「あ!沖田さんお仕事ですか?」

教会に通うようになった沖田は少しだけ真面目に仕事をするようになりました。
本当ならば仕事をサボって教会に入り浸りたい所なのですが、そうするとシスターパチ恵が冷たいのです。
あの柔らかな笑顔を向けてはくれないどころか、冷たい視線が突き刺さって来るのです。
可愛らしく染まる筈の頬も、全くもって色付きはしないのです。

だから沖田は少しだけ真面目に仕事をしていました。
そうしたら、この出逢い。
彼はちょっとだけ神様を信じました。

「おう、パチ恵ちゃん。市中見廻りでさァ。お前さんは買い物ですか…ィ…」

偶然沖田を見付けて大きな荷物をぶら下げて駆け寄って来るシスターパチ恵。
彼は転びはしないかと生温かく彼女を見守っていたのですが、視界に映る違和感に気付きます。
可愛らしい笑顔のその下に、可愛らしいとは言い難い、男心を掴んで離さないふたつの膨らみが揺れていたのです。

「はい!夕方のタイムセールの時間なんで…あれ?沖田さんどうかしましたか?」

「イヤ!何でもねェ!何でもねェよ!!ついでだから荷物持ってってやらァ!!!」

「…はぁ…有難う御座います。」

隣でしきりと首を傾げる彼女がニブくて良かった。
沖田はそっと胸をなでおろしました。
それでも横目で彼女を見つめる事は止めません。
その、あまりにも意外な彼女の姿に沖田の目は釘付けだったのだから…

(なん…っでィその凶器は!?清純派のパチ恵ちゃんに付いてて良い訳………有難う御座いましたァァァ!)

そう、普段逢う教会は薄暗い上、常に彼女は黒い修道服を身にまとっているのです。
それは保護色となって彼女の全体像を上手く隠していたのです。
だから、沖田がソレに気付かなくても何ら不思議はなかったのです。
彼女のダイナマイトバディに。

(そんなモンその服に包むなんざ犯罪でィ!!何処のエロ漫画なんだよ!?)

「………ですよね?」

「ひぇっ!?あっ…あぁ、そうですねィ…」

「………聞いてなかったですよね………?やっぱり今日の沖田さんおかしいですよ?何かあったんですか?」

「なっ…!…にか有ったっちゃァ有ったんですがねィ…」

(オメェのその犯罪級のソレのせいでィ!!)

沖田の心の声は届く筈も無く、難しい顔で考え込むパチ恵は真剣そのもので…

「やっぱり…私で力になれる事があったら言って下さいね!…頼りないかもしれないけど…」

純粋に自分を心配してくれるパチ恵に邪な気持ちをいだいてしまった事を、沖田は少しだけ恥じました。
ですが、本当に心配そうに瞳を潤ませて自分を見上げるダイナマイトなパチ恵を見て黙って居られるほど、沖田は悟ってはおりませんでした。
彼とて健康な十代の男性なのです。

「…そんな事ァありやせん…八恵ちゃんにしか解決できない悩みなんでさァ。」

「えっ!?そうなんですか?じゃぁ私に出来る限りお力になりますね!」

「…良いんですかィ…?」

「はい!勿論です!!」

いつもはふざけて自分が言い間違えた名前でしか呼ばない筈の沖田が、ちゃんと『八恵』と呼んでくれた。

その事は彼女の胸をドキドキと高鳴らせ、それでいて彼の悩みが真剣なものなのだと思わせたのです。
それがどんな悩みかは分からないけれど、自分が出来る事ならば彼の力になろうとパチ恵は心に決めました。


