そーして、僕らは、家族になった。

ACT 8 新しい季節


私が高校に入学してから、早いものでもう1年も経ってしまいました。

近頃やっと十四郎お兄ちゃんとも仲良くなれた気がします。
目が…優しくなった気がするんです。
それに、好きだって言ってくれたから…私は嫌われてるとばっかり思ってたから、すっごく嬉しかった!
やっぱり家族なんだから、仲良しでいたいよね!!

でもお兄ちゃん達にとって、私はまだまだ小さい女の子みたいなのかなぁ?
しょっちゅう、ぎゅっ、って抱きしめてくれたりキスしてくれたりするんです。
恥ずかしいけど、可愛がってくれてるのかな?って思うと嬉しかったりします。
普通…兄妹で唇にちゅーとか…しないよね…?
晋助お兄ちゃんは家族ならするだろ?とか言うけど…しないよね?普通。
だって銀八先生も言ってたし…普通はそうなんだよね…?

それとも…犬とか猫みたいに思われてたりして…やだなぁ…
扱いがそんな感じって気がしないでもないです。
ペット扱いだったら…怒っちゃおうかな…?
良いよね?
今日からは高校2年生だもん!
ちょっとだけ大人になったんだもん!
お兄ちゃん達にだって、強気で接しちゃうもん!!

ふんっ!と意気込んで、学校に急ぐ。

お兄ちゃん達はまだご飯食べてるから、その隙に早く行かないと…じゃないと、2人にがっちり囲まれて大変な事になっちゃう!
一回お兄ちゃん達と一緒に学校に行ったら、すっごく怖かったんだ…
怖い人が絡んできたり、いっぱいの女の子に睨まれたり。
もう絶対一緒に学校になんか行かない!って思ったよ!!
でも、油断してるといつの間にか私の後ろにお兄ちゃん達が居て怖い事になるから…
2人がご飯食べてる間に急いで出掛ける、ってワザを身に付けたの。
そうしたら、お兄ちゃん達はついて来られないから!
今日も隙をついて玄関を駆け出す。
暫く全速力で走って、そっと後ろを窺うと誰も居ない…良かった!今日も無事に学校に行けそう!!

ほてほてと歩いて学校に向かっていると、同じ学校の人達もちらほら見え始める。
その子達が、同じクラスになると良いね!とか言ってるのが聞こえた…
そういえば…2年生になったらクラス替えが有る、って言ってたっけ…
仲良くなった皆と、又同じクラスになると良いなぁ。
神楽ちゃんやキャサリンさんやさっちゃんとも、もっといっぱいお話したいし。
折角お友達になった沖田君や山崎君とも、もっとお話したい。
もちろん新しいお友達もたくさん欲しいけど、やっぱり仲良しな皆とは離れたくないよ…

進路別にクラス分けする、って聞いたから…皆一緒にはなれないだろうけど…
それでも…ちょっと期待しちゃう。
神楽ちゃんとは選択一緒だったけど、沖田君は…数学とか理科が得意だから…理系クラスに行っちゃうんだろうな…
私は数学とか苦手だもん…そっちには行けないし…

…すごく…寂しいよ…


「パチ恵ー!おはようヨー!!」

「神楽ちゃん…おはよー…」

色々考えちゃってとぼとぼ歩いていると、神楽ちゃんが元気に走ってくる。

「パチ恵どうしたネ?元気ないアル。」

神楽ちゃんはクラス替えとか気にならないのかなぁ…?

「神楽ちゃんはクラス替え、気にならないの?」

「クラス替え!?まじでか。」

「…知らなかったの…?先生言ってたじゃない…」

「銀ちゃんの話はあんま聞いて無いネ。」

胸を張って堂々と言われても…

「今日から2年生だよ?進路とか選択授業とかでクラス別れるって…」

私がしょんぼりと俯くと、神楽ちゃんがニヤリと笑う。

「大丈夫ネ!ワタシとパチ恵は全部一緒だから同じクラスアル!それに邪魔なドSは居なくなるヨ!」

神楽ちゃんはすっごく嬉しそうだけど…やっぱりそうなんだ…沖田君とは別々なんだ…
なんでだろ…すごく…胸が痛いよ…
さらに元気いっぱいになった神楽ちゃんに手を引かれて玄関の前に行くと、クラス分けの掲示板の前に沖田君が居た。

「沖田君、おはよう。」

「おー、近藤…クラス別々になっちゃいやしたね…」

「あ…」

「良かったナー、やっと離れられたネ!ワタシとパチ恵は一緒だけどナ!!」

「煩ェ、チャイナ!!」

止める間もなく、2人が殴り合いの喧嘩を始める。
ああなったら危ないから…放っておこう…
まだ胸が…痛いし…
私…どうしたんだろ…?何か病気なのかな…?

