りんごの花



ふと見上げると、何処までも続く真っ青な空。
あぁ、今日も良い天気だ…

段々と暖かくなってきた今日この頃、もうすぐ長い休みに入るってんで、ガキどもがはしゃぎまくってる。
きゃっきゃっと楽しそうな集団を尻目に、俺は煙草に火を付けて、静けさを求めて裏庭に向かう。

「坂田センセー!さよーならー!」

「お〜」

可愛らしい女子高生達が、俺を追い越していく。

「銀八っつあん、GWはドコ行くのー?」

「お〜?ワイハワイハ。」

「ウソつくなよー!ってか古っ!!」

目ぇキラキラさせた男子高生達が、俺を追い越していく。

ったく…少しは静かに出来ないもんかね?
出来ねえんだろうな…まぁ、仕方ね〜か。若いんだし。
今しか出来ねえ事ってのが、たっくさん有るんだからな。
だからそれでもそんな子供らが幸せであるように、なんて思っちまう俺は、中々良いセンセーしてると思う。


すれ違う子供達をテキトーにあしらって、ようやっと裏庭に着くと、そこにも浮かれた子供たちの姿。
何人かで固まって、並んでなんかやってる…写真、撮ってんのか…?

そこから少し離れた所に、緑に紛れこむようにそっと佇む薄紅色。
白い頬をうっすらと染めて、嬉しそうに、でも少し悲しそうに微笑む少年…

ま〜たアイツの事見てんのか。まったくドコが良いのかね〜?
まぁ、ソレが恋ってモンなんだろうねぇ。

集団の方を見ると、栗色の髪の少年とピンクの髪の少女が隣り合って喧嘩をしている。
…あぁ、そういやぁこないだ、なんか言ってたっけ、あの眼鏡。


『神楽ちゃんって沖田君とすっごく仲良いと思いませんか…?』

『はぁ?眼鏡の度、合ってる?志村くん?』

『合ってますよっ!先生こそ眼鏡割れてんじゃないですか!?…だって神楽ちゃん…沖田君と喧嘩してる時すっごく楽しそうだし…沖田君だって………お互い好き同士なんじゃないですかね…あの2人…』

『そんなもんかね〜』

『坂田先生、もうちょっと心理学とか勉強したらどうですか?』


…あぁ、あん時はムカついた。
眼鏡叩き割ってやろうかと思った。
まぁでも俺は大人だし?
教師なんだからそこら辺は寛大だし?
迷える生徒には手なんか差し伸べちゃったりするし?

それになぁ…あんな顔されたら…
悲しくて仕方ないって顔を、無理矢理笑顔になんかされたら…
その上、授業中も事ある毎にアイツの方を見て、幸せそうに頬染めてんのなんか見せられたら…
気付かない俺じゃないからねぇ…

仕方ないんで、少しだけ背中を押してやろうと志村の方に歩み寄ると…なんだ…?いつものように突っ込み入れてんぞ…?

良く見ると、志村の手には携帯電話が握られてて、それでアイツらの写真を撮ろうとしているようだった。

「もうっ!沖田君も神楽ちゃんも喧嘩しないでよっ!」

「なんで新八がカメラやってるネ!そんなのジミーにでもやらせろヨ!」

そうだそうだー!と周りに居るヤツラが山崎を見ると、何で俺ー?!と山崎が叫んで志村に助けを求める。

「僕の携帯カメラが良いって言ったのアンタらだろ!?」

「だって志村のケータイカメラ、良いヤツじゃねぇかィ。ちゃんと俺にも送んなせェ。」

「…うっ…うん…でもっ!ちゃんと並んでくれないと写真自体撮れないからね!?」

「じゃぁ、チャイナと並べんなィ。」

「そうアル!なんでコイツなんかと!」

「背の順です。」

グッとつまった二人の口が止まった今がタイミングか。
ガサリ、と音を立てて俺が出ていくと、子供達がわぁわぁと騒ぐ。

「何やってんだ?おまえら…」

志村の携帯を俺がヒョイッと取り上げると、神楽と沖田が志村に駆け寄ってくる。

「もうすぐGWだから、皆のカオ忘れないように写真撮ってるネ!」

「志村は俺らに引き摺り込まれただけだから悪くねェ…」

お〜お〜、必死だねぇ…
なんだ、俺が何かする事なんかね〜じゃん。

「んじゃぁお前も入れや、志村。せめて眼鏡だけでも一緒に写メっとかないと一番初めに忘れられんぞ〜?」

俺が、にやん、と笑いながらからかうように言うと、憤慨した志村がむうっと膨れる。

「なっ…んな事ねーよ!!ね?神楽ちゃん?」

「銀ちゃんの言うとおりアル。オマエなんか一番に忘れるネ!」

「そうだねィ、新平くん。」

「誰だソレっ!?」

二人に両側を掴まれてゆさゆさと揺さぶられながら、それでもさっきまでと比べると格段に嬉しそうな笑顔で皆と並ぶ。
そんな姿を見ていると、俺の頬も自然に緩む。
変な誤解をしてるからなのか、恥ずかしいからなのか、志村は隅っこに納まった。
それでも、志村は真っ白い頬をうっすらと染めて幸せそうに笑ってる。
隣同士になれなくても、あんなに幸せそうだ。
まるでそこに花が咲いたように。

「んじゃぁ、撮るぞ〜」

折角なんで、ちょっとだけサービスしてやろうと、ズームを目一杯使って一人だけ写してやる。

あ〜…成程志村が微笑む筈だ。
あんな幸せそうなアイツの顔、誰も見た事なんかねぇだろ。

「あ、ワリー。指写った。」

俺が言い訳すると、神楽がむうっと膨れて怒鳴りつけてくる。

「何やってるネ!銀ちゃんの役立たず!!」

「撮るぞ〜」

すぐにパシャリとシャッターを押すと、中々傑作な写真が撮れた。
そのまま携帯を志村に投げると、焦った志村があわあわと駆け寄ってくる。

「なっ…!?何すんだコノヤロー!!」

「見てみ?プロカメラマンばりの写真。」

ふふん、と笑ってやると、画面を見た志村がグッと口ごもる。
アイツの写真もちゃんと見える画面にしといたからな。

「…有難う御座いました…」

驚いたような、悔しそうな、それでも嬉しそうな顔を見せられると、なんだか良い事をしたような気分になって心が浮き立つ。
カチリ、と煙草に火を付けて、見上げた空は青。
気持ちの良い季節になるじゃね〜か、コノヤロー

写メ送れヨ!アドレス…とか浮かれた子供達の声も心地良い。

良い事したな〜、俺。
だってアイツら、休み明けにはもっと幸せになってんだろ?
だってホラ、志村のアドレス聞いたアイツが小さくガッツポーズしてんじゃん。

まぁ、頑張れ子供達。
センセーは君達の健闘を祈る。


END


makiharanoriyuki/ringonohana
マッキーが好きです。