そーして、僕らは、家族になった プロトタイプ



ウチの親父はダメ人間だ。
社会的には立派な会社の社長なんてやってるが、男としては、ダメ人間だ。
本妻の他に愛人を何人も作りやがって、それぞれに子供を作りやがった。

そういう俺も、愛人の子供なんだが…

俺のお袋は、俺が小学生の時に死んだ。
別に、貧乏してて心労が祟った、って訳じゃねぇ。
親父は、金だけは十分過ぎる程毎月毎月俺たちに寄越してやがったから…
寄越し過ぎて、お袋はしょっちゅう海外旅行に出かけてて…
その中のたった1回の事故で、ビックリするくらいあっけなく逝ってしまった。
後に残ったのは、俺の為に買って送られた土産の品だけで…

何処にも行く宛の無い俺は、親父の屋敷で一緒に暮らすようになった。

愛人の子の俺が暖かく迎えられるなんて思って無かった。
苛められても仕方ないと思って覚悟もしていた。
なのに、本妻って人はスゲェ良い人で…俺を我が子みてぇに大事に育ててくれた。
…俺は、その母さんが大好きだった。
本当に、本当の母さんだと思っていた。

それなのに、そんな母さんも俺が高校に入ってすぐに死んだ。
元々そんなに体が丈夫じゃ無かったから…俺を育てて疲れたのかもしれない。

でっかい屋敷に1人っきりでの生活…
俺はソレが嫌で、学校の近くにアパートを借りて移り住んだ。
親父は相変わらず金だけはどんどん出してくれたから。

たまに居なくなったけど、気風が良くて優しかったお袋。
凄く優しくて、でも厳しくて、辛い時は必ず一緒に居てくれた心の拠り所だった母さん。
2人とも、俺なんかと関わったから死んじまったんじゃないかなんて考えに取り憑かれて、俺は荒れに荒れた。
毎日が喧嘩三昧で、他校にも俺の悪名は響き渡った程に。

その内、喧嘩喧嘩でボロボロになった俺を見かねて、親父は小さな一軒家に俺を移した。
ソコには、俺意外にも腹違いの兄弟、ってのが1人住んでいて…

「…テメェ高杉…こんな所でなにやってんだよ…」

「…テメェこそ何やってんだよ土方…」

最悪な事に、ソイツは今一番の俺の敵、高杉晋助だった…

そういやぁ、高杉も俺と似たような境遇だって話は聞いたことが有った。
でも、なんで、よりによってコイツなんだ…最悪だ…

当然、同じ家に住んでるからって話をする事なんかありゃしない。
…でも…1人っきりじゃない、誰かが居る家、ってのは思ったより居心地が良くて…安心できて…
俺たちは、お互いが居る生活に、少しだけ慣れていった。



そんなある日、俺たちの家に親父がもう1人子供を連れてきた。
珍しく、2人ともが家に揃っている日だった。

長い髪を三つ編みにして、眼鏡をかけた小さな女の子…

「晋助ー、十四郎ー、今日からこの娘もココで一緒に暮らすきに。おまんらの妹じゃー可愛いじゃろー?」

物凄く自慢げに、親父がその子供の頭を撫でる。
子供は嬉しそうに、親父を見上げてにこにこと笑う。

「はぁ?妹!?テメェ何人と浮気してやがった!?他に何人隠し子居るんだよ!?」

「子供はおまんら3人だけじゃー。皆可愛くてのー!1人に絞れなかったんじゃ。」

「『絞れなかった』じゃねぇよ!駄目だろ!大人として!!」

「十四郎は怒りんぼじゃのー…そんな顔しとったら八恵が怖がるぜよー!」

「は!?」

俺たちがジロリとバカみたいに笑ってる親父を睨みつけると、しっかり親父に隠れてこっちを覗いてた小さい女の子がビクリと震える。
それでも俺たちと目が合ったソイツは、にっこりと、まるで花が咲いたように笑った。

ドクリ、と、心臓が騒ぐ。
その上顔に熱が猛烈に集まる。
なんだ…?これは…

チロリと隣の晋助を盗み見ると、ヤツも毒気を抜かれたような顔で呆然とその子供を見ていた。

「初めましてこんにちわ。坂本…あ!近藤ぴゃちえ…あう…ぱちえ…ああんもう!はちえ…近藤八恵と申します。今日からお世話になります!」

物っ凄い勢いで噛みまくってやがる…ぱちえ…って呼んでやろうか。
ってか、妹なんじゃねぇのか…?

「…近藤…?」

「はい!お母さんが再婚したので、近藤になりました!」

結婚したなら、なんでこんな所に来たんだ…?
…あぁ、そう言う事か…

「…苛められたのか…?新しい父親に…」

晋助も同じ事を考えていたのか、物騒な気を撒き散らして八…パチ恵に迫る。

「そんな事全然無いですっ!近藤さんはすっごい良い人で、私がこっちで暮らす、って言ったら泣いて引き留めてくれました!近藤さんの事悪く言わないで下さい!!」

…大人しい子供かと思ったら…意外と芯は強い…
思わぬ反撃を受けて睨みつけられた晋助が、ニヤリと笑って一歩前に出る。

「…なら…なんでこんな所に来た…?」

スッとパチ恵の顎を掬って上を向かせる。
まさか、女に…それも、こんな子供に手を上げるのか…?

「お母さんは近藤さんと幸せになるから良いけど、お父さんは今ひとりぼっちだって聞いたんです!だから、私が一緒に居たら寂しくないかな、って思ったんですっ!それに…新婚さんの邪魔になっちゃうんです、私。」

能天気にえへへ、と笑う顔が可愛い…
って、何考えてんだ俺!?

ブルブルとおかしな考えを振り払うように首を振ると、隣で晋助も首を振ってやがる。
…思考回路が同じってのは頂けねぇ…

「八恵は良い子じゃのー!よし!父さんも今日からココで一緒に暮らすぜよ。親子4人で仲良く暮らすんじゃー!」

親父がぎゅうぎゅうとパチ恵に抱きついて、バカみたいに笑いながらバカな事を言う。

「ちょっ…待て!今更何言ってやがる!」

「…オイ…ふざけんな…」

俺と晋助が詰め寄ると、能天気な笑顔が2つ、俺たちを見る。

「怖い顔するなやー…お、そういえば紹介がまだじゃったのー!あっちのな、片目隠しとる方が晋助、高3じゃ。で、こっちの瞳孔が開いちょる方が十四郎、高2じゃ。2人とも顔は怖いけど、優しい子ぉじゃきに、八恵安心して良いぜよー!」

「はい、お父さん!えと…よろしくお願いします、晋助お兄ちゃん、十四郎お兄ちゃん。」

にっこり笑った可愛過ぎる笑顔が近付いて来て、俺たち2人に抱きついて離れていく…

お、珍しい。
晋助が赤くなって固まっていやがる…って、俺もだけどな。