大型犬に懐かれた、夢を見た
チュンチュンと小鳥がさえずる声で目が覚めた気持ちの良い朝。
暖かい布団が気持ち良くて、なかなか目が開かない…なんだか凄く良い香りもするよ…柔軟仕上げ剤、変えたんだっけ…?
このまま布団に潜っていたいけど、そんな訳にはいかないよね…どうせ今日も、万事屋に仕事はないけれど、私が行かないとアノ2人は1日グータラするんだもん!
寝返りを打ってカーテンから差し込む眩しい光の力を借りて、えいっ!と気合いを入れて目蓋を開くと、凄く近くに、ぼんやりとぼやけても尚キレイな顔が見える…
朝日を背負ってるっていうのもあって、栗色のサラサラな髪がキラキラと光ってる…それに、邪気の無い寝顔がなんだか可愛い。思わずボーッと見惚れてしまうぐらいに………ってェェェ!?
なっ…なんでェェェ!?
なんで沖田さんが私の布団で、それも隣に寝てるのォォォ!?
ゆっ…夕べ私、ひとりで寝たよね…?
………うん、誰も居なかった!………ハズ………!!
イヤ!それ以前に!私とは顔見知り程度の沖田さんが万が一同じ部屋に居たからって、ぜっっったい一緒になんて寝る訳が無い!
無惨にも私が布団を奪われて終わりだよ!!
今頃震えながら寝てる筈だよ!!!
………でも………
目の前で気持ち良さげにスヤスヤと眠るこの人は…沖田さん…だよね…?
ゴシゴシと目を擦って見ても、やっぱりソコにはキレイな寝顔…
一体…私が寝てる間に何が有ったっていうのォォォ!?
………いちおう!
いちおう、布団をめくって中を確認すると、私はしっかり寝間着を着ていた。
………良かった………!
「…んー…」
おっ…起きたァァァ!沖田が起きたァァァ!!
自然と私の体がビクリと跳ねあがったんでそのまま後ずさろうとしたのに、ぱかりと開いたキレイな蒼の瞳に掴まって、動けなくなってしまった…
「おはよーごぜーやす」
「おっ…おはようございます…」
ふっ…普通に挨拶されたけど…
あれ…?コレって普通の事…?
良くある事なの…?
「久し振りに良く寝たぜィ…」
私が呆然と沖田さんを見ていると、ひとつ大きなあくびをして、むくりと起き上がって布団を出…ってキヤァァァァァァァァァァ!!!
なんで服着てないのォォォ!?
こんな方法で沖田さんの髪の色が地毛だなんて知りたくなかったよォォォ!!!
「おっ…沖田さんどうしてココにィィィ!?」
マッハで起き上がってその姿を見ないように後ろを向いたけど、もう目に焼きついちゃったよぅ…
後ろでゴソゴソと音がするのは気になるけど…怖いけど…振り向くのはもっと怖いよ…
「え?昨夜の事覚えてないんですかィ?」
意外そうにそう言われるけど、私には沖田さんに会った記憶すら無いんですけどォォォ!
何かしたの!?私何かしたのォォォ!?
「ゆっ…夕べって私何かしましたかァァァ!?沖田さんがいついらっしゃったのかも覚えてませんけどォォォ!!」
「覚えてねェって…ヒデェなァ、パチ恵ちゃん。」
すぐ後ろからそう声が聞こえて私が気配を感じた時には、伸びてきた、シャツに包まれた腕が絡みついてきて拘束されてしまった!
イヤァァァ!苛められるゥゥゥ!!
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいィィィ!」
私が小さくなって震えると、沖田さんの拘束が弛くなる。
たっ…助かった…?
「なんで怖がってんでィ。抱きしめてんだぜ?ソコは赤くなる所だろィ。」
「へっ…へぇぇぇぇっ!?」
思ってもいなかった言葉に驚いて勢い良く振り向くと、ソコには拗ねて膨れた沖田さんの顔………可愛い…かも…
ポカンとそのまま顔を見ていると、咳払いをした後、人差し指を立てて更に顔を近付けてきた!?
