ちょっと名残惜しくて、私がじっと音女さんを見ると、綺麗に笑ってくれる。
笑顔が素敵…確かによく見たら笑顔はお父さんに似てるかも…
音女さんの方が100倍綺麗だけど!
「もう、邪魔しないでくれる?今日はやっと時間が出来たから八恵ちゃんの顔を見に来たの!八恵ちゃん全然家に来てくれないんだもの…」
寂しそうな顔も綺麗…
凄い素敵な女性だなぁ…色んな意味で好きになっちゃいそう…
あ!でもいちばんは沖田君だからね!
「あの…ごめんなさい…お父さんのお家には行っちゃいけないと思って…だって私…」
「もう!可愛いだけじゃなくて良い子!!妙ちゃんにも言ってたのに…良いのよ、って…」
お兄ちゃん達がぶっ飛ばされて、私は又音女さんの腕の中に納まった。
…え…?
お兄ちゃん達が…お兄ちゃん達が飛んだっ!?
「お兄ちゃ…」
「大丈夫大丈夫、あの二人は強いから。それより私八恵ちゃんとゆっくりお話ししたいな。お土産もいっぱい買って来たのよ?」
凄く近くで悪戯っぽくうふふ、と笑われたら…頷くしか出来ないよね…
「じゃぁ、八恵ちゃんのお部屋行きましょ?男には言えないお話も私にはしてね?」
綺麗にウィンクされたら…何も隠せないよ…
でも…沖田君のお話…出来るのかな…
学校でも家でも、皆聞いてくれないんだもん。
本当はすっごく話したいんだ…幸せです、って!
「はいっ!」
「ん、良いお返事。じゃぁ、十四郎は八恵ちゃんの部屋に荷運んで。晋助は晩ご飯の支度宜しく。食材は台所に置いてあるから美味しいの作ってね。じゃぁ、八恵ちゃん、行きましょ?」
くい、と繋いだ手を引かれるけど…お兄ちゃん達にばっかりそんな事させられないよ…
「おっ…音女さんっ!晩ご飯は私が…」
「いーのいーの、たまには休んで。辰馬から聞いてるのよ?毎日八恵ちゃんがご飯作ってるんでしょ?」
「でも…私それぐらいしか出来なくって…」
「そんな事無いわよ?八恵ちゃんが来てくれたから、辰馬も、晋助も、十四郎も幸せになれたんだから。だから、八恵ちゃんは本当は居てくれるだけで良いの。」
「そんな…」
「良いの。」
音女さんが力強く言い切ると、お兄ちゃん達も優しい顔で笑ってくれる。
お兄ちゃん達のそんな顔…見た事無いよ…
ちょっと…ドキドキする…
「パチ恵…旨い飯作っとくから…」
「そうだな、たまにはゆっくりしろ……音女さん…まさかコレ全部…」
「勿論、八恵ちゃんのお土産。だって女の子だもん、いくら有っても足りないでしょ?洋服なんて。」
十四郎お兄ちゃんが笑いながら持ってくれた荷物は凄い量で…
え…?アレ全部洋服…?
「ファッションショーしようね!コーディネートしてあげる!」
「…はい…」
綺麗に笑われると、嫌なんて言えない。
それに、ちょっとワクワクしてる。
今迄あんまりお洒落なんてしなかったけど…でも、沖田君には可愛い、って思われたいもん!
私は手を引かれるまま自分の部屋に戻って…
物凄い勢いで着せ替えされた…
ソレは晋助お兄ちゃんが呼びに来てくれるまでずっと続いて…
嬉しかったけど、ご飯を作るより疲れてしまった…
私達が下に降りるとお父さんも帰って来ていて、いつもより賑やかな食卓を囲んだ。
晋助お兄ちゃんの本気のお料理って…凄かったんだ…
今迄見た事も無いような料理が所狭しとテーブルの上に並んでて…
そのどれもが美味しくて…
尊敬してしまった…
「晋助お兄ちゃん、凄い…こんなの作れたんだね…尊敬しちゃったよ…」
尊敬のまなざしで見上げると、ふいっと顔を逸らされてしまう。
あ…照れてる…
「晋助、照れてるー!」
音女さんにからかわれると、晋助お兄ちゃんが赤くなる。
うわぁ!そんな顔初めて見た!!
「晋助お兄ちゃん可愛い…」
「なっ…バッ…喰い終わったんなら…さっさと風呂…入れ…」
ガチャガチャと食器を集めて台所に行ってしまった。
凄い…いつものお兄ちゃんとは全然違う顔が見れるなんて…
十四郎お兄ちゃんも何か無いのかな…?
じーっと十四郎お兄ちゃんを見てると、バッと目を逸らされて台所に行ってしまった。
「じゃぁ、八恵ちゃん、お風呂一緒に入ろ?」
「ふえっ!?」
「おー、良いのう。パチ恵、姉ちゃんにうんと甘えとき~」
「じゃ、行こっか!」
ずるずると音女さんに引っ張られてそのままお風呂にまで引き摺り込まれた。
…音女さんは、脱いでも凄かったです…
なんの用意もして無かったのに、お風呂を上がると音女さんとお揃いのパジャマや新しい下着が用意されてて…
え…?まさか…お兄ちゃん達が…?
そう思うと一気に顔に血が上ってくる。
「おっ…音女さんー!ぱっ…ぱんつ…」
「あぁ、安心して?食事前に、ちゃんと用意しておいたのよ?私が。」
にこり、と優しい笑顔は全てお見通しで。
本当に凄い女性なんだなぁ…
そのまま頭まで乾かしてもらって、お風呂を上がると晋助お兄ちゃんがお茶を淹れてくれて。
こんなに何もしないと、逆に落ち着かないよ…
でも、何もさせてもらえなくって。
そんな事してる内に、眠くなってきた…
「あの…私そろそろ寝ます…音女さんおやすみなさい…」
「あら、もうそんな時間?じゃぁ私も一緒に寝ようかな。」
「…え…?」
「うん、八恵ちゃんのお部屋で一緒に寝るわよ?布団は運んで有るわよね?十四郎。」
「おー」
…十四郎お兄ちゃん…いつの間に…
じーっと見ていると、ふわりと笑った十四郎お兄ちゃんが私の頭を撫でる。
「ちゃんと甘えとけ。俺たちじゃそういう甘やかし方は出来ないからな。母さんだと思って…イヤ、姉さんだと思ってだな…」
途中でダラダラと汗を流しながら十四郎お兄ちゃんが言い直す。
…音女さんを振り返るのは止めとこう…
歯を磨いてトイレに行って、音女さんと一緒に部屋に戻る前にお父さんとお兄ちゃん達にいつものようにおやすみの挨拶をする。
…って、アレ?今日はおやすみのちゅうさせてくれない…
どうしたんだろう…?
でも、無理矢理するものでもないし…まぁいっか。
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