はあとのヒミツ



8月12日げつようび。
今日は私、志村八恵の誕生日です。
いつもは地味で目立たない私だけど、1年に1回のトクベツな今日ぐらいは主役になれないかなぁ…なんて少しだけ期待してみたりしてる。

だって、よりによって今日が夏休み中の登校日なんだもん!
毎年なら学校はお休みだから、友達にだってあんまりお誕生日のお祝いなんてしてもらった事無いし。
ましてやあんまり親しくない人には私のお誕生日の存在すら知られて無い。

でも、今日は登校日だから…もしかしたら大好きなあの人にも私のお誕生日を知って貰えるかもしれないじゃない!
それでそれで!何かのはずみで『おめでとう』なんて言ってもらえたら…良いなぁ…なんて…ちょっとだけ期待してるんだ…

だから、朝からドキドキしながらそんな偶然を待っていたんだけど…

やっぱり私にそんな事が起こる訳も無くって…大好きなあの人はいつもと一緒で私の後ろの席でぐうぐうと寝ている。
その上、友達も皆全く知らん顔で、私のお誕生日の話なんか一言も出ない。
私のお誕生日、皆知らなかったっけ…?


そうこうしているうちに銀八先生の話が終わって、今日の登校日はそうそうに終わってしまった。

どうしよう、折角のお誕生日だし…神楽ちゃん達を誘ってケーキでも食べに行こうかな…
自分から誘うとかかなり寂しい人だけど、でもこのまま何も無く皆と別れて家に帰るなんてもっと寂しいもん!
ちょっと意気込んで私が立ち上がると、ニコニコ笑った神楽ちゃんが私の所に駆け寄ってきた。

「パチ恵ぇー!新しく出来たケーキ屋にバイキング行かないアルかー?」

「あ、今度皆で行こうね、って言ってた所?」

私が神楽ちゃんの方に向き直ると、後ろにはそよちゃんとさっちゃんとキャサリンとたまさんが私に手を振っていた。

わぁ!嬉しい!!
偶然でも、今日皆とケーキが食べられるなんてお誕生日パーティーみたい!!

「そうネ!さぷらいずぱーてぃーネ!」
「「「「神楽ちゃん!!!!」」」」

凄い笑顔で神楽ちゃんが言うと、後ろに居た皆が慌てて神楽ちゃんの口を塞ぐ。
え…?サプライズ…パーティー…?

「もう!なんで言っちゃうのよー!せっかくパチ恵を驚かせようとしてたのにー!!」

「…ごめんアル…」

「ジュウブンオドロイテルミタイダヨ、ニブイナァパチエハ。」

「パチ恵様に気付かれないように、細心の注意を払ってましたから。」

「ごめんね?パチ恵ちゃん…」

皆が口々にそう言いながら笑ってくれる。
えっと…それって…

「あれ?もしかしてまだ解ってない?」

「パチ恵様の誕生日パーティーですよ?」

「ケーキ食べ放題アルヨ?」

「ミンナデイワッテヤルヨ!」

「向こうには妙お姉様も待っているんですよ?」

「…ありがとう皆…!」

まさか、そんなサプライズを用意してくれているなんて思ってもいなかったんで、嬉しくて泣きそうになっちゃったよぅ…
でも、お姉ちゃんが待ってるなら急いで行かなくっちゃね!

私が慌てて皆の所へ行こうとすると、突然後ろから声が掛かる。

「志村って今日が誕生日なんですかィ?」

そう声を掛けてきたのは、後ろの席で紙袋を抱えてお菓子を食べていた沖田君で…
きっ…聞こえてた…のかな…?
もしかして、おめでとうとか…言ってくれるのかな…?
ドキドキしてきちゃったよ…!

