「アンタ…あ、志村は足速いねィ。」

へっ!?
ばっ!と後ろを振り向くと、息一つ切らさないで私の後ろでにっこり笑うドS王子。
なっ…何…?

「えっ…と…まだ私に何か…?」

「折角同じガッコだろィ?一緒に行こうと思って。」

「何でっ!?」

私の勢いがあんまり凄かったのか、ドS王子がびっくりした顔になる。
あ…こんな顔もするんだ…可愛いかも…

「いや、新入生が沢山居るだろうから…又五月蠅くなるとイヤなんで。彼女付きと思わせとけば良いかなー、と…」

「なんで私っ!?」

「イヤ、丁度そこに居たんで?」

「何で疑問形!?イヤですよ私っ!嫌がらせされるの私じゃないですかっ!!」

「イヤ、俺じゃねぇし。」

「さいってー!」

ほんっとドSっ!なんで私がそんな目に…

「…志村だったら彼女でも良いかなー、と。」

「良くないっ!私が良くないっ!!…って…えっ…!?」

何言って…?王子が…?

「誤解にしても変な女はイヤだしねぇ。志村結構俺の好みだし。」

「ええっ!?私っ…!?」

えっと…それは…

「おっ、赤くなった。満更でもねぇ?」

王子が私の顔を覗き込んで、にこにこ笑う。

「そんな事ありませんっ!私はドS王子なんか好みじゃありませんっ!!」

「そりゃぁ残念。」

王子がクスクスと笑って、私の手を握って引っぱって歩きだす。

なんか…噂で聞いてたのと違う…ドS王子…
ニヤリ、ってなにか企んでる顔でしか笑わないんじゃなかったの?
それ以外の時はいっつも無表情って…こんなにいろんな顔するよ…?
私が引っぱられたまま大人しくついていってると、ドS王子が振り返ってにっこり笑う。

「お?観念した?俺と付きあう?」

「なっ…付きあいませんっ!どーせ本気じゃないくせにっ!からかうのもいい加減にして下さい!」

私が言うと、王子が真顔になる。
…何…?

「俺が本気だったら、志村、どうしやす?」

え…っ?この人何言って…
…って…何でこんな真剣な顔…本気、って…顔に血がのぼっちゃうよ…
頭がついていかなくって、ただ王子の顔を見ていると、何故かだんだん王子の顔が近付いてくる。
わ…まつげ長っ…あ、瞳の色…青い…?
吐息が、私の唇にかかる…あれ…?これって…

「パチ恵ー!って、オマエ!パチ恵に何してるアルかっ!!」

急に体が後ろに引っ張られて、はっ、と我に返る。
なっ…わっ…私今何しようとしてたっ!?

「チャイナ、テメェ邪魔してんじゃねぇよ!志村嫌がってなかっただろ!」

「パチ恵はうぶだから、動けなくなってただけアル!」

「かっ…神楽ちゃんっ…」

私が神楽ちゃんに抱きつくと、神楽ちゃんがぽんぽんと私の背中を叩いてくれる。

「ホラ、パチ恵はオマエなんかイヤアルヨ!これからワタシうと2人でクラス発表見に行くネ!退くヨロシ。」

私は神楽ちゃんに抱きついたまま、王子の横を抜けて玄関に向かう。
ひえぇぇぇん…顔、上げられないよぅ…

「志村!」

な…んで…?必死な声…
思わず振り返ったら、ニヤリと笑う顔。

「又な。」

ひらひらと手を振られるけど…もう逢いたくないよ…だって…王子と居たら、心臓がどきどきして落ち着かないんだもん…

「もう逢いませんっ!」

私がそう叫んでも、ニヤリと笑うだけで…
なによっ…余裕一杯で…ムカつくっ!
神楽ちゃんの手を掴んで、ぐいぐい引っ張って玄関に着くと、玄関脇にクラス発表の紙が貼ってあった。
えーと…志村…志村…

「あっ!パチ恵又同じクラスヨ!アネゴもそよちゃんも花子もおりょうも一緒ヨ!あ、さっちゃんもアネモネもキャサリンも一緒だ…」

「やったね!仲良しのコ、みんな一緒だね!」

神楽ちゃんと手を取り合ってぴょんぴょん跳ねる。
良かった〜!楽しいクラスになりそう!
2人で走って3年Z組に向かう。
朝からなんだか大変だったけど、楽しい1年になりそう!

ガラリと戸を開けて、教室に居るであろう仲良しのみんなに挨拶をする。

「おはよー!良かったよみんなと一緒のクラスになれて!」

「俺も良かったですぜ?志村と同じクラスで。」

…は…?
この声は…今朝いっぱい聞いたような…

すたすたと近付いてきて、私の肩に手をかけるのは…

「ドS王子ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「なんでィなんでィ、この恥ずかしがり屋さんめ。私の王子様、ってか?遠慮せずに総悟と呼びなせぇ。」

「何がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

めっ…眩暈がする…
ちらりと見上げると、ニヤリ、とわっるい笑顔…
遊んでる…コノ人絶対私で遊んでる…
やっぱり噂は本当だったんだ…朝のアレはきっと私の目の錯覚…

飛びかかっていった神楽ちゃんとドS王子の喧嘩を横目で見て、この1年が楽しいだけでは済まない事を悟ったのでした…


続く