一応確認のために掲示板で自分の名前を探す。
…4組か…
神楽ちゃんも4組で…あ!キャサリンさんもさっちゃんも同じクラスだ!
でも…沖田君は5組だ…山崎君は…あれ?4組だ…
沖田君だけ…違うクラス…

なんでだろ…やっぱりすっごく胸が痛い…
悲しくて、泣いちゃいそうだよ…

しばらく掲示板の前でぼうっとしていると、予鈴が鳴った。
喧嘩していたハズの神楽ちゃんが、私の手を引っ張って教室に走る。
ふっと振り返った先に居た沖田君は、何か言いたげに私を見ていた…


その日は1日ぼんやりしたまま、気がつけば放課後になっていた。
私…なんでこんなに落ち込んでるんだろ…
沖田君以外、皆一緒のクラスだったのに…
新しいお友達も出来たのに、なんでこんなに力入んないんだろ…?

その上神楽ちゃん達は部活なんで、今日は1人で帰らなきゃいけない日だし…
晩ご飯の買い物して帰らなきゃいけないけど…なんか…ご飯食べたく無いよ…
お兄ちゃん達…来てくれないかな…

あ…ダメだなぁ、私…一緒に学校来たくない、って思ってお兄ちゃん達置いてきたりしてるのに…
都合の悪い時だけ頼ろうなんて…酷いよね…

そんな勝手な事考えながら、思い足を引きずって校門の所まで行くと私に声が掛かる。

「近藤!待ってやした。」

「…沖田君…!?」

どっ…どうしたんだろ…?何かあったのかな…?
なんでだろ…沖田君の顔を見たら…すっごくドキドキするよ…
ぎゅっとスカートを掴むと、沖田君が心配そうな顔になる。

「…具合…悪いんですかィ…?朝も様子がおかしかったから…気になってたんでィ。」

…朝から…?気にしてくれてたんだ…嬉しい…やっぱり沖田君は優しいよ…

「うん…朝から変なの…」

「じゃぁ俺、家まで送りやす!」

「うん…良いの…?」

「勿論でさァ。近藤に用事も有ったし…」

にこりと笑いかけられると、ドキドキがもっと凄くなる。
なっ…何…?私の心臓…どうなったの…?
沖田君を見ると、変になるよ…苦しい…
でも…嫌なんじゃなくて…嬉しくて、楽しくて…
いつの間にか落ち込んでた気分が消えていた。

「あ…!あのね?私晩ご飯の買い物をして帰らなきゃならないの…」

「お?荷物持ってやりまさァ。」

「…有難う…」

自然と顔が緩んでふにゃっと笑ってしまう。
さっきまで苦しくて笑えなかったのに…なんで…?

行きやすぜ?と促してくれる沖田君が楽しそうなんで、一緒にスーパーに行って、荷物持ちもお願いする事にした。

新しいクラスの事を話しながらスーパーまで行くと、すごく早く着いちゃった気がする。
すっかり楽しくなっていて、具合悪かった筈なのに気分はすっきりしていた。

「晩飯何にするんですかィ?」

「えっと、昨日はお魚だったから…今日はお肉かな。お兄ちゃん達お魚の方が好きだけど、お肉も食べないと!」

「…近藤は色々考えてんですねィ。良い嫁さんになりやすぜ?」

なっ…何を言い出すのっ!?
お嫁さんなんて…まだまだ先の話だよっ!!
にこりと笑った顔がキレイで、変に動揺しちゃったよっ…変に思われないかなぁ…?
誤魔化すように野菜を買いながらお肉売り場に移動すると、そこではウィンナーの実演販売をやっていた。
わ…良い匂い…
豚肉を選んでいると、私のお腹がぐぅ、と鳴った。

やっ…!沖田君に聞こえちゃった…?

「近藤は成長期ですねェ。」

やっぱり聞こえちゃってたよっ!恥ずかしい…