「え!?うっ…うん、そうだよ?」

「へー…んじゃコレやりまさァ。」

手招きされるままに近寄ると、手を掴まれて掌の上に何かを置かれた。
それは、スーパーで良く見る大袋のお菓子で…

ハート型のパイ。
ハート型の…パイ…

そう思った瞬間私の顔には大量の血が上って来て心臓が凄い勢いで鼓動を始める。

「えっと…これ、私が貰って良いの…?」

「おう。誕生日プレゼントでィ。」

そう言った得意気な表情もカッコいいと思ってしまうのは、惚れた弱みというやつなのかな…?
でも!そんな普段見られないような表情まで見れたのは、やっぱりお誕生日の特典なのかな…?

「あのっ!ありがとう沖田君っ!!」

「おー、俺の誕生………」
「ドSパチ恵になにしてくれてるネ!お?パイもーらい!」

私が沖田君に絡まれてると思ったのか神楽ちゃんがやってきて、私の掌に乗っていたパイを見付けて食べてしまった。
沖田君がくれたハートが…!

「テメェチャイナァァァ!そりゃ志村にやったもんだろ!!」

沖田君が立ち上がって神楽ちゃんに向かって行ってしまう。
その顔は何だか嬉しそうで…もしかして神楽ちゃんと話すきっかけにしようとして私にパイをくれたのかな?2人仲良いし…神楽ちゃん可愛いもんね…
そう思ったら凄く悲しくなって、思わずポロリと涙が零れてしまった。

「なっ…志村!?そんなにあの菓子好きだったんですかィ」

「そんなんじゃ…」

凄く慌ててる沖田君に申し訳なくてすぐに涙を止めようとするけど、そう思うと余計に止まらなくて…ポロポロと涙が零れてしまう。

「おっ…おい!又菓子やりやすから!!」

そう言って今度はハート型のパイをしっかりと手に握らせてくれた。

「それから!ほれ、口開けなせェ。」

「な…」

『何?』と聞こうとしたのに、私の口に甘い何かが入ってくる。
沖田君の指と一緒に。
ビックリして思わず口を閉じたら、驚いた沖田君が飛び退っていった。え…?私噛んでないよね…?

「…いちごみるく…」

「おっ…おう…俺ァその飴好きなんでィ。」

「ありがとう沖田君…」

飴の甘さと沖田君の優しさがいっぱいに広がって、すっかり顔が緩んでしまう。
お誕生日って凄い!
こんな事があるなんて、本当に主役になっちゃった気分だよ!!


「らぶこめは終わったアルか?ドS〜?」

「もうそろそろパチ恵様を譲り受けたいのですけれど。」

「妙お姉様をお待たせしていますから。」

「いやーん!私も銀八せんせーとらぶらぶしたーい!」

「イマハツレテイクケド、ヨルニパチ恵、カシテヤロウカ?」

もの凄くニヤニヤと嫌な笑いを浮かべた皆が私と沖田君を取り囲んでるけど!
そんな事言ったら私の気持ち、ばれちゃうよ!!なんとか誤魔化さなきゃ!!!

「皆何おかしな事言ってるの!?私とそんな風に言ったら沖田君に失礼だよ!!」

「え…?志村…?」

「ごめんなさい沖田君!お菓子ありがとう。」

これ以上おかしな事を言われない内にグイグイと皆を押して教室を出る。
本当に良い日だなぁ今日は。
ケーキバイキングも楽しみだなぁ!

…あれ…?神楽ちゃんは………?




「…パチ恵が鈍いのはいつもの事アル。元気出せヨー」

憎ったらしい顔でニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべた神楽は、沖田の肩をポンポンと叩いてパチ恵の元へと掛け去って行った。

「…うるせーチャイナ…今日は志村がオメェらと出かけんの嬉しそうだったから告んの止めてやっただけでィ。あんな反応…志村絶対俺に惚れてっから!告り待ちだからな、アレ!すぐに俺がオマエらから奪ってやるから覚悟しやがれィ!!」


そう意気込んだ沖田が想いを告げる事が出来たのは、空から白が舞い降りる世界一有名な男の誕生日の事だった。



END


新八はぴば第2弾