香り無き花の中で






薄く積もった雪をゆっくりと踏み締めながら、新八は川原沿いの道を歩いていた。


風はなく、ただ雪だけが灰色の空から音もなく落ちて来る。



ゆったりと舞う雪を見ながら、新八はやや赤くなった手に息を吹き掛けた。


「手袋、してくれば良かった…」


マフラーと外套は着けているが、急いでいたのと雪の降りが弱かったのとで置いて来てしまったのだ。


「早く帰ろ…」


「まぁそう言うねィ。少し位付き合って下せェ」


背後からの聞き慣れた声に、新八は溜め息をつく。



「沖田さん、いい加減気配消して近付くの止めて下さいよ…」


「驚かねぇんで?」


「慣れましたよ」


つまんねぇ、と呟く青年をその場に置いて、新八はさっさと歩き出す。


「新八ィ、置いてくたァひでぇや」


「だって、雪強くなってきましたし」

「ほれ」

バン、と音がして、沖田が手にしていた傘を開き、新八に差しかける。


「ねぇよりゃマシ」


「…ありがとうございます」


何気ない沖田の気遣いに、新八は僅かに頬に熱を感じ、思わず手を当てた。


「新八、手、真っ赤…」

「あー、大して降らないと思って手袋置いて来ちゃったんです」


「…手、貸して下せェ」


傘を肩に乗せ、手袋を外して、沖田は新八の手を自分の手で包むように握った。


「うわ、暖かい…」


暫く新八のかじかんだ手を揉むように温めていると、次第に新八の手にも温みが戻って来た。


「よし、こんなとこですかねィ」


「ありがとう…でも、沖田さんの手が…」


「こんくらい平気でさァ。アレ、どこに…」



両のポケットをガサゴソと漁って何かを探していた沖田は、目的のモノを見つけ、その包みをクルリと外し


「新八ィ、手」


「?」


手の甲を上にして出された手をひょいと返し、その上にチョンと何かを乗せた。


「え、チョコレー、ト?」


「こんなんしかなくて悪ィけど…、今年は俺もあんたにやりたかったんでさァ」


「…」


新八は手のひらに乗った小さなチョコを見つめた。
暖まった手の上で、チョコがジワリと溶けてくる。


新八は、少し照れくさそうな沖田にふわりと微笑み、再びありがとうと呟く。


「なんだか先、越されちゃいました…チョコ溶けちゃうし、頂きますね」


チョコを口に入れ、手に付いたチョコも無意識にチロリと舐め取って。


「あ、ごめんなさい、行儀悪」

「まだチョコ付いてやすぜ」

「え」


不意に近付いてきた沖田の顔に、新八は思わず目をギュッと閉じる。


唇に暖かい温度と柔らかな感触、そして舌の熱さを感じ、新八は思わず沖田の隊服を掴む。


「新八からも貰っちまいやした」


唇を離し、でも顔は近いままで沖田は新八にニヤリと笑う。


「………」

「ごむぇんぬぁはいのうひあへん」


新八の両手が思い切り沖田の口を横に引っ張った。


「…ふ、くくっ、凄い顔」


「ひでぇ…」


沖田が涙目になりながら抗議すると、新八は笑いながら再び先に歩き出す。


「早く行きましょう!風邪ひいちゃいますよ!」


手をぶんぶん振りながら沖田を待つ新八の姿を見、沖田は小さく笑いながら駆け寄って行った。


お題
手のひらの上のチョコレート
*お題配布元/確かに恋だった




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