魔王様が甘い罠



バレンタインディに、俺は最高の贈り物を手に入れた。
この俺とした事が、ひっそりと心に潜めていた恋心。
あんまりキャラが違い過ぎて、きっと俺なんざ相手にされないと想っていた愛しいあの子。
怖がらせたくなくて、こっそりとだけ接してきた。

あの子の側にいつも居る、クソ生意気なチャイナ娘とは普通に喧嘩だって出来るのに。
あの子とは、挨拶すらままならない。

それでも陰ながら、甘党教師の雑用をいつも押し付けられてるドンくさい姿を見て手伝ってみたり。
(照れ隠しに甘党教師が餌付けしようとあの子に渡した飴を奪ったり)
購買でパンが買えなくてウロウロしてたから、ついでと言い訳して買って来てやったり。
(気が付いたらコロッケパンが増えてたけど)
マラソンの時間に蹲ってたあの子を背負って連れ帰ったり。
(アレはマジでヤバかった。俺の息子が)

それ以外にも結構俺は努力した。
あの子は気付いて無かったかもしれねぇけど。
でも、俺は諦めたく無かった。

バレンタインディでもこっそり助けたつもりがあらビックリ。
あの子のチョコレイトは、俺宛だった。
嬉しくて、嬉しくて、つい調子に乗った俺はあの子ごと貰っちまった。
それでも幸せそうに笑って、俺の腕の中で気を失ったあの子が愛しくて大切で。
俺は一生この子を大切にしようと心に誓った。



それからの俺達の道は結構険しくて。

まずは、俺に群がってた女どもが、あの子を襲いやがった。
勿論魔王と呼ばれる俺が動かねェ訳ねェんだけど、それより先にチャイナや山崎や土方や近藤さんや伊東先生が動きやがった。その上、あの子は俺には動くな、とか言いやがる。

「皆、沖田君の事好きだからやってしまった事なんです…沖田君が酷い事しないで欲しいです!私がそんな事されたら悲しいです…」

涙を溜めてそんな事言われたら、俺にはなんにも出来やしない。
…まぁ…俺が直接手を下さなくても、他の奴らにかなりの事をされてみてェで女どもは大人しくなった。

その後は、助けた筈のヤツラが俺を攻撃してきた。
チャイナとの喧嘩はマジになって、山崎や伊東先生や銀八っつあんが影からじわじわとイヤガラセしてきやがる。
土方はガン飛ばしてきやがるし、近藤さんはとくとくと俺に言い聞かせる。

『遊びなら今すぐ手を引け。』と。

まぁ、今迄の俺の所業が悪かったんだろうけど、そんな風に思われてっとちょっと傷付きまさァ…
あの子はトクベツなのに。
一生大切にしてェのに。

そう説明したら、一応全員大人しくなった。


でもまぁ、そんな事は小さな障害だった。
本当の困難は、それからだった。
一番の強敵は、あの子だった。


バレンタインディに恋人同士になった筈なのに、普通に話せるようになるまで1週間。
名前を呼ぶまでにもう1週間。
手を繋いで歩くのに、更に1週間。
デートの約束を取り付けるまでに…1ヵ月…

とことん奥手なパチ恵は、驚くほど初心だった…
…まぁ…俺もパチ恵につられたのか、彼女の前ではとことん初心になっちまって、ヘタレてたのも有るんですがねィ…
その上、納得した筈のお邪魔ムシどもが事あるごとに邪魔してきやがって…
ホワイトディにかこつけて、やっとデートに漕ぎ着ける事が出来た。
畜生…初きっすは付き合う時に済ましたってのに、その後が続かねェなんて信じらんねェ!

今日こそは、一足飛びに大人の階段昇ってやるぜ!

そう意気込んだデートだったってェのに…

いつもと違う、清楚なワンピースにダイナマイトボディを包んだパチ恵がちょっと憎い。

あんまり眩しくて、直視すら出来やしねェ…

「あのっ…そーご君…私服…カッコいいです…っ!」

真っ赤になってそんな事言うのは反則でィ…
いつも以上にヘタレちまって、手を繋ぐのがやっとになっちまう…
それでも、手を繋いだ瞬間これ以上ないくらい真っ赤になるパチ恵が可愛くてしゃーない。

「…パチ恵も…可愛い…」

俺が言うと、ぎゅうっと手を握り返されて、それだけで心臓が爆発しそうになる。
全くもって信じられねェ。
こんなの俺のキャラじゃねェってのに。

パチ恵が好きそうな可愛らしいカフェ、ってやつでパフェをご馳走するのがホワイトディのプレゼント。
嬉しそうに、満面の笑顔を贈られると俺の方が幸せになっちまう。

その後手を繋いで、パチ恵が見たいって店をはしごする。
俺にはよく判らねェけれど、ふわふわした髪飾りがパチ恵のワンピースに似合うと思ったんで買ってやった。
うるうると目を潤ませて喜んでくれたんで、俺も自然と笑顔になった。
おさげをほどいて、そのシュシュってのを着けたパチ恵はいつもの100倍可愛かった。
勿論いつものパチ恵だって凄ェ可愛いけど。

日が暮れて、暗くなってきて、もうパチ恵を帰さなきゃいけねェけどまだ一緒に居たい。
手ェ繋いでるだけでも、永遠に一緒に居れる自信がある。

…でも、パチ恵はそわそわしだして…
家に帰さなきゃ、いけねェや…

「…そろそろ…」

「ひゃっ…ひゃいっ!」

…何だ…?
反応が…何かおかしい…

「家に送りまさァ。」

「え…?」

俺が手を引いてパチ恵の家の方向に進もうとすると、ワンピースの裾を掴んで俯いて立ち止まってしまう。
何だ…?
もしかして…パチ恵もまだ俺と一緒に居たいって想ってるんですかィ…?

「そーご君…私何か失敗しちゃいましたか…?」

「は…?」

顔を覗き込むと、パチ恵の瞳にはじんわりと涙が浮かんでいた。
なっ…!?俺ァ何かしちまったのか!?

「でっ…でーとは…朝までだって神楽ちゃんとさっちゃんが言ってて…私…お家には神楽ちゃんの所に泊る事になってて…」

「チャイナァァァァァァァァ!?」

なっ…なんて気が利くんでィ!
有難う御座いましたァァァァァァァ!


俺は心の中でムカつくチャイナ娘に酢昆布を捧げてパチ恵の手を取った。
そのまま一足飛びで大人の階段を駆け上がって、心ゆくまで見たかった泣き顔を堪能した。

「もう駄目でィ。一生手離さねェから覚悟しろィ。」

実はしっかり用意してた、渡すタイミングを外した指輪をパチ恵の左手にぐいっとハメた。
驚いて目を丸くした顔も可愛い。
ちゅ、とキスすると、真っ赤に頬を染めてふんわりと笑う。
いつもと違う色っぽい笑顔に、俺の息子が又暴走を始める。

「そんな事言ったら、一生離れませんからね?」

「のぞむ所でィ。」

キラリと光った指輪に口付けて、俺は又暖かい彼女にダイブした。



END