新たなる挑戦者



黒服を見付けたら、出来るだけ別の道に曲がった。
そりゃぁもう、2Km先からでも分かるようになったよ。
なんとか会わないで済んでるのは…沖田さんも、無理に会わないようにしてくれてるのかなぁ…とか思ったりもするけど…だって、ここの所万事屋には来ないし…万事屋に来られたら逃げらんないしさ…でも…そんな優しくたって…会えないよ…だって会っちゃったら…返事しなきゃならないよね………

今日も見廻りの時間を避けて買い物に出る。神楽ちゃんや銀さんとは敢えて一緒には行かない。あの2人は悪目立ちするしさ。神楽ちゃんなんて、僕が沖田さんを避けてるって知ったら逆に攻撃しようとするし…そんなことしたらかえって見付かって逃げられなくなっちゃうよ…見廻りの時間を避けるとタイムセールの時間が過ぎちゃうけど、仕方ないよねっ!僕の一生がかかってるんだから!
悪いけど銀さんにはいつも以上にしっかり働いてもらう事にしよう…

「あ、新八君!」

僕が周りの気配を探りつつ、自分の気配を消してこっそり道を歩いていたのに、突然声をかけられた。
えっ!?今、誰の気配もしなかった筈なのにっ!?
慌てて振り向くと、そこには黒服…
走って逃げようとすると、腕を掴まれた。

ギャ――――――――っ!

「新八君、安心してっ!俺だよ、山崎、山崎っ!」

「あっ…山崎さん…おっ…お元気ですかっ…?」

なっ…なんだ、山崎さんか…良かった―…

「ずいぶん慌てて…大丈夫だよ?沖田隊長は今、屯所で書類整理やらされてるから。近藤局長と一緒だから、サボって来ないよ?」

あっ…良かった―…あれ…?でも…

「…山崎さん…もしかして知ってます…?僕が沖田さんの事避けてるとか、何で避けてるか、とか…」

「あ―…あはは…知ってるよ?みんな…」

みんなっ!?皆って…ミンナ…?
僕がよっぽど変な顔をしていたのか、山崎さんが苦笑いを浮かべる。

「…あ―…沖田隊長なりの牽制なんだろうねぇ…隊士皆に、言いふらしてたから…新八君に告白したって…」

…あ――…もう真選組に関わりたくない…

どうりで近藤さんが姉上の所に来た時、
「新八君、総悟は良い奴だぞ?宜しく頼むな!」
とか言ってた訳だ…おかしいとは思ったんだよね…

「いえ、あの、僕男なんで。沖田さんと付き合うとかそういうの無いですからっ!山崎さん、皆さんにちゃんと言っといて下さいよ…」

僕が悲しい顔でボソボソ言うと、山崎さんがにっこりと笑った。

「そうなんだ、付き合う気無いんだ!良かった―。」

「イヤ、僕の話聞いてました?何で付き合うとか思うんですかっ!?おかしいでしょう!…確かに前に僕、沖田さんにちょっと…だったけど、アレは女性だと思ってたから!僕はソッチの趣味無いですからっ!」

そう僕が必死に言い訳すると、山崎さんの目が真剣なものになる。

「…良いと思うけどなぁ…別に同性だって構わないでしょう?好きになっちゃうとどうだって。…だって、俺だって新八君の事好きだよ?ちゃんと恋愛対象として。おかしくないよ、別に。」

…え―――っ!?何!?今この人すんごい事言ったんだけどっ!何!?さらっと告白っ!?
僕が思いっきり赤くなると、やっと気付いたように山崎さんが慌てだす。

「アレっ!?俺今言っちゃった?言っちゃった!?…でも…本気だから。俺、本気で新八君の事好きだから。俺の事もそういう対象に見て?沖田隊長より、俺の方が君には会ってると思うし。新八君に対する想いだって、余裕で勝ってると思うから。」

山崎さんが、真剣な顔で、僕の事を見つめてくる。
…ちょっ…なんでそんな事言うのかなぁっ!?僕はだからソッチの趣味は無い、って言ってんのにっ!!

「山崎さんっ!だから僕はソッチの…」

僕が叫ぼうとすると、急に山崎さんの顔が近くなる。
ヤバいっ!この人…ヤバいっ!体をひねって逃げようとすると、頬に柔かい何かが当たる。

ギャ―――――っ!キスされたっ!!!!!!!

「あれぇ、ハズれちゃった。…まぁ、今日は挨拶程度で良いか…新八君、覚悟してね?俺だって諦める気、無いから。それに、沖田隊長みたいに甘く無いから。」

山崎さんが、いつもの笑顔でパッ、と僕を離してくれる。


…怖い………


僕は頬を押さえてくるりと振り返って走り出す。暫らく走ってから、追いかけてきてないかと恐る恐る振り返ると、山崎さんはさっきの位置のまま、笑顔でヒラヒラと手を振っていた。

「新八く―ん、またね―。」

「もう会いませんっ!山崎さんとも…沖田さんともっ!!」

そう叫んでも、山崎さんの笑顔は崩れる事は無く、僕は混乱する頭を抱えて、大江戸ストアまで走った。



思いがけず告白してしまった…新八君、驚いてたよなぁ。真っ赤な顔しちゃってさぁ、可愛いなぁ…
スキップする勢いで屯所に帰ると、何とか言って抜け出してきたのか、沖田隊長がゲッソリした顔で、廊下を歩いていた。

…宣戦布告、しとこうかな………

「沖田隊長、お疲れ様です!どうですか―?書類整理は進みましたか―?」

「やまっ…静かにしやがれっ!声が大き…」

沖田隊長が素早く俺の後ろに回り、口を塞ぐ。
でも、もう遅いんだよね―。

「総悟―?遅いんでどうしたかと思ったぞ―?なんだ?そんなに糞のキレが悪かったのか?」

あっはっはっ、と笑いながら近藤局長が歩いて来る。それを見た沖田隊長は、はぁ、と溜息をついて頭を抱える。

「山崎ィ…テメェ、後で覚えてろィ…」

そして、うらめしそうな目付きで俺を見てるけど、今の俺にはそんなの効かない。
俺は隊長に顔を近付けて、にっこり笑って囁く。

「隊長―、もう1つ楽しくないお知らせが有りますよ?俺、さっき新八君に逢ってきました。で、俺も告白してきちゃいました。」

「なにっ!?ザキィ…!!」

俺に掴みかかってこようとした沖田隊長の首根っこを近藤さんがひょいっ、と掴み、ズルズルと引きずって行く。さよ―なら―

「ちょっ、近藤さん、離してくだせェ!ザキがっ…ザキがっ!!」

「ケンカはダメだぞ―?さっさと書類整理終わらせんと、新八君に会えないぞ―?」

「だからっ!新八がザキにっ…!」

ギャ―ギャ―と喚き出した隊長を宥めながら、近藤さんはものともしない。

…さっすが局長―!

そんな2人にヒラヒラと手を振り、俺は食堂向かう。
うん、宣戦布告もしたし、告白もしたし。
これからは俺だって頑張るぞ―!いつまでも地味なまんまじゃいないから、俺だって!



つづく