子供が寝た後で



総悟さんと結婚してから新しく出来た約束が僕らには有る。
それは、どんなに忙しくても必ず月1回は2人でゆっくりお酒を呑む事。

『奥さん』って位置に居るけど僕だって男だ。たまにはゆっくりと美味しいお酒を呑みたくなる日も有る。
それも、1人でとか皆でじゃなくて、一番気の合う人とじっくりと。
当然そんな人は僕にとっては総悟さんだけで…『旦那様』だけど、僕にとってあの人はそれだけじゃ無い。
友人でも有り、同士でも有り、大切な家族でも有る。とてもとても大切でかけがえの無い人だ。

勿論総悟さんもその日を楽しみにしてくれているし、僕だって大切な1日だ。
だから、子供達が大きくなった今でもその約束は守られ続けている。
そして、きっとこれからもずっと守られていくのだと僕は思っている。



そして、今月も約束の日はやってくる。
総悟さんはこの日の為に仕事を調節して、ちゃんと時間を作ってくれるんだ。
…まぁ、突然の獲り物が有った日は延期したりするんだけど…

「新八ィ、今日は旨い酒買って帰って来るから昼寝してちゃんと待ってろよ?先月みたくすぐに寝ちまうんじゃねェよ?」

そう言って朝出勤した総悟さんは何故か凄く真剣な顔をしていて…何事かは分からないけど、きっと僕に大切な話が有るのだと思った。
だから僕は言われた通りに、子供達が寺子屋から帰って来るまでの時間昼寝をして体力を蓄えた。



そして、子供達が寝た後に僕らは月1回の飲み会を始める。

差し向かいで、お互い手酌で呑むお酒は美味しい。
総悟さんお勧めの1本なんだから、きっと良いお酒なんだろうなぁ!
真選組の皆さんの近況や、万事屋の2人の話、姉上達の話もしたし、最近僕が行ったお通ちゃんのライブの話もした。
普段はあんまり出来ない話を沢山して盛り上がって、総悟さんが買ってきてくれた美味しいお酒も呑んで。
久し振りに年の近い友人みたいな事が出来て、僕も総悟さんも大いに盛り上がった。

…やっぱり僕は、この人の事が好きだなぁ…

普通では無い関係になったけど、それでも一緒に居たい。
僕が『奥さん』って立場でも構わないって思えるぐらい。
男のプライドだって、この人とずっと一緒に入れるなら片隅に追いやったって大丈夫なくらい。

「えへへ…好きです、総悟さん。友人としても、家族としても、旦那様としても。」

「…勿論俺も…新八が好きでィ…どんな新八も…毎日惚れ直してまさァ…」

お酒が入ってるからかなぁ、僕も素直に気持ちを伝えられる。
月1で『奥さん』じゃなくてもいい日だけど…でもやっぱり総悟さんに触れていたい…

僕が総悟さんの隣に移動して肩に頭を乗せると、そろりと抱き寄せてくれる。
あぁ、気持ち良い…

「なぁ、新八ィ…俺にアイツら逢わせてくれて…さんきゅーな…」

耳元でもそもそ言ってるけど、照れ屋の総悟さんがこんな事言うなんて珍しい。
酔ってるのかな?

「僕の方こそあの子達に逢わせてくれて有難う御座います。」

スリ…と擦り寄ると、体温をもっと感じて暖かい…

「桜もなァ・・性格ももう少し新八に似て可愛くなってくれたら良かったんですけどねィ…」

「…そうですね…躾で直ると思ってたのに…でも、神楽ちゃんもあんな感じだったけど好きな人が出来たら女の子らしくなりましたし…」「桜には男なんざ近寄らせねェ。」

応え早っ!若干かぶせ気味だし!!
もう、なんだかんだ言って可愛くて仕方ないんだから…

「困ったお父さん!まぁ、僕だって変な奴には渡さないけど。でも、ずっと独りなんて寂しいですよ?桜が本当に好きな人が出来て、その人が信用できる人なら僕は桜の味方しますからね?」

「ダメでィ。桜は一生嫁にはやらねェ。」

ふいっ、と顔を背けられたらちょっとヤキモチやいちゃうよ?

「もう!もう1人女の子が居たらこんなに父馬鹿にはならないんですかね?風樹も女の子だったら良かったのかなぁ…」

「…新八ィ…!まだ産んでくれるんで?」

キラッキラした笑顔で僕を覗き込む顔は期待に満ちてるけど…2人を授かった時に最初で最後って言われたの忘れたのかな…?

「そりゃ…僕だってもっと子供がいたら良いな、とか思いますけど…でもアレが最初で最後だって…」

そっと総悟さんを見つめ返すとキラキラは更に増していて

…うわ…嫌な予感…

僕がそーっと離れようと動き出すと、ガッチリと肩を抱いた総悟さんが素早く懐から何かを出して僕の口に突っ込んだ。その上ご丁寧に鼻まで摘んでくれたから、僕はソレを飲み込むしかなくって…

「なっ…何飲ませたんですかァァァ!?」

「新八くん、宇宙ってェのは広いんでさァ…」

「誤魔化すな!!」

僕が総悟さんの頭を掴んでブンブンと振り回すと、彼はギブギブと両手を上げて幸せそうに笑った。
何でそんな顔…?

「女が絶滅する星、ってのは広い宇宙には結構な数有るみたいでねェ。そこがそれぞれ独自に研究を進めてるみたいなんでさァ。」

「…で…?」

「今回新八に飲んでもらったのは女になる薬なんでさァ。」

にっこり、と笑う顔はカッコいいけど…
女になるって…?
僕が…?

「って!何て事してくれたんだよ馬鹿っ!!」

「大丈夫でィ、子供産んだら男に戻るタイプにしておいたから。」

「大丈夫じゃ…っ…!?」