お兄さんは知っている。
ここの所、家の大事な息子に悪いムシが付きそうになっている事を。



お父さんの憂鬱



もうそろそろ3時になる。
あ〜あ、又アイツが来るんだろうなぁ…新八もなんだかソワソワして、お茶の用意なんかしちゃってるよ?
気付いてんのかねぇ〜?アイツがどんなつもりで毎日通ってんのかなんてさ…百戦練磨の銀さんには分かっちゃってるよ?新八は年の近い友達でも出来たつもりでいるのかねぇ。
それともなに?新八もその気有るの!?
…まぁ、元々は新八の方が激しい勘違いをして言い寄ってたんだけどさぁ。もうキッチリバラされたはずじゃん?男だって分かってからは新八が暴走する事も無かったし…でも、たま〜に頬染めてたりするんだよなぁ…ちゃんと分かってるのかねぇ、この子は…

「ちィ―っス、茶ァ飲みに来やしたぜ―。」

…時間通りにアイツが万事屋にズカズカと入ってくる。
まぁ…あえて止めないけどね?
なんだかんだで必ず茶菓子持ってくるし?コレが又美味いんだ。

「沖田さん、又サボリですかっ?もぉ…毎日毎日こんな事やってて土方さんに怒られても知りませんよ?」

「キュ―ケ―時間でさァ、キュ―ケ―時間。オマワリサンだってキュ―ケ―ぐらいとりまさァ。」

アイツに必ず一言文句を言ってるけどさぁ…なぁんか嬉しそうなんだよねぇ、新八君は。手土産を受け取って、そそくさと台所に引っ込む。お茶の用意なんてもう出来てんのに…俺がちらり、とアイツを見ると、無表情のままどかりとソファに座っていた。

「沖田君〜、毎日毎日よく続くねぇ。ウチの新ちゃんとはど〜ゆ〜お付き合いしてんの?何?嫁にでも欲しいの?ダメだよ〜?あげないよ?アイツはまだまだ子供なんだから〜」

俺がズバリと確信をついてやると、沖田君はキョトン、とした顔でこっちを見た。

「どう…って…友達でさァ。それ以外に何が有るって言うんでィ。何?まさか旦那変な勘ぐりしてんじゃァないでしょうねィ?俺も新八も女子の方が好きですぜ?そういやァ花見ん時のチャイナの言い方もおかしかったぜ…何ですかィ、あんたら俺の事そんな風に思ってたんですかィ?」

…コイツ…気付いてないのか…?どう見ても新八の事好きだろ。イヤ、好きは好きか。友達とか言ってたし。イヤ、コイツの好きは違うだろ?恋人になりたい系の好きだろ。

…それとも俺が汚れちまってんのかねぇ………

「お茶入りましたよ―っ!凄いです!今日のお菓子はケーキなんですねっ!生クリームなんて何年ぶりだろ―っ!」

えへへっ、と、物凄く嬉しそうな笑顔の新八。
親の…いや、兄の欲目が無くても可愛いだろ、コレ。やられるだろ、コレ。
ちらり、とアイツの方を見ると、真っ赤な顔で、見たことの無いような優しげな微笑みを浮かべて新八を見ていた。
…あ〜、やっぱり自覚してないだけか…あんな顔、真選組の連中に見せてやりてぇよ。ジミーあたり、腰抜かすぜ?

俺がぼ〜っと2人を観察していると、何を勘違いしたのか新八が、もうっ!と俺の前のケーキとお茶を掲げる。

「銀さんの分も神楽ちゃんの分も定春の分もちゃんと有るんですよっ?沖田さんにちゃんとお礼言ってから食べてくださいねっ!」

いただきま―す!と言って2人がケーキを食べ始める。まだまだ子供だね〜。あ〜あ〜、口の端にクリームなんか付けちゃって…そんな勢いで食べなくても…

「あ―、沖田さん顔にクリーム付いてますよ?子供ですかアンタ。」

新八があははは…と笑いつつ、ヤツの口の端に付いていた生クリームを舐め取る。


………舐めたぁ――――――――――――っ!?


「ちょっ…ちょっと新ちゃん!何やってんの!?何やっちゃってんのぉ―――――――っ!?」

沖田君が真っ赤になって固まっている。そりゃぁそうだろ…

「何って、沖田さんが顔にクリーム付けてたんで取ってあげただけですよ?」

新八は不思議そうな顔で俺を見て、小首を傾げている。

「イヤ…取っただけって………新ちゃん、そりゃぁマズイでしょう………せめて手で取ってあげて?手で。舐め取るなんてそんな…新ちゃんダイタン!」

「はぁ?何言ってんですかアンタ。何が大胆…って………」


ぼふんっ


新八の顔が一瞬で真っ赤になる。
やっと自分がやった事に気付いたらしい。

「ごっ…すいませんすいませんすいません!!別に悪気が有った訳じゃなくてっ!!あのっ…そのっ…むっ…昔っから姉上も父上も、僕が顔に何か付けてるとこうやって取ってくれて…それが普通になってて…最近沖田さんと毎日一緒にいるから、何か家族みたいな気になってたってゆうか…なんてゆうか…すみませんっ!気色悪かったですよねっ!!」

「…るく…か…た………」

「えっ!?何ですかっ?」

「…別に気持ち悪くなかったんで…気にしないでくだせェ…」

「そっ…そうですかっ…?」

…2人揃って真っ赤になって、もそもそとケーキを食べている。

なんだかなぁ…なぁんか銀さん面白くな〜い。

「ありがと〜ございます。いただきまっす。」

わざわざ手を合わせてやってケーキを食べる。

…うめぇっ!!

やっぱりコイツの持ってくる菓子は美味いよ…
悔しいが、菓子に免じて新八との付き合いは認めてやるか。と、言ってもまぁ、子供らしいお付き合いしかお兄さん許しませんケドね。

………まぁ………大丈夫か………

2人はまだ、赤い顔をしたままもそもそとケーキを食べ続けてるし…何だこの甘酸っぱい感じ…
どんな純情野郎達なんだ…新八は良いとして、沖田君はそれで良いのか…?女の子とぐらい付き合ってるだろうに………

「あっ、銀さんもクリーム付いちゃった。新ちゃ〜ん、俺のも取って〜?」

ワザとクリームを自分のほっぺたに付けて、新八に差し出す。コイツが家族ってんなら、俺だって…!

「何やってんですか、銀さん…いい大人なんですから自分で取って下さいよ。」

新八は冷たい顔でティッシュを掴み、俺のほっぺたをゴシゴシと拭う。

…あれ?何でだ?なんで沖田は舐め取って、俺はティッシュ?それも何か痛いよ。ゴシゴシ擦り過ぎだよ?
何?そういう扱い?銀さん家族じゃぁないの?それとも、新八も…?

2人の関係は油断出来ないが、とりあえず温かく見守ってやろう。

だから明日も美味い菓子よろしく頼むよ?沖田君。



つづく