少年再び。


ここはどこだよ…おれたしか家に帰るところだったのに…姉上…しんぱちィ…たすけてよ……


僕がいつもの如く買い物に行った帰り、道の端っこに女の人のカタマリが有った。
何?何!?タイムセールでもやってるのっ!?
僕が、何か特売品でも有るのかとその輪の中を覗くと、その中心には茶色の頭の男の子が、俯いて袴を
ギュッと握り締めて立っていた。今にも泣き出しそうなその子は、周りの女の人達に色々聞かれても何も答えず、ただ涙を堪えていた。それを慰めるように、みんなで飴とかガムとかをあげているようで…それをちゃっかり全部貰っているみたいだけど…う―ん…どこかで見たような………って、アレ!?

「総悟君!?総悟君なの!!??」

俯いていた男の子が、ばっ、と顔を上げる。僕の顔を見た途端、ぶわっ、と涙を流す。

「しんぱちィ―――――――――!!!」

総悟君が女性の輪を掻き分けて僕に駆け寄ってくる。いつもみたいに袴にぎゅっと掴まると、安心したのか、ぐすぐすと鼻をすする。

「どうしたの?総悟君…何でこんな所に君が居るの…?」

「おれっ、道場のかえりにねむたくなって…目をつぶったらしらない所にいたっ…」

ぎゅっと掴まったまま、う――――っと泣き始める。恐かったねぇ、と頭を撫でるともっとぎゅうぎゅうと掴まってくる。
…何だかよく分からないけど、総悟君がコッチに来てしまったようだ。
何だ!?このSF的な展開は!!
あれ…?じゃあ総悟さんの方はどうなったんだろう…?今朝元気に出勤した筈だけど…

「総悟君、ここに居ても仕方ないんで、僕の家に行こう?」

総悟君は鼻をぐすぐすさせたまま、こくりと頷く。
あ―、やっぱり可愛いなぁ…でも、分かってみると確かに小さい総悟さんだ…子供の頃はこんなに可愛かったんだなぁ…アノ人…いまやS皇子なのに…どこで間違えたんだろ…?

周りに居たお姉さん達が、「お兄ちゃんとはぐれちゃったのね?」とか「お兄ちゃん、弟さんちゃんと見てなきゃだめよ?」とか言いつつ手に持っていた飴や駄菓子を総悟君に渡して帰ってゆく。両手一杯にお菓子を抱えてすっかりご機嫌になった総悟君を連れて、途中にある真選組屯所に寄ってみる。総悟さんがどうなったか気になるし……

「こんにちわ―…」

「あっ!新八君…!?」

玄関に出てきた山崎さんの笑顔が凍る。…何…?

「しっ…新八くぅ―ん…いつの間に子供産んだのっ!?あ―もぅ、なんでこんなに沖田隊長にそっくりな っ!!!!!どうせなら、新八君にそっくりな女の子が良かったのにっ!そして将来は俺のお嫁さんに…」

「や、ちょ、山崎さんっ!!落ち着いて下さいよっ!!僕が子供産める訳ないでしょうがっ!!」

いきなりパニックになった山崎さんの肩を掴んで揺さぶる。何考えてんだよっ!!例え娘が出来たって、この人には嫁がせないよっ!もぅっ!!

「山崎ィ!何騒いで…」

怖い顔をした土方さんが、ドスドスと玄関に出て来て固まる。

「新八―――――っ!?おまっ…いつの間に総悟の子供をぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

…この人もかよ………

「産めませんから!僕は産めませんから!!知り合いに子守頼まれたんですっ!!!」

僕が呆れ顔で突っ込むと、まじまじと総悟君を見て憮然とした顔をしている。

「なんだよ、なんかムカつく顔してんな、コイツら!ド―コ―やろ―とジミ―みてえだ…」

知らない所に来て大人しくしていた総悟君が、見知った顔を見つけてちょっと強気になる。僕はぽんぽん、と頭を撫でて黙らせる。

「この人達の事は後で説明してあげるね?すみません、総悟さんは今いらっしゃいますか?」

やっと本題に入れるよ…僕が呼び出してもらおうと声をかけると、2人が崩れ落ちる。
何だ…?

「ちくしょう…人妻っぽいぜ…」

「新八君―!隊長のこと名前で呼ぶんだぁ―――っ…俺の事も退さん、って呼んでぇぇぇぇぇぇぇ!!」

…ダメだ…この人達、変な人だ…
総悟君の教育に悪いんで、さっさと屯所内に入って総悟さんを探す。

…自室にも食堂にも何処にも総悟さんは居ないみたいだ。仕方ないんで、近藤さんを探す。近藤さんはちゃんと局長室に居た。障子の前で声をかけると、中からどうぞ、と言う声がする。

「こんにちは、近藤さん。総悟さんが何処にいるかご存知ですか?」

「おぉ、新八君いらっしゃい。すまんな、総悟にはちょっと出てもらってるんだが…連絡は入ってないのかい?多摩まで出張に行ってもらったんだが…」

「えっ!?じゃぁ今日は帰ってこないんですか?」

「すまんなぁ、急だったもんで…明日の夕方には帰ってくると思うんだが…何か用だったかい?」

「えぇまぁ…でも、居ないんじゃ仕方ないです。すみません、失礼しました。」

「ところで新八君、その小さい頃の総悟はどうしたんだ?」

近藤さんが笑顔で聞いてくる。

「ちっ…違いますよ?知り合いの子供ですよっ!?」

近藤さんには言ってしまっても良いような気もするけど、今の所は黙っていよう…

「そうなのかい?総悟の小さい時に良く似ているよ、その子は。」

優しい顔で総悟君を見つめる近藤さんにお別れを言って屯所を後にする。