それから試験の日まで、ご飯を食べた後には居間で私のお勉強会が開かれた。
皆教え方が上手くって…今まで分からなかった事がスイスイ分かるようになった。
それに…出来なかった問題がちゃんと出来るようになったら、私の頭を撫でてくれる。
それはすっごく気持ち良くって、頑張ろう、って思えるんだ。
そうやって頑張って、今日は入試の日。
折角学校がお休みなのに、お兄ちゃん達が私を学校まで送ってくれる事になりました。
迷ったらいけないから、って…子供じゃないもんっ!
でも、ホントはちょっと嬉しいんだ…銀魂高校に受かったら、毎日一緒に学校に行けるのかな…?
2人のおかげで迷う事無く学校に着いて、校門の所でお礼を言うと、教室まで送る、って言われた…
それは丁重にお断りして、小走り気味に教室へ向かおうとすると、晋助お兄ちゃんが私の手を掴む。
「パチ恵…弁当作っといたぜ…試験に勝つ、でトンカツだ…」
「晋助お兄ちゃん…有難う…!」
ちょっとベタだけど、すっごく嬉しい!
そのお弁当のおかげなのか、今までの家庭教師のおかげなのか(きっと両方!)すっごくリラックス出来て、ちゃんと問題も解けた。いつも以上に、答えられた気がするよ。
面接もお父さんのおかげでちゃんと答えられた。面接官の先生に褒められちゃったし!!
えへへ、帰ったらお父さんとお兄ちゃん達にお礼しなくっちゃね!
美味しい晩ご飯、張り切って作るんだ!!
帰りもお兄ちゃん達迎えに来てくれるって言ってたし…スーパーに寄って貰って、いっぱい買い物して帰ろっと。
係の先生が、お疲れ様です、って皆にお話してくれる。
わ…頭真っ白…おじいちゃんなのかな…?くるくるの天パがお父さんっぽくって、ちょっと親近感湧いちゃうなぁ…って、ちゃんと顔を見たら、若かった…お父さんぐらいなのに、悪い事思っちゃった…
私がそんな事思ってると、その先生のお話が終わって、入学試験が無事全部終わった。
皆帰り支度を始めたんで、私も帰り支度をする。
お兄ちゃん達待ってるかなぁ…?
窓の外を見ると、校門の所にお兄ちゃん達が見えた。
わ、待たせちゃってるっ!
慌てて鞄を持って走り出すと、床に躓いて…転ぶっ…!?
ぎゅっと目を瞑って、次に来る衝撃を待ち構えるけど、いつまでたっても衝撃は来ない。
そぉっと目を開けると、床はまだ遠くて…誰かが私を支えてくれていた。
「危ねェなァ…大丈夫ですかィ?」
頭の上から変わった喋り方で、ちょっと低めの声がする。
「あ…あのっ、すみませんっ!有難う御座います!!」
私がぱたぱたと動いて起き上がろうとすると、ぐいっと体を起こされて、どんっと背中に何かが当たって、一瞬ぎゅう、と抱き締められる…