教会に戻った2人はお互いそわそわしていました。
パチ恵は沖田の真剣な悩みにちゃんと答えられるかと。
沖田はパチ恵への邪な想いで。

しかし、神の悪戯はまだまだ続くのです。
そう、その日に限って教会にはパチ恵の家族が全員揃っていたのでした。

「テメー!サドバカストーカー!!ワタシに会いたくて家まで探り当てたアルな!?気持ち悪いネ!!」

「チャイナ!?テメーが何でこんなとこにいるんでィ!?邪魔すんじゃねェよ!!」

「えぇっ!?神楽ちゃん沖田さんの事知ってるの?」

物凄く嫌そうに顔を歪める沖田と目を丸くするパチ恵。
その2人の前に仁王立ちしたピンクの髪の少女神楽が、その可愛らしい顔を歪めて沖田にガンを飛ばします。

「おうヨ!シュクメーノライバルネ!生意気にもコイツ、ワタシが殴っても死なないヨ。」

得意気に、しかし少し嬉しそうにそう言う神楽の頭を、後ろから伸びた手が拳骨しました。

「神楽〜、おまえ仮にも教会に住んでんだから殴って殺すとか言っちゃダメだろ〜?」

神楽の後ろからふらりと現れたのは、この教会の牧師で3人娘の父親代わりの銀時です。
いつもは『死んだ魚の目』と称されるその目は、今は何故かギラリと光を帯びて剣呑なモノとなっておりました。
大切な娘に付いた悪い虫を見定めるように…

「…アレ?君なに?何でパチ恵と仲良さげに並んじゃってんの?なにウチの荷物持ってくれちゃってんの?アレ?もしかしてウチのパチ恵の彼氏面?彼氏面なの?許しませんよ?どうせパチ恵の躯目当てなんだろ殴り殺すよ?大体パチ恵は神に仕える身ですからね?嫁に行くにしたって偉大なる父、そう俺の所に…」

「誰がやるかこの甲斐性無しがァァァ!!」

ゴスゥゥゥ!!という音と共に沖田の顔のすぐ前でガンを飛ばしていた銀時が消えました。
そう、彼は何者かによって殴られ、地べたに貼りついていたのです。
そして、その代わりに沖田の目の前に現れたのは、美しい女の顔をした般若…

「まさか貴方…ウチのはっちゃんに手なんか出してませんよね…?」

にこり、と微笑むその顔はひどく美しいが、背筋が凍るほど恐ろしいものです。
その上その女性は…

「…姐さんじゃねェですかィ…」

沖田の上司、近藤が熱を上げているスナックすまいるの妙でした。

「あら、真選組…はっちゃん、今すぐこっちにいらっしゃい?野良犬は躾がなってないから襲われるわよ?」

「あっ…姉上っ!沖田さんはいつも熱心にお祈りされてるんですよ?それに今日は買い物のお手伝いをして下さって…」

「姉上ェェェ!?」

そう言われてみれば、眼鏡を外した顔はよく似ているかもしれない。
勿論パチ恵の方がずっと可憐だが。
沖田はそう思いましたが、口には出しませんでした。真選組一番隊隊長とて命は惜しいからです。

「あら、私が姉ではおかしいかしら?それともシスターがキャバ嬢って事?こんな甲斐性無しの稼ぎだけじゃ、家族4人が生きていく事なんて出来ないもの。神様だってそれぐらいお許しになるわ。」

フン、と鼻を鳴らした妙は銀時の首根っこを掴んで、逆の手でパチ恵の手を掴みました。
そして神楽に声を掛けてスタスタと教会の中に入って行きました。沖田だけを残して。

「残念だったアルナ。姐御がオマエを認めるなんて一生無いからサッサとパチ恵は諦めるヨロシ。」

こちらもフフンと鼻で笑った神楽は、沖田の手から荷物を奪い取って妙に続きました。

1人残された沖田は少しだけ困惑していました。
喧嘩相手のチャイナ娘と、上司の想い人と、シスターパチ恵。
彼らが言うように、自分は彼女らを特別に想っている訳じゃないと言うのになんという言われようだ。
この自分が恋愛感情などちゃんちゃらおかし…

そう思うと浮かぶパチ恵の柔らかい笑顔。
すると沖田の心は暖かくなりました。

そして浮かぶパチ恵のダイナマイトボディ。
すると一部が熱くなりました。

心臓はドキドキと早鐘を打って、血流は全身を駆け巡る。

それは………

頬を染めた沖田は、心臓を押さえつつ、大人しく屯所へと帰りました。
気付いてしまった気持ちをもう一度ちゃんと考える為に。