両の手が必要で



顔も見た事ない父さん母さんも、ずっと2人きりだった姉さんも、俺を見付けてくれた近藤さんも。
俺が手を取りたいと思う人達は、皆俺の手を離して何処かに行っちまう。

勿論、本当に居なくなっちまった父さん母さん以外の2人は俺の事も気にかけてくれるけど、俺はその人達の一番じゃない。

姉さんはアイツが一番で。
近藤さんだってアイツが一番で…イヤ、最近は姐さんが一番か。
まぁ、どっちにしたって俺じゃない。

確かに掴まれていた筈の手は、いつの間にか俺から離れちまっていて…
行き場のない俺の手は掴むものなんか無くて、それでも何かを掴んでいないと不安で…自分の手を自分の手で掴むしかなかった。

そうしてしまうともうソレ以外は信じられるものはなくて。
どうせいつか失うものならもう掴まない。
自分の手なら、いつだって掴んでいられる。2度と失う事なんかない。

だから、もう2度と大切な人なんか作らない。
誰かの手を掴む事なんか2度とない。
そう思っちまってた。


それなのに、俺の前にアイツは現れた。


ちょっとだけ、俺と境遇が似てた。
姐さんの手が離れちまって、その手の行き場を探してオロオロしてる姿が弱かった頃の俺と似てた。
だから、そのあてもなく差し出されている手に、俺はほんの気まぐれで手を差し伸べた。

ほんの少し。
少しの間だけ、俺の手を貸してやろうと。

だけど、握ったアイツの手は俺が思ってた以上に暖かくて…
すぐに離す筈の手だったのに、どうしても離したくない、って気持ちになっちまった。
姐さんの手が離れちまったその手以外、何本手が有るんだってぐらい色んな奴と手を繋ぐアイツを、俺のこの2本の手で包み込んで独り占めしたいなんて想っちまった。
他の奴の手なんか離しちまっても良いから、俺のこの2本の手でギッチリとアイツの手を掴んで離さないように。


…あぁ、そうか。
姉さんや近藤さんもこんな気持ちになったのか。
片手じゃ不安で、両の手で掴んで誰よりも離したくないって想っちまったのか。

なら、仕方ねェ。
俺ももう大人だ判ってやろうじゃねェか。
姉さんや近藤さんも、大切な人の手が離れてしまわねェように祈ってやろうじゃねェか。

…姉さんの方はちっと複雑だけどな…

それに、俺だって自分の事で手一杯だ。
ぼやぼやしてたら横から誰かに掻っ攫われちまう。
いくらアイツが鈍いからって安心なんざ出来やしねェからな。
アイツを狙ってる奴は千手観音でも足んねェぐらい居るんだから。


「だから、なァ新八くん。誰かが入る隙なんか無ェぐらい、キッチリ俺と両の手繋いでくれやせんか?」

「またおかしな事言って!沖田さんはズルイんですよ!!僕が弱ってる時につけ込んで勝手に心の中に入ってきて…」

「俺ァ新八くんがいい。新八くん以外なら自分の手ェ掴んでらァ。」

「………勝手に離したら、鼻フックデストロイヤーの刑ですからね!」

「おう、これからもずっと離したりなんざしやせん。」

「ずっとなんて………嘘ついたら針千本ですからね!」


真っ赤になったアイツの暖かい手が両方とも俺の両手と繋がって、そこから暖かい何かが入り込んできて。
懐かしい幸せな気分を想い出した俺は、もうどうしたってこの手を離せないと心から思った。
まァ、そんなの無くたって離す気なんざねェけどな。



END



tete/kondouakihisa