予定よりは、ちょっと早かったんですがねィ。



らいよんのサンポ。



あぁ、何かこう、胸の中がモヤモヤしやがる。

万事屋のボウズに俺の事をバラしてから早1週間。あれ以来ボウズには会っていない。
ボウズの職場に行ってみても、寝込んでいるとかなんとか言われて会えやしねェ。根性なしだねィ。
そんなにショックだったんですかねィ?俺が男だった、ってェ事が。勝手に間違えてやがったクセに…
だいたい、俺のドコが女なんでィ、失礼だぜ?
ボウズよりタッパだって有るし、筋肉だって付いてるだろが。メカタだって俺のが有るだろィ。
あの時気絶したボウズを別室まで運んでやったのだって俺だぜィ?

…軽かったな…アイツ…

剣の腕だって俺のがタツし、年だって上だい。
ナニだって俺のがデカい。確実にデカい…多分………

……アレ……?なんでィ、ココは………?

イライラと考え事をしながら歩いてた筈なのに、気が付いたら俺はボウズの家の前に立っていた。
しかも、ご丁寧に団子の袋まで下げてやがった。


……………………・………


ホラ、コレはアレだ。山崎から話を聞いた近藤さんと土方のヤローが、やたらしつこく見舞いに行けだの、謝って来いだの言いやがるから、それでィ。特に近藤さんが、お妙さんに会わせる顔が無い、とかなんとか言うし…今更だぜ?そんなこたァ。
でもホラ、局長の言う事だし?近藤さんがそこまで言うんなら仕方ねェし?
…ついでに…いや、もう本当についでに、ボウズの面でも見てやろうと思っただけでィ。

「ごめんくだせィ。」

玄関前で一言声を掛けて、ガラガラと引き戸を開ける。

…誰も出て来やしませんねィ…

待ってるのも面倒なんで、そのまま家に入る。
全く、無用心でさぁ…

だかだかと居間(らしき場所)まで上がり込むが、誰も居やしねェ。

卓袱台に手土産の団子を置いて辺りをぐるりと見回すが、やっぱり誰も出てこねェ。

仕方ないんで、ガラガラとそこいらの襖を開けていくと、2つ目の襖を開けたところでボウズに当たった。
ヤツは向こうをむいて、布団を被って居やがった。なんでィ、ホントに寝込んでいやがるぜ…

「姉上―?こんな時間にどうしたんですか―?僕はまだダメですよ?ホントにもぅ、ダメですからっ。」

ボウズがダメダメなセリフを吐きつつ、ゴロン、と寝返りを打ってこっちを向く。
そして、俺を視界に入れた途端、固まった。
と思ったら、ぼふん、と音がするような勢いで赤くなりやがった。

…なんでィ…まだオカシイのかよ…

「今日は、新八君。お加減悪いと伺ったので、お見舞いに来てしまいました。」(沖田裏声)

「なんじゃそらぁ―――――――――――っ!」

ボウズは布団を跳ね上げ、飛び起きる。
なんでィ、元気じゃね―か。

「おっ、おき、おきっ、おき、沖田さんっ!イヤな冗談やめて下さい!何なんですか、もう!あ―もう、それに、勝手に人の家に入ってきて!アンタ警察でしょ―がっ!」

ボウズが、真っ赤な顔のまま突っ込む。

「あぁ、無用心だぜ?新一くん。玄関の鍵が開いてたぜィ。」

俺は、ヤレヤレ、という感じで肩を竦めて見せる。
危機管理がなってねェぜ、マッタク。

「新一じゃね――し!だいたい鍵が開いてたら勝手に入って良いんですか!アンタは!」

ふ――っ、ふ――っ、と意気込んで握った拳を振り回す。

…なんでィ…

「…元気じゃねぇか。見舞い代返しやがれ。」

「もらってね―し!だいたい、なんでアンタ…来るんだよ…もう…」

ボウズの顔が、みるみるしょぼくれる。


…ズキ…

なんでぃ…


「近藤さんと土方のヤロ―が煩くってねィ。俺ァ何か悪い事したかよ。」

「してっ……無いですよ…え―、も―、僕が勝手に間違えたんですよ!すみませんねぇ!」

又赤くなりやがった。赤くなったりしょぼくれたり、忙しいヤツだぜ全く。

コロコロ表情変えやがって…面白ェヤツ…

「おぅ、その通りだぜィ。俺ァ、間違われてんの判ってたから、ワザワザ、気ィ使ってやってたんだぜ?感謝して欲しいぐらいでさァ。」

俺がニヤリ、と笑いつつ言ってやると、ボウズの目が細まる。

「…分かってたんなら、最初から言ってくれれば良かったじゃないですか…」

ボウズはジロリと睨みつつ、又赤くなる。

「いやァ、青少年の夢をブチ壊しちゃァいけないと思いやしてねェ。甘酸っぺェ夢、見れたでしょう?」

「分かってたんならやめて下さいよっ!いっ…言っときますけど、もう想ってませんからねっ!男の人だって分かったんですからっ!僕にそっちの趣味は有りませんからっ!」


…ズキ…


何なんでィ、先刻から胸の奥で変な音がしやがる…

「そりゃァ良かった。俺にもそんな趣味は有りやせんから、安心しなせェ。」

「…あっ…当たり前ですよっ!そんなの…」

ボウズの顔が、あからさまにホッとしたように緩む。
…なんでィ…そのツラァ…

「元気そうなんで俺の用事は終わりでィ。居間に団子が有るんで喰いなせェ。じゃぁな。」

面倒くせぇ用事も終わった事だし、帰ェるか。ここまでやれば、近藤さんも満足だろうよ。
くるり、と振り返り一歩踏み出すと、後ろであからさまに慌てたような気配が起こる。

「えっ!?お団子って…まさかホントにお見舞いですか!?じゃっ…じゃぁ、お茶でも…」

「…なんでィ。お前さん俺と一緒に喰いたいんで?」

ニヤリ、と笑って振り返ってやる。

「ちっ…違いますよっ!お土産貰ったのに何もしないなんてダメじゃないですか!そこら辺の躾はちゃんとしてるんで、僕!」

ボウズが真っ直ぐ俺を見上げ、言い放つ。
俺が真っ直ぐ見返すと、すぐに挙動不審になって辺りを見回し始めるが。

「折角のお誘いですが、俺ァこう見えて結構忙しいもんでねィ。又今度お呼ばれしまさァ。」

くるり、と振り返り、後ろ手にヒラヒラと手を振って部屋を後にする。半分本当で半分嘘だ。今は仕事なんかいくらでもサボれる。
でも、なんとなく今日はこのまま帰りたかった。

「えっ?ちょっと…」

とかなんとかボウズが言っているが、もう振り返らずに家を出る。

「あのっ!今度はちゃんと呼び鈴鳴らして下さいよっ?勝手に家の中に入ってきたら、警察に通報しますからねっ!…ってアンタが警察だった―――っ!!!って、聞いてますか!?沖田さんっ!?」

ボウズが後ろで何か騒いでいやがるが、気にしねぇ。
なんでィ、ご丁寧にお見送りかよ…


くつくつくつくつくつくつくつくつ…


いつの間にか、モヤモヤした気分はどっかに行っちまって、すっかりいつも通りの俺に戻ってた。

心配しなくても、又アンタに会いに来てやりますぜ。
たまに起きる胸の痛みと、この晴れやかな気分は、どうもアンタに関係してるみたいですからねィ、新八くん。
それが何なのか確かめるには、アンタァまだまだ必要みたいだからねィ。



つづく