愛を謳え



今週も又、何もできないまま金曜日になってしまった。
明日からは学校が休みになってしまうから、大好きなあの人に逢えなくなってしまうというのに。
私のこのドキドキと暴れる心臓は大人しくなって良いのだけれど、その代わりに胸はたくさんの不安でぎゅうっとイタくなってしまうのだ。
そんな週末は御免だから、なんとかしてあの人に私のこの切ない気持を伝えようと毎日計画を立てて行動したのだけれど…

月曜日には、朝礼で気分が悪くなったフリをしてあの人の方に倒れたつもりが、受け止めてくれたのは仲良しの神楽ちゃんで。
私は女の子にお姫様抱っこされて、保健室まで運ばれたのだった。

火曜日には、あの人はいつも購買でパンを買っているからとさり気なくお弁当をプレゼントしようと頑張ったというのに、その日に限ってあの人はお弁当を持ってきていたのだ。
当然のことながら、余ったお弁当は神楽ちゃんのお腹のにしっかり納まってしまった。

水曜日には、お弁当がダメなら私が購買でパンを買って話のきっかけにしようと昼休みの戦争に挑んでみた。
でも弱肉強食の世界で私が勝てる訳も無く、その日のお昼は姉さんの可哀想な卵を頂いた。

木曜日には、遅刻覚悟で通学路で学校にやってくるあの人を待ち伏せしてみた。
その日に限ってあの人は部活の朝練に来ていたらしく、すっかり遅刻した私が教室に着いた時には夢の中に旅立ってしまっていた。


そんな風に毎日頑張ってみたけれど、何も出来ないまま後悔だけが積み重なってしまった今日、金曜日。
今日こそ…今日こそ私の気持ちをあの人に伝えるんだ!



…と意気込んだというのに、結局なにもできないままもう放課後になってしまっている。
でも、今日の計画こそはバッチリ………の…はず………

今日の私達の掃除当番は、皆がサボる音楽室だから。
いつも当然のようにサボっているあの人を、いつも真面目に掃除している私が強制連行するのは…不自然じゃない…よね…?
そう自分に言い聞かせて、思いっきりよく後ろの席に向き直る。

「…っおっ…おきたくんっ!」

「…志村…?」

私の勢いにビックリしたのか、沖田君はきょとんとしたまま首を傾げている。そんな姿まで格好良いよ!
そんなの見せられてしまったら、私の心臓はドキドキが酷くなって、頭にも顔にも血が上ってしまって何も言えなくなってしまうよ!!
バカっ!私のヘタレっ!!

あうあうと挙動不審のまま次の言葉を発せられない私を暫く見ていた沖田君が、目を泳がせてそのまま逸らしてしまった…

うわぁぁぁん!困らせちゃったよぉぉぉ!!
どうしよう…どうしよう…

「…っあのっ………掃除が………」

「掃除…?」


「パチ恵ェェェ!真っ赤な顔でどうしたネ!?ドSに苛められたアルカ!?」

「んなガキみてェな事するかよ死ねクソチャイナ!」

「オマエが死ぬヨロシ!!」

あわあわしていた私を心配して神楽ちゃんが飛んできてくれて、いつものように2人のケンカが始まってしまった…
こうなったらもう私が話し掛けるチャンスも無いし、とばっちりを受けないようにできるだけ遠くに離れておかないと大変な事になってしまう。

…あーあ、やっぱり今日も言えなかった…
全部沖田君を目の前にしたら何も言えない私のせいなのだけれど…でも少しだけ妬いてしまう。


楽しそうにケンカをする2人を横目に、大きく溜息を吐いて私は音楽室へと向かった。



黙々と音楽室を掃除していくのだけれど、やっぱりそこには私以外誰も来なかった。
皆サボり過ぎだよね…


「なんでィ、1人ですかィ?当番のヤツラどうしたんでィ。」


突然振ってきた声に驚いて振り向くと、そこにはここに来るはずのない人の姿が…


「おっ…沖っ…沖田君…っ…?えっと…沖田君も当番だよ…?」

「…知ってらァ…だから来たんだろィ…さっき…誘ってくれるつもりだったんだろ…?」

気まずそうにそっと私から目を逸らした沖田君が、そそくさと掃除用具箱から箒を取り出して掃除を始める。

…びっ…びっくりした…
突然現れてそんな事言われたら心臓壊れるよっ!
私は何も言えなかったのに…分かってくれて…来てくれるだなんて………やっぱり優しいよ沖田君…

そっと沖田君の様子を窺うと、意外と真面目に掃除をしている。
…何の気紛れなんだろう…?

そのまままじまじとその横顔を見てしまっていると、ふっとこちらを見た沖田君とバッチリ目が合ってしまった!

わぁぁぁぁっ!!

慌てて目を逸らしたけれども、でもこれは…チャンス…だよね…?
計画通りになってる…んだよね…?
なら…私がやるべき事はたった1つ。


もう1度沖田君を見ると、じっと探るように私を見ていた。
キレイな瞳としっかり目を合わせて、姿勢も正す。


勇気を出して…

深呼吸して………


「沖田君っ!」
「志村っ!」



好きです。




END


aiwoutae/harunaruna