ガラナって北海道にしか無い飲み物だったなんて知らなかった
ここ最近、私はなんだかおかしい。
胸がドキドキして、顔に熱が上って、どうしても苦しくって仕様が無い。
…そんなの…原因なんて分かりきってるけど…でも…だからってそれをすぐになんとか出来るほど簡単な事じゃない。
私はあの人とそんなに関わりが有る訳じゃないし…
何て話しかけたら良いか分からなくて、私から話しかける事なんて無い、ってレベルなんだし…
急にそんな事なんか、言える訳無い。
大体、普通に生活していたら出逢う事なんか無かった人だから…
余計にどうして良いか分からない。
ひょんな事から私は万事屋の一員になって、物凄く世界が広がった。
寺子屋に行って、バイトをしているだけでは絶対知り合う事なんか無かった人達と知り合う事が多くなった。
攘夷浪士の人達や。
大きな会社の社長さんや。
宇宙海賊春雨の人達や。
将軍様や。
…武装警察の人達や…
怖そうだけど、皆面白くて優しい人達で…
なんとなく、街で会うと話しかけてくれたりする。
それがちょっぴり楽しくて、嬉しかったりしてたのに。
ある日突然、あの人だけ変わってしまった。
姿を見かけるだけで心臓が煩くなって、目が合ってしまったら爆発しそう。
話しかけられたりしたら、顔に血が上って倒れてしまいそうで、全然上手く喋れなくなってしまう。
黙って俯いて頷くだけなんて…きっと変な奴だって思われてるに決まってる。
それでもここ最近は、なんとか頑張ってお天気の話ぐらいは出来るようになった!
…お話の内に入るかどうかは、甚だ疑問だけど…でも、私の中では凄く頑張ってる…よ…?
神楽ちゃんとは、いつも楽しそうに喧嘩してるけど…
きっと、あの人は神楽ちゃんと居る方が楽しいんだよね…?
もしかしたら、神楽ちゃんの事好きなのかもしれない…
でも!私が1人での買い物の帰りに荷物を持ってくれたり、お団子を奢ってくれたりする事もあるし…
決まって必ず
『姐さんに宜しく』
と、言われるけれど…
でも…嫌われては…いないよね…?
あの人の上司がうちの姉上の事が好きだから…だから、あの人も私に優しくしてくれる、っていうのは分かってる。
分かってるけど…でも…やっぱりそれでも嬉しくて…少しだけ、期待してしまう。
あんなにカッコ良くて、綺麗で、強くって、優しい人なんだから…きっともう彼女が居るだろうけど…
でも。
それでも、好きだって思うくらいは…良いよね…?
この気持ちが収まるまでは…そっと想う位…良い…よね…?
「パチ恵ー!タイムセールの時間アルヨー!!」
ぼうっとしていた私に神楽ちゃんが叫んでくれて、やっと物想いから浮上する。
時計を見ると…
大変だっ!!もうすぐ始まっちゃうよ!!
「ありがと、神楽ちゃん!神楽ちゃんも一緒に行く?」
神楽ちゃんに声を掛けると、こくりと首を傾げて考える。
「沢山買うアルか?」
「ううん、今日はそんなには買わないよ。」
「じゃぁ酢昆布買えないネ…パチ恵1人で行って来るヨロシ。」
すぐに興味を無くして、見ていたテレビをワイドショーに変える。
…ああなったらもう動かないなぁ…
「…じゃぁ行ってきます…」
軽い財布を袂に入れて私が万事屋を出ると、うぃ〜とかおぃ〜とか声がかかる。
銀さん…暇だったら、おつかいぐらい行ってくれれば良いのに…無理か…
なんとかタイムセールに間に合って、今日の晩ご飯のおかずを確保できた!
…タイムセールなんか関係なく買い物してみたいや…
はぁ、と溜息を吐いて大江戸ストアを後にする。
万事屋に帰る帰り道、自然と私の目はあの人を探してしまう。
…お団子屋さんには居ないし…駄菓子屋さんにも、ケーキ屋さんにも居ない。
いつもの公園を覗いてみても、ベンチにはあのおかしなアイマスクは見えなかった。
…今日は逢えないのかなぁ…残念…
ガッカリしてトボトボと歩きだすと、凄く近くで聞きたかった声がする!
「今日は一人なんですかィ?」
慌てて振り向くと、凄く近くに綺麗な笑顔。
うわっ!危な…っ…
唇…触れちゃうかと思ったよ…っ…!
凄い勢いで顔に血が上ってきて…きっと真っ赤になってるよ!
恥ずかしくて泣きそうになるけど、でも声を掛けてくれて、顔が見れたのが嬉しくて。
緩んでしまう顔のまま、こんにちわ、と挨拶すると、ニコリと微笑んでくれる。
「荷物貸しなせェ。送ってやらァ。」
私の返事なんて聞かないで、さっさと荷物を奪って歩いて行ってしまう。
「あのっ!今日はそんなに荷物ないですし…」
「早く来ねェと置いてくぜー」
前を向いたまま手を挙げて、こいこい、と手招きされたらもう付いて行くしかない。
私が行かないなんて思ってもいないんだよね…?
そんな姿すらカッコ良く思えて…
どうしよう…もっと好きになっちゃうよ…
彼が歩くスピードに合わせて小走りで付いて行くと、それに気付いて少しスピードを落としてくれる。
…そんな優しくされたら…勘違いしてしまうよ…
近藤さんの為、って分かってるのに…
「「あのっ…」」
同時に声をあげると、驚いた顔がジッと私を見る。
そんな顔も…素敵…だな…
先を促されたんでお礼を言うと、くつくつと笑われてしまった…
「気にすんねィ。姐さんに良く言っといて下せェよ?近藤さんプッシュの方向で。」
…やっぱりそうだよね…
そんな理由でも無かったら、この人が私に声を掛けてくれるなんて有り得ないもの…
なら…せめてこの人が喜ぶ事をしてあげたい…
「はい、姉上にはちゃんと言っておきますね。でも…こんな事してくれなくても大丈夫ですよ?近藤さんの気持ちはちゃんと姉上に伝わってますから…」
私が言うと、なんだか寂しそうな顔になる…え…?
「あの…姉上は素直じゃなくて…それに私の事ばっかり優先するんで…近藤さんの為にも私、早く恋人見付けなきゃダメですね!」
えへへ、と笑ってそう言うと、何故か怖い顔で睨まれる。
私…変な事言ったかな…?
ウゼェよ眼鏡、とか思われたかな…?
どうしよう…嫌われたら…
「あ!あのっ…無いですよね!私に恋人なんて。百年早い、って言うか…あの………調子乗ってすんまっせんでしたぁぁぁぁ!」
思いっきり頭を下げて謝ると、肩を掴まれて頭を上げさせられる。
なっ…何…?
凄く怖い顔で…どうしよう…凄く怒ってる…
「あっ…あのっ…気に障ったら…ごめんなさい…」
謝っても怖い顔のまんまでじっと見つめられて…
この人に見つめられたい、とか想ってたけど…
こんな風に見られても…泣きそうだよ…
「あの…」
「俺っ…」
お互い何か言い合った時に、神楽ちゃんの声が響き渡る。
あ…もう万事屋の前だったんだ…
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