「仕方ねェ、ここまでの慣れ染めを俺が説明してやらァ。ちゃんと思い出して下せェよ?」
沖田さんがそう言って背筋を正して正座したんで、私もそれに倣ってから大きく頷いた。
「昨夜俺ァ見廻りの途中で此処に寄ったんでさァ。前通ったら庭でゴソゴソ音がしてたんでねィ。」
「えぇっ!?何が…」
「まぁソレは罠にかかった近藤さんだったんですけどねィ。」
…近藤さん…
局長さんがそれで良いんですか…?
土方さんも山崎さんも沖田さんも罠にかかった事ありませんよ…?
「そんなんで近藤さんを罠から外してやって手が汚れちまったんでちょいと手洗いを借りて…」
「ドコから入ったんですかァァァ!?」
私が突っ込むと、沖田さんがニヤリと笑った。
近藤さんといいさっちゃんさんといい、ウチのセキュリティどうなってるの!?
「そりゃぁ…」
「やっぱ怖いからいいです。それでどうしたんですか…?」
「おう。喉も乾いてたんで茶でも貰おうかと此処に来たんでィ。」
沖田さんがココに…?
全然覚えてないけど…でも今居るって事は来たって事だよね…?
「…すみません…全然覚えてません…」
「えっ…?」
なんでそんな不思議そうな顔するの!?
本当に記憶に無いもん!!
「…だってパチ恵ちゃんが俺を布団に引っ張りこんだんですぜ…?その上あんな事…」
涙目で頬を染めた沖田さんが、私から目を逸らす…
ちょっ…なっ…えぇぇぇぇぇっ!?
私、沖田さんに何かしたのォォォ!?
頬を染めるような何かしたのォォォ!?
…まっ…まさか…沖田さんが全裸だったの…私のせい…?
剥いたの!?
剥いちゃったのォォォ!?
「わっ…私何をしたんですかァァァ!?」
「ヒデェや…俺にあんな事したのに忘れてるなんて…」
イヤァァァ!!!
何したの私ィィィ!?
何したの私ィィィ!?
◇
目ん玉ぐるぐる回して慌てふためいてるパチ恵ちゃんは役に立たないんで、こっからは俺、沖田総悟が説明してやらァ。
真っ赤に顔を染めたパチ恵ちゃんはすんげぇ事想像してんだろうけど、俺達はエロい事なんざして何もしてやせん。俺ァ紳士ですからねィ。
昨夜、茶を貰おうとこの部屋に入ってきた俺は、すっかり寝入っちまってるパチ恵ちゃんを起こすのがしのびなくて、枕元に座りこんで可愛らしい寝顔をガン見してたんでさァ。
で、まぁ暫く見てたらムラムラしちまって、ちゅうぐらいなら解んねェよなァ…と思って………仕方ねェだろィ、好きなコの無防備な寝顔なんて破壊力高ェモン見続けてたら、色々反応しちまうんでィ………そーっと顔を近付けてたら、パチ恵ちゃんが黒い大きな瞳を開いちまったんでさァ。
俺とパチ恵ちゃんは、どこかで逢っても挨拶するぐらいの関係でしかねェ。
そんな俺がこんな時間に部屋に入り込んで寝込みを襲ってるなんざ、確実に嫌われる。
もう、目も合わせてくれねぇかもしれねェ。
そう思ったら、俺は一ミリも動けなくなった。
それどころか、きっと近藤さんを見る姐さんみたいな目で見られちまう…そんな目で見られたらショック死できる自信が有りまさァ。
あぁ、短い人生でした…
一瞬でそこまで覚悟を決めたってェのに、すんげぇ焦って変な汗を全身から噴き出して固まっちまった俺を見たパチ恵ちゃんは、満面の笑みで笑いかけてくれた。
俺には一度だって見せてくれた事が無かった、優しくて蕩けるような、満面の笑み。
それだけでも驚いたってェのに、パチ恵ちゃんは着ていた布団を捲り上げて俺を誘ってくれたんでィ。
『外は寒かったでしょう?暖まっていって良いよ?』
って…
それで俺ァ気づいたんでィ。
パチ恵ちゃんは寝惚けて何かと俺を間違えてるって。
いくらボケたおしてるからって、パチ恵ちゃんが男を布団に誘う訳が無ェ。そんなん有り得ねェ。
きっと、犬か猫と間違えてるんだろうって。
だから、俺はそのチャンスを掴み取ったんでィ。
隊服を脱ぎ捨ててそーっと布団に潜り込むと、散々俺の頭を撫でまわしたパチ恵ちゃんは、俺の頭を抱きこんだまま眠っちまった。
おっ…おっぱいに顔を押し付けて…すんげぇやわらかくて気持ち良かった…
パチ恵ちゃんの体温も、優しい香りも、やわやわで滑らかな触り心地も。全てが気持ち良くて、俺ァここ最近じゃ全く無かった深い眠りに落ちる事が出来た。
このコと一緒なら、俺ァこの先どんなになったって安らぐ事が出来る。
人として、生きていける。
だから、決めたんでィ。
◇
「…沖田さんー!私一体沖田さんに何を…」
「俺、もうお婿に行けやせん…」
おムコォォォ!?
