ここ2・3日、新八を見ていねェ。
どうしちまったんだ?アイツ………
キミを探す。
いつも行く公園にも、見廻り途中の大江戸ストアにも、駄菓子屋のベンチにも、万事屋にもアイツの実家にも見あたらねェ。
折角のおやつの時間も、いつもならとびっきり美味い菓子だって、1人で食うと味気ねェ。
…なんでィ…アイツが居ないだけじゃねェか。
試しに近藤さんを誘って食ってみたけど、やっぱりいつもより美味くねェ。
…何なんでィ、一体………
「どうした、総悟?ここ暫らく元気が無いようだが?」
近藤さんが心配そうな顔で俺に尋ねる。心配性だぜ、このお人は…
「そんな風に見えやすか?俺ァ絶好調ですぜ?」
「そうか?なんだか寂しそうに見えるぞ―?彼女と喧嘩でもしたか?なぁ―んて…」
「アイツぁ彼女なんかじゃありやせんぜ!友達でさぁ!!なんでアイツが…」
俺が叫ぶと近藤さんが驚いた顔で俺を見る。
大体、何だってアイツの…新八の顔なんざ浮かぶんでィ。俺ァ男色の気なんざ、ねェぜ!!
「そうかぁ…子供だ子供だと思ってたのに、総悟もそんなお年頃かぁ…少々寂しい気もするが、何か有ったら相談に乗るぞ―?恋愛の先輩だからな!俺は!!」
ハハハハハ…と笑いながら、寂しそうに俺の肩をパンパンと叩く。
…違うってェのに…まァ良いか…
ついでに言うなら、もし恋愛相談が有るとしても、近藤さんには相談しねェ。
「沖田隊長―、ここに居ますか―?新八君が訪ねて来てますよ―?」
山崎が障子の向こうで俺を呼ぶ。
新八ィ…?アイツから屯所に来るなんて…ここの所姿を見なかったし…何か有ったのか!?
近藤さんに、失礼します、と言い置いて全速力で屯所の玄関に走る。
するとそこにはのんびりと、新八が立っていた。
「新八ィ!何か有ったのか!?」
「あ、沖田さんただいまです。コレ、お土産ですんで良かったらどうぞっ!」
新八がニコニコ笑いながら、変な人形を差し出す。
…どっかで見たような…あ?土産?
「新八ィ…アンタ、どっか行ってたんかィ…?」
俺が言うと、新八ははぁ――――っと大きな溜息をついて、ジロリ、とコッチを見る。
「僕、言いましたよね?神楽ちゃんがくじ引きで宇宙旅行当てたんで、しばらく留守にします、って…ホント人の話聞かないですよね、アンタ…」
「あ―、そういえば聞いたような聞かないような…」
…旅行だったんかィ…………
「あ―、もう良いですよ。はい、お土産。本当は何かお菓子にしようと思ってたんですけど、色々あって…」
ハハハ…と、渇いた笑い声をあげて遠い目をする。
何か有ったんだな…
「有難く貰っときまさァ。」
新八の頭をぽん、と撫でて人形を受け取る。
なんでィ、この人形意外と手触りが良いぜ…枕に良さそうだ。
「じゃぁ僕帰りますね。姉上今家に居るハズなんで、早く帰ってお土産渡さなきゃなんないんで。」
新八が、さよなら―、と手を振って帰っていく。
…なんでィ、イチバンに俺に会いに来たのかよ…
たったそれだけの事なのに、何だか気分が良くなってきやがった。新八の居ないさっきまでとは全然違う。世界が明るくなった気がする。
今までダチなんて居なかったから知りやせんが、これが友情ってもんですかねェ。
土産を小脇に抱えて部屋に戻ろうと振り返ると、山崎と近藤さんがニヤニヤ笑いながら立っていた。
「総悟…お前の彼女って…新八君だったのか…ちょっと複雑だが、俺は応援するぞ!」
何かを納得したように、腕組みしてうんうん頷く近藤さんがそのまま外に出ていく。
「だから、違いやすって…」
ヒデェ誤解を解こうと思ったけど…面倒だから良いか…
そのうち判るだろ。
「隊長―、近藤さんにまでバレちゃったら腹くくりましょうよ。でも、俺も負けませんよ!」
山崎までそんな事言いやがる…俺ァ一体どんな風に思われてんでィ…ってか、山崎は新八に惚れてんのか…?男なのに?
