時を駆けた少年



あの子と喧嘩してすぐに父上の具合が悪くなって。それからの姉上と僕は、それまでのような生活は出来なくなってしまった。
そして暫くして父上が亡くなって、僕らは生きていくだけでも大変な生活を送る様になった。

それでも、ふとした瞬間に想い出す大好きだったあの子。
バタバタしていて逢えなくなったけど、あれからも、僕に逢いに来ていてくれたんだろうか…?
それとも、もう僕の事なんか忘れてしまったんだろうか…?
僕の事をお嫁さんにする、なんて言ってたっていうのに随分と薄情なものだ。
…まぁ、子供の戯言だったんだろうけど、僕は結構本気でそう想ってたんだからな!
だからきっと、16歳になった今でも彼女の1人も出来なくて…駄眼鏡、なんて馬鹿にされているに違いない。
…決して僕がモテない、とかじゃないから!

「新八ぃ、何ブツブツ言ってるアルカ…?キモいヨ。」

「ちょっと考え事してただけだろ!?キモいって何だよ!?」

「どーせエロい事考えてたアル。顔がキモいね。」

「んな事考えてねーよ!!傷付くわ!!」

あの子とはそんな、エロとかそんなんじゃねーし!
キッ…キスぐらいだし!!
…約束のちゅう…とか…したんだよな…
柔らかかった…

「やっぱりエロい事考えてるネ。不潔!寄らないで!!」

「さしてエロくねーよ!想像してる神楽ちゃんの方がエロー!」

僕らが言い合いをしていると、ゴツン、と頭に拳固が落ちてくる…痛ぁ…

「お〜い、ハシャグなガキども。今日は依頼入ってんだからそろそろ行くぞ〜」

「「はーい」」



父上が居なくなって、暫くはなんとかやりくりしていたけど、その内に姉上が働くようになって。
でもそれだけじゃ生きてなんかいけないから。
僕も寺子屋を辞めて、色々とバイトを転々とした。
天人がやってきたこんな世の中じゃ侍は肩身が狭くて、ちゃんと働けないでいた僕は、今は小さい頃から仲が良かった神楽ちゃんのお父さ…お兄さんの所で万事屋として働かせてもらっている。
稼ぎは…万年ジリ貧だけど、それなりには生活できるぐらいは働いている。
それに、そんな事より大切な事を、僕の雇い主…銀さんは僕らに教えてくれている…と、思う。

「ところで銀さん、今日の仕事はドコでどんな事をするんですか?」

道具とかいらないのかと僕が聞いてみると、銀さんがニヤリと笑う。

「ん〜?何か、ケーサツ関係の屯所として使ってる屋敷の修繕。道具は全部、向こうで用意して有るってよ。」

「へぇ!そういうしっかりしたトコなら依頼料もちゃんと貰えますね!」

「お〜、ちょっとぐらいぼったくっても分かんねぇしな。」

「そうですね。」

2人でニヤリ、と笑い合うと楽しくなってくる。
久し振りにまとまったお金が貰えるな…どうしよう、やっぱり一番はお米買わなきゃ。
味噌とか醤油とかも足りなくなって来てるし…イザと言う時の為に乾麺も買っておこう。
重い物ばっかりで買い物大変だから、銀さんにスクーター出してもらって…あ、神楽ちゃんと定春にも逃げないで居て貰わなきゃね。人一倍食べるんだから、それぐらいはお手伝いして貰わないと!

…って…僕ってすっかり主夫が板についちゃってるのが悲しい…
姉上の壊滅的な腕のおかげで料理もそこそこ出来るし、掃除も洗濯も得意だ。
ちょっと悲しいけど、いつでも嫁に行けるんじゃね?僕…
まぁ、あの子以外とそんな事する気は無いけど…
そうじゃなかったら、普通にお嫁さん貰うし。
…あぁ、九兵衛さんの所に婿に入るって手も有るか…どこかに修行に行っちゃってるけど…

そんな事考えてちょっと悲しくなっていると、厳つい門の前に着く。

「お〜、ココ、ココ。」

そこには達筆な筆文字で
『武装警察 真選組』
と書いてあった。
…武装…?って…
…うわぁ…なんか…凄い威圧感…
チョロイ、とか思ってたけど怖い所なんじゃないかな…ココ…
門番の人も強面だし…黒い制服がより一層怖い感じを出してるよ…

「万事屋で〜す、依頼を受けて屋敷の修繕に来ました〜」

僕がちょっとビビってると、銀さんは何事も無かったように門番に話しかける。
そんな言い方したら怒鳴られるんじゃ…!?

「あぁ聞いてる。中に入って副長の所に行ってくれ。」

「ふくちょー?」

僕らが首を傾げると、その人は親切に場所を教えてくれた。

「へ〜い。」

…なんかジロジロ見られてる気はするけど、すんなりと入れてもらえた。
見た目は怖いけど、親切な人だったのか…悪い事したな。



中庭を横切って、教えてもらった通りに進んでいくと、目的の場所がやけに騒がしい。
なんか…爆音とか…聞こえてないか…?

3人で顔を見合わせて首を傾げていると、物凄いスピードで誰かが僕らの方に駆けて来る。

ふわりと揺れる、栗色の髪。
白い肌に、蒼色の瞳の美少年…
あの色は…忘れられる訳がない。

「…そーくん…?」

思わず僕が呟くと、その人がピタリと止まる。

「…新八ィ…?」

驚いたように、きょとん、と僕を見る表情は昔のまんまだ。
でも、背も伸びて、腕も足も伸びて、すっかり大きくなったその人は大人の男の人で…
どうしよう…カッコ良すぎて…じたばたしそうだ…