いつもと違う呼び方に弱い事…知ってんだぜ…?
びくりと跳ねた身体をもう一回抱き締めると、大人しくなる…
「しんすけおにいちゃん…?」
「…好きだ…」
俺が言うと、そろそろとパチ恵の腕が俺の背中に回る。
「私もお兄ちゃん、大好きだよ…?」
「…おう…」
ぎゅっと抱きついてこられると、なんだか安心する…
………イヤ待て…まだ油断できねぇ…
「ちゃんと意味…判ってんのか…?」
「…お兄ちゃんこそ…ちゃんと分かってる…?」
…あぁ…今度こそ伝わって…
「寂しくしちゃったんだよね、私…ごめんなさい…私ちゃんとキスするよ!お兄ちゃんのお母さんの代わりにはなれないけど…家族だもんね!」
…あ…?
「だから、そんな顔しないで…?」
パチ恵が背伸びして、俺の唇に…ちゅっとキスをする…
やっぱコレ…違わねぇか…?
俺が呆然と立ちすくむと、するりと俺の腕を抜け出したパチ恵がにこりと笑う。
「でも、おっぱい触るのは止めてね?ビックリしちゃったよ。晋助お兄ちゃんって、案外甘えん坊さんだったんだ…」
頬を染めてクスクスと笑いながらそんな事言いやがって…
違ぇよ…俺は…
「パチ恵…やっぱり判ってな…」
「分かってるよ。お母さん恋しくなったんでしょ?別に恥ずかしくないよー!私達家族じゃない。でも…そう言う事は彼女さんにしてもらって…?ドキドキしちゃったよ…」
真っ赤な顔でえへへと笑われたら…俺の方が心臓煩ぇよ…
「違う…そうじゃ…」
「パチ恵、勉強…晋助…?」
俺が言い募ろうとすると、ガチャリと戸が開いて十四郎が入ってくる。
「あ、十四郎お兄ちゃん。数学は昨日だよ?」
クスクスと笑いながらパチ恵が言うと、十四郎が気まずそうに笑う…
「あ、そうか…スマン…」
パチ恵とは笑い合いつつ、俺の方をスゲェ目で睨んでくる。
コイツ…ワザと邪魔しに来たな…
「あのね、晋助お兄ちゃんに英語教えてもらってたの!分かりやすいんだよ?十四郎お兄ちゃんも教えてもらうと良いよ!」
いつの間にか俺の腕の中から抜け出していたパチ恵が、嬉しそうに十四郎の腕に掴まる。
鼻の下…伸びてるぜ十四郎。
俺の告白がうやむやになっちまうけど…
十四郎が居たんじゃ逆に邪魔されちまう…仕方無ぇ…
「…じゃぁ…俺ももう寝る…明日頑張れよ、パチ恵。十四郎俺らも戻るぞ…」
「なっ…俺は…!」
十四郎が部屋に残ろうとするんで無理矢理腕を掴んで引きずって部屋を出る。
「晋助お兄ちゃんありがとう!おやすみなさい。」
にこにこ笑ったパチ恵が、ぱたん…とドアを閉める。
それを合図にズルズルと十四郎を引きずって部屋の前まで連れていく。
「テメっ!晋助なに邪魔しやがんだ!俺はパチ恵と…」
「…勘違いするな…パチ恵はお前の事なんざ、兄貴としか思ってねぇよ…」
俺がそう吐き捨てると…十四郎の瞳孔が開く…
「あぁ?オメェなんざ、姉貴ぐらいにしか思われてねぇだろ?」
「あぁ?」
廊下で言い合ってると、ガチャリとパチ恵の部屋のドアが開く。
「お兄ちゃん達煩いよっ!明日も朝早いんだよ?寝坊しても起こしてあげないからね?」
ぷう、とふくれた顔は、眠たいのか普段よりも可愛らしい。
「すっ…すまねぇ…晋助!テメェもさっさと寝ろや!!」
さっきまで怒鳴ってた十四郎が…そそくさと自室に入っていく…
「…悪かったな…おやすみ…パチ恵…」
「うん、おやすみ晋助お兄ちゃん。」
眠そうな目を擦りながらパチ恵も部屋に引っ込むんで、それを見送る。
…やっぱりパチ恵は鈍い…驚くほど鈍い…
なんでそんな考えになるんだ…?
普通…胸触られたらエロい方に持っていくだろが…
それだけ初心なのか…それとも阿呆なのか…
とにかく…アイツのあのボケをちゃんと判らせる必要がある訳だ…
今迄ならこんなめんどくせぇ女、さっさと見切りつけるんだけどな…パチ恵だけは…別だ…
諦める気なんざ、全く無ぇ。
むしろ、落とし甲斐が有るってもんだ…
「…ククククク…」
今日の所は大人しく寝るか。
明日からはもっと激しく攻めてやる…
そう心に決めていると、パチ恵の部屋のドアがガチャリと開く。
何だ…?寂しくなったのか…?
「…晋助お兄ちゃん…」
「…どうした…?パチ恵…」
出来るだけ優しく聞いてやると、パチ恵がじっと俺を見る…
「お兄ちゃんカッコ良いんだから、その笑い方は止めた方が良いと思うよ…?夜中に聞いたらちょっと気持ち悪いよ…」
「…そうか…」
「…うん…」
パタリ…とパチ恵の部屋のドアが閉まると、十四郎の部屋からゲラゲラと笑い声が聞こえてくる…
…クソ…覚えてろよ…十四郎…
俺がまずしなくてはいけない事は…笑い方を直す事だと判った…
続く
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