………ムカ………
なんでかイラッとした…ここで違う、って言ったらコイツが図に乗るんで面白くねェし!乗ってやるか。
「オイオイ、俺に勝てるとでも思ってんのかィ?」
ニヤリ、と笑って新八の土産の変な人形を見せつけてやる。
「いっ…今は負けてるかもしれないですけど、新八君の隊長に対する想いは友情ですから!!隊長男ですからね!!」
山崎が言い放って泣きながら走り去る。
…俺のも友情でィ…でもまァその方がダメージデカイから良いか。
くつくつくつくつ…おもしれェ。久し振りに山崎で遊ぶか。
新八の土産の変な人形を枕に昼寝していると、近藤さんから呼び出しがかかった。
新八の姐さんのパンツが、ここの所追っていた『ふんどし仮面』に盗られたんで、新八の家に張り込んで捕り物をするんだそうだ。
色々用意して、真選組総出で新八の家に行くと、ゴキゲンな近藤さんが、
「総悟、チャンスだぞ!新八君に良い所見せろよ!!」
と言って親指を立ててバチコ――ンとウインクする。
…いつもは近藤さん…良い人なんですけどねェ………
仕方無いんで新八の隣に行こうとすると、新八の方からあわあわと俺の方に寄って来る。
「沖田さんっ!すんませんっ!なんかもうホントすんません!!こんな大事になっちゃって…真選組総出って…」
「いやあ、別に。これも仕事ですからねェ。ウチの大将がヤル気満々なんで、仕方ないでさァ。」
「それはそれとして…」
新八が更に俺に近付いてきて、耳元でこそっと話してくる。
なんかくすぐってェ…
「なんか、近藤さんが変なんですけど…沖田さん、何かしたんですか…?」
近藤さん…新八にまで何か言いやがったな…
「…あの人ァ何か変な勘違いしちまったみたいでねェ…すいやせんねェ、迷惑かけちまいやしたか。新八は普段通りにしていて下せェ。俺がなんとかしやすんで。」
「分かりました。何なんですか?ちょっと怖いですよ、近藤さん。沖田さんの事どう思ってるんだ?とか聞かれましたよっ?」
「イヤァ…近藤さん良い人なんですがねェ…俺が新八に惚れてるって思い込んじまったみたいで…」
俺がウンザリと言うと、新八が一瞬で真っ赤になる。
「はぁ!?とんでもない事考え付きますねっ!アノ人はっ!何でそんな事思いついたんでしょうねっ!おっ…沖田さんが僕の事…なんてっ…」
「さぁ…近藤さんの考えてる事はデカすぎて俺には理解不能でさァ…確かに俺ァ新八の事好きですがねィ?良い友達としか思ってねェんでさぁ…」
俺がそう言うと2人目が合って、ニコリと笑う。
チラリ、と近藤さんの方を見ると、物凄く良い笑顔で親指を立てている。
…嬉しそうだから良いか………
それからなんだかんだで結局犯人は検挙出来たし、新八くんとも結構遊べたし。それで良し、って事にしときやすか。
…なんて考えた前日の俺をブン殴りてェ…
近藤さんの暴走は、そんな呑気なモンじゃなかった
次の日には俺が新八に惚れていて、新八もそう満更でもない。
後は俺が男らしく告白すればカップル誕生!等という世にも恐ろしい噂が隊内を駆け巡っていた。
…放っとくんじゃなかったぜ……
それと同時に、顔をあわせるたびに向けられる近藤さんの期待に満ちた笑顔と、山崎のウザイ態度が、いい加減我慢の限界になってきた。
どうすっかねェ……………
どうするにしても、このままじゃ面倒くさい事になんのは間違いねェ。早いトコ手ェうたねぇとな………
つづく
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