鬼姫とうぃーむっしゅ王子



きっ…昨日は危なかった…危うく流されちゃう所だったよ…
しっかりしなきゃ!
そりゃぁいつかは…だけど…
まだ早いよね!うんっ!!


今日…顔合わせ辛いなぁ…でもでも、沖田君はそんな事引きずってないよね!
ちょっと不安だったけど、普通に学校に行って教室に入ると、沖田君が皆の中心で何か話をしてる。



「…っていう夢を見たんでさァ!」

おぉっ!とか男子が騒いでる…夢のお話…?なんだろ…?

「おはよう、沖田君。楽しい夢を見たの?」

私が笑って挨拶すると、なんでか皆目を逸らす…え…?何が…?

「おはようごぜぇやす!聞きてェですか?パチ恵…」

ものっ凄く嬉しそうに、いつもにない全開の笑顔を皆にも見せてるから…ちょっと気になる…

「…うん…聞きたいな。」

「よしよし聞かせてやりやしょう!パチ恵が俺ん家に来て晩飯作ってくれて…」

「私が!?」

夢でまで私に逢ってくれてるなんて…なんか嬉しい…

「そうでィ!オムライスすげぇ旨かった!んで、俺の部屋でゲームして…そのまま…」

そこから沖田君が話してくれた夢は…

「なんて夢見てんだばかぁっ!!!!!」

ぺしぃっ!と頭を叩いて止めたけど、うっとりした顔でなんて事言ってんのっ!?
そっ…そんなっ…えっちな夢っ…それも、何で私目線っ!?
そんな微に入り細に入り…って!まさか…さっきもこの話…
キョロキョロと周りを見ると、男子が頬を染めて私から目を逸らす…

「パチ恵ちゃん…大胆…」

山崎君がにこりと笑ってじっと見てくるけど…目つきがイヤらしいよぅっ…
じとりと睨んで、なんとなく嫌なんで胸を押さえる。

「そんな事してないもんっ!山崎君のえっち!!!」

「えぇーっ!?俺!?」

「沖田君も…なんて事話してるのっ!?私そんな事ぜんっぜんして無いもんっ!!」

「いやぁ、あんまり嬉しくって…」

「だからっ!ホントに何かしたみたいに言うなっ!!」

にこにこにこにこと締まりなく笑ってる顔がムカつく…
無防備な頭をぺしぺしと叩いても、全然反省してないよっ…

「あらパチ恵さん、意外とリアルな話だったわよ?」

「そうアル。なんかパチ恵っぽかった。」

…男子だけじゃなくて、この2人も聞いてたんだ…

「さっちゃん…神楽ちゃん…私…何もして無いもん…沖田君が勝手に見た夢だもん…」

「ドS可哀想ネー」

2人が憐みの目で未だぺしぺし叩かれ続けてる沖田君を見る。

「うるっさい!とにかくもうその夢の話は忘れてよっ!!」

うがぁ!と叫ぶと、私の手を取って沖田君が立ち上がる。
…何…?…怒っちゃったのかな…?

「嫌でィ。あんな可愛いパチ恵心に刻むに決まってんだろィ。忘れて欲しかったら本当のパチ恵のエロいトコ見せろィ。」

「いーやーだー!」

そっ…そんなカッコいい顔で言ったって流されないもん!

「…エロな沖田君なんか嫌い…」

ギッ、と睨んでも、絶対顔赤くなってる…迫力出ないよぅ…

「…そんな顔すんなよ…ココで襲いたくなっちまう…」

ぐん、と沖田君の顔が近付いてきて、吐息が唇にかかる…ってここ教室ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!

「は〜いそこのバカップル静かにしろ〜!沖田君は後でパチ恵の具合を俺に報告するように〜」

「へーい」

「何言ってんだ馬鹿共っ!だーかーらー、何もして無いって言ってんだろ!毟るぞクソ天パっ!!」

のたのたと教室に入ってきた銀八先生が何か煌めいてるっ!?

もうやだ…朝からなんでこんなに疲れてるの…?
沖田君に昨日の事謝ろう、とか思ってたけど…もう良いや…

休憩時間になる度にじとりと沖田君を睨んでたけど…
流石に銀八先生の所には行かなかったみたい。

放課後になって、神楽ちゃんと一緒に帰ろうと用意をしていると、沖田君が私達に近付いてくる。

「パチ恵ー、一緒に帰りやしょー!」

「あれ?沖田君部活は?」

「ん?休みでィ。」

近藤君の方を見ると、他の剣道部の皆も帰ろうとしてる…本当なんだ…

「あ、ヒデェ、疑っただろィ…パチ恵は鬼かよ…」

沖田君がしょんぼりと頭を下げるんで、慌てて謝る。

「ごっ…ごめんなさいっ!うん、一緒に帰ろ?良いよね?神楽ちゃん?」

「仕方無いアルね…」

神楽ちゃんもコクリと頷いてくれるんで、沖田君と手を繋いで歩き出す。

「…今日姉ちゃん仕事で遅いんでィ…パチ恵…晩飯作ってくれやせんか…?夢の中で喰ったオムライス…スゲェ旨かったんでさァ…」

「えっ!?でも私そんなに料理上手じゃないよ…?」

「でも、毎日料理してんだろィ?」

「…うん…まぁ…」

お惣菜買ってきたの並べたり…冷凍食品アレンジしたり…お肉や卵焼いたりするだけだけど…後はカレーとシチューと肉じゃが…ぐらいしか出来ないよ…

「な?飯食うだけだから!パチ恵まで喰おうとか思って無いから!!」

「…そんな事思って無かったけど…沖田君は考えてたんだ、そんな事…」

私がじとりと睨むと、沖田君があわあわと慌てだす。

「や!だって昨日の今日だし!」

「…私行かない。えっちな事されそうだもん…」

「えー!?彼女の手料理喰いたいでさァ…」

ちょっと涙目になった沖田君は可愛いけど…流されない、って決めたもん。

「パチ恵の手料理、ワタシも食べたいアル。丁度良いネ、ワタシもゴチになりに行くヨ。それならエロい事されないアル。」

にまっ、と歯を見せて笑った神楽ちゃんが、ワタシの手を掴んでぶんぶんと振る。
うわ…めっちゃ期待されてる…
助けを求めるように沖田君の方を見ても、神楽ちゃんと同じくらい期待に満ちた顔で私を見てる…

えぇーっ!?どうしても作らなくちゃいけない雰囲気…?

「だから…私そんなに料理上手く無いってば…薄焼き卵なんて…作れないもん…」

期待を裏切るみたいで申し訳ないけど、ちゃんと言うと沖田君がにっこり笑う。

「別に薄焼きじゃ無くても良いんですぜ?オムレツ焼いて上で割りゃぁ良いんでさァ。」

「…そうなの…?」

オムレツ…卵焼きで良いのかな…?
卵焼きなら得意だし…出来るかな…

「そうそう、はい決まりー!んじゃスーパーに行きやしょう!」

「さっさと行くネ!」

両側からぎゅっと手を掴まれて、私は大江戸ストアに連れて行かれた…