部が有るから毎日は一緒に居れないし…その間にちょっとなら…大丈夫だよねっ?

明日は剣道部の試合が有るから、今日は久し振りに放課後沖田君と一緒に帰る事が出来た。
いつものように大江戸ストアに寄る前に、ちょっとだけ公園でお話しする。でっ…でーとだよね…?これ…
丁度良いんでアルバイトの事を相談してみると、一気に沖田君の機嫌が悪くなる。
なんで…?

「パチ恵がバイトなんてする必要無ェよ…」

「だって…毎日沖田君の笑った顔見たいよ!」

「あー…何口説いてんでィ…」

私が一生懸命反論すると、真っ赤に顔を染めた沖田君がぎゅうっと抱きしめてくれる。
うわっ!こんな…外なのに…っ!
でも、すっごく安心する…
そっと沖田君の胸に体重を預けると、トクトクと心臓の音が聞こえてくる。
ドキドキ…してくれてるのかなぁ…?

「パチ恵の弁当はスゲェ美味いけど…お前さんに無理させるんならそんなモンいらねェ。バイトになんか行かせて、悪い虫がついたら大変でィ!」

お兄ちゃん達やお父さんと同じ事を言う沖田君がおかしくて、くすくす笑うと更にぎゅっと抱き込まれる。

「笑い事じゃ無いんですぜ?他の奴に取られねェかと俺ァ毎日心配してんだぜ?」

「だって、お父さんやお兄ちゃん達と同じ事言ってるんだもん…」

「…ちぇっ…」

少し離れて膨れた顔を覗き見ると、凄く可愛い…
えへへ、と笑うと膨れたままの顔が近付いてくる…あ…
そっと目を瞑ると、凄く近くに沖田君を感じる。
幸せ…だな…

「そぉぉぉぉぉぉぉぉぉごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

もう少しで唇が重なるタイミングで、地の底から響いてくるような低音が邪魔をする…又…なの…?
それでも私が近付こうとすると、2人の間に掌が入り込んでくる。

「…沖田…すぐに離れろ…」

両側からグイグイと引っ張られると、頑張っても引き離されちゃうよぅ…

「お兄ちゃん達の意地悪っ!離してよぅっ!」

「…意地悪じゃ…ない…」

「大事な大事なパチ恵に悪い虫が付いてんのは見過ごせねぇなぁ…」

「悪い虫じゃないもんっ!こっ…恋人だもんっ!!」

「「認めてねぇし」」

私が反論しても全然聞いてくれなくて、ぐいぐいと引っ張られて沖田君と引き離される。
そんな…久し振りに沢山一緒に居れるのにっ…

「なんでィ、負け犬の遠吠えですかィ?恋人達のヒトトキを邪魔しねェで下せェ、お義兄さん。」

これでもか、ってぐらいのどや顔で沖田君がお兄ちゃん達を見ると、すぐに頭に血が上った2人が私の手を離して沖田君に掴みかかろうと駆け寄っていく。

今だね?

目くばせをしてくれたタイミングで私が駆けだすと、一瞬怯んだお兄ちゃん達が沖田君を掴む手を私に向ける。
でも、もう捕まらないもん!
その隙に沖田君も走り出して、私の手を掴んで一緒に公園を抜ける。

「ごらぁぁぁぁぁ!パチ恵はいつからそんな悪い子になったんだぁぁぁぁぁっ!」

「…パチ恵…俺達を…見捨てるのか…?」

お兄ちゃん達が私を責めてくるけど…ここで流されたら又邪魔されちゃうもんっ!

「ごめんなさいお兄ちゃん…でも、買い物したらちゃんと帰るからっ!」

そう叫んで、全速力で走って逃げる。
暫く走って後ろを振り返ると、そこにお兄ちゃん達は居なかった。

「…大江戸ストアは待ち伏せされてやすかねェ…」

「うん…」

「んじゃ、タイヘーに行きやすか。そっちのが遠いし…少しでも長く一緒に居てェ…」

「…私も…」

えへへ、と笑い合って、手を握り直して少し遠いスーパーまで買い物に行った。

今日の坂本家の晩ご飯のおかずと、明日の試合の時の沖田君とお兄ちゃん達のお弁当のおかずを選ぶだけなのに、2人だとすっごく楽しい。

「沖田君、何が食べたいですか?」

こくりと首を傾げて聞いてみると、沖田君も首を傾げる。
わぁ…!可愛いっ!!

「んー…パチ恵の料理は何でも美味いけどなァ…鳥の唐揚げが絶品でさァ。」

「そっ…そうかな…?」

「おう、大好きでさァ。後は握り飯が有れば最高でィ。」

「それで…良いの…?もっと他にも…」

私が言い募ると、沖田君がにこりと笑う。

「無理すんなって言っただろィ?バイトなんかに出られたら気が気じゃねェや。」

「…うん…そこまで言うなら、アルバイトはしないようにする…」

大好きな人に、そんなに心配…かけたくないよ…
私が諦めると、沖田君が綺麗な顔で笑ってくれる。
それだけでこんな風に笑ってくれるなら、毎日のお弁当は諦めよう…

でも、明日は特別だからっ!
鶏肉をいっぱい買って、鮭フレークも買って、しそ昆布も買って。
美味しい唐揚げとおにぎりをいっぱい作るんだ!
お兄ちゃん達も明日のお弁当一緒になるから…今日はお刺身にしてあげよう。
…お弁当のリクエスト…焼き魚だったから…