おムコに行けない何をしたの私ィィィ!?
「なんで、パチ恵ちゃんが俺の嫁になって下せェ。」
なんとか混乱から立ち直ってすぐに、私は又意識を飛ばしそうになってしまった。
おっ…お嫁さんって…えぇぇぇぇっ!?いきなりプロポーズされたの私!?
そうか、沖田さん私をからかって!からかって………正面に見えるのは、ビックリするくらい真剣な沖田さんの顔。
本気…なの…?
そう思ってしまうといつもの真選組の隊服のはずなのに、上着が無くってスカーフが外に出てるってだけなのに、沖田さんが王子様みたいに見えるよぅぅぅ…
しっ…心臓が!心臓がァァァ!!
「わっ…私…私っ…!」
「パチ恵ちゃんが俺を布団に誘ったんですぜ?その上触りまくられて…」
イヤァァァ!
私っ!私何て事をォォォ!!
やっぱり剥いたんだ!
私が沖田さんを剥いたんだァァァ!!
「でも、俺嫌じゃなかった…寧ろ気持ち良かった…パチ恵ちゃんの事が…好きだから…」
こっ…ココで蕩けるような笑顔は反則だよォォォ!好きって…好きって…ドキドキが止まらないィィィ!!
こんな顔で笑えるの!?このヒト…だっていつもはニヤリとかじゃない!!
そんな顔…そんな顔…見せてくれた事無いのに…
「セキニン、取ってくれやすよね?」
にっこりと笑う顔は、凄く優しい…
でも!これって脅迫っぽいよ!!
「もう俺、パチ恵ちゃんが居ないと眠れやせん。こんなに安眠出来たの久し振りなんでさァ…」
ふわりと笑う顔は、子供みたいで可愛い…たたみかけないでェェェ!!
もう!なんなのこのヒト!!
無表情なドS王子なんじゃなかったの!?
こんな…こんな色んな表情いっぺんに見せられて…ドキドキさせられて…そっと大事なものみたいに触れられて…
こんなの…こんなの好きになっちゃうに決まってるじゃない………
「…沖田さんズルイです…私、何も覚えてませんから…」
「そんな理由で俺から逃げられるとでも…」
怖い表情で睨んでくるけど…ソレって悲しい顔…だよね…?
そんな顔…させたくないよ…
「…だから、今度はちゃんと私が起きてる時に来て下さい。私も…ちゃんと…覚えていたいです…」
そう私が言うと、驚いたように目を見開いた沖田さんが、とても嬉しそうに笑ってしっかりと抱きしめてくれた。
それが嬉しくて気持ち良くって、さっき沖田さんが言っていたのはこういう事なのかなって思った。
「私も嫌じゃないです…むしろ気持ちいいです…沖田さんが好きになっちゃいましたから…」
その日から、私の部屋には沖田さんの寝間着と変えの制服が置かれるようになりました。
…私が責任を取る日も、そう遠くはない…のかもしれません。
END
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