夢だと忘れたい事も人生にはたまに有る。



「はーい、皆ちゅうもーく。」

いつもヤル気のない銀時だが、今日は更にヤル気がない。
声から覇気ってモノがまるで感じられない。
そんな呼びかけでも、新八と神楽は一応言われた方向を向いた。

見ないと後がうるさいから。

いやいやながら2人が向いた方向には、いつもは真っ黒な男が真っ白い格好で立っていた。私服は普通だ。

「…沖田さん…?」

「テメー、ドS!ココで何やってるネ!!」

呆然とみつめる新八と、ギンッ!と睨みつける神楽。
2つの視線を受け流し、銀時が続ける。

「えー、今日から暫くウチで働いてもらう事になりましたー。はい、自己紹介。」

「…沖田総悟でさぁ…」

神楽にガンを飛ばし返し、新八に笑いかけて隣に駆け寄る。

「新八ィ、今日からお世話になりまさぁ!暫くはずっと一緒にいれやすね!」

にこにこにこにこと珍しく上機嫌な沖田。
今にも新八にすり寄りそうだ。

「ちょっ…何でですかっ!?沖田さん遂に真選組、クビになったんですかっ!?」

真っ赤になって、ぎゅっと沖田の手を握る新八。
心配そうだ。

「クビにはなってやせん。遂にたぁヒデェな新八ィ…これも仕事でさぁ。」

沖田はちょっと涙目だ。

どうした沖田ァァァァ!?

珍しくしおらしい沖田に下から上目づかいで見つめられた新八は、舞い上がった。
そりゃぁもう、おっそろしく舞い上がった。
きゅぅぅぅぅぅぅぅぅん…と言う字が、新八の背後に浮かびあがる。
顔は真っ赤で、手は口の位置だ。

「おっ…沖田さん可愛い…」

「新八の方が可愛い…」

頬を染めあう2人。
2人の周りだけ、シャボン玉的な何かが飛んでいる。
シャボン玉的何か。

「銀ちゃん…ワタシ、あのバカップル近くで見てるのイヤヨ…」

げっそり、と言う顔で神楽が2人から目を逸らす。

「1週間ぐらいって話だぞ?依頼料が良いんだよ、物凄く。その上ヤツが居る間はパフェ食べ放題なんだよ!」

もっともらしい理由を付けて、銀時が力説する。
でも、パフェのくだりはむしろいらねぇだろ。

「悪魔に魂売ったネ、銀ちゃん…」

神楽の目がすっと細くなる。
軽蔑の眼差し、とゆうやつだ。

「神楽ぁ、お茶漬も食い放題らしいぜ?」

神楽の肩が、ぴくりと動く。
すぅぅぅ…と上がった顔はわっるい笑顔。

「…仕方ないネ。コレも世のタメヒトのタメネ!ケーサツもたまにはイイことするヨ。」

すぐに神楽も魂を売り渡した。

「じゃぁ、沖田君は新八君に仕事教えてもらって?」

ハハハハハ…と愛想笑いをしつつ、銀時と神楽がずるずると横歩きで玄関に向かう。
うさんくさい、顔がものっそうさんくさい。
玄関に着いた途端、ダッシュで走り去る。行く先は、ファミレスだ!

「あ!銀さん!神楽ちゃん!!」

バカップルしてる間に逃げられた!
新八少し気付くのが遅かった…
呆然と2人を見送る新八。
くるりと沖田に向き直って、頬を赤らめる。

「…あー…2人っきりになっちゃいましたね…」

「…へい…」

頬を染めて見つめ合う2人。
やっぱり背後にはシャボン玉的な何かが飛ぶ。

「じゃっ…じゃあ、仕事の説明しようかなっ!」

何かに負けそうになった新八が、バタバタと手を振り回しつつ沖田に笑いかける。
沖田もふんわりと笑って新八の後に続く。