サイド十四郎

山崎とチャイナに脅された俺は、情け無ぇが暫く身動きが取れなかった。
そう、言葉通りに指先すら動かせなかった。

そういやぁ、確かに最近パチ恵が俺に冷たい日が有った。
それは必ず総悟と二人きりの弁当の時間を邪魔した日で…

随分と近くなっていた筈の距離が、少し遠く感じた。
その日はおやすみのキスも無かったし、目を合わせてくれる事も少なくて。
物言いたげにチラチラと俺を見てても、俺がパチ恵を見ると逸らされた。

それは、告白した俺を男として意識してくれたからだと思ってたが…冷静に考えると嫌われイヤイヤそんな事無いあって堪るかそんな事! 大体俺は総悟とパチ恵の事を認めてねぇし!
兄としてだけじゃ無く、パチ恵に惚れた男としてそんな事認められる訳が無ぇ。
たとえその事でパチ恵に泣かれ…イヤ、アイツを泣かすヤツは許さん。


俺にしては珍しく、晩飯の支度をするパチ恵をジッと見つめてると、俺の視線に気づいたパチ恵が嫌そうな顔をしてフイッと俺から目を逸らす。

なっ…!?

「パチ恵!?おまっ…今俺に嫌そうな顔…」

「十四郎お兄ちゃん、今日授業サボってお昼より早くから屋上に居たよね…?総悟くんと2人でお昼食べられるの今日だけなのに…それ以外はお兄ちゃん達とお昼食べてるのに…どうして邪魔するの…?」

涙目でじっと俺を見る姿は可愛いけど!
これぁ…ヤバくないか…?
なんか言い訳…言い訳…

「…タバコ吸ってただけだ。俺は別に邪魔なんかしてねぇし?」

「したもん!総悟くんとお兄ちゃんがずっとケンカしてたから、私総悟くんとお話出来なかったもん!」

うわ、ほっぺた膨らました…俺をどうしたいんだコイツ…可愛いんだよ!

「あれは総悟が…」

「十四郎お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから大人な対応で流してすぐに居なくなってくれたらそんな事にならなかったもんっ!邪魔するお兄ちゃんなんて嫌いだもん!1週間に1回しか2人っきりになれないのに…大っ嫌い!!」

そう言い捨てたパチ恵はすっかり横を向いちまって、もう俺を見てもくれねぇ…
ショックで目を泳がせた俺の視界に、馬鹿にした感満載の晋助の顔が飛び込んでくる…ムカつく…


仕方ない…物っ凄―――く嫌だが、その日だけは総悟を見逃してやるか…
じゃねぇと俺の心が死ぬ…
既に半死半生だ…

でも!
残りの六日は絶対ぇ譲らねぇからな!
パチ恵がどんなに可愛くおねだりしても絶対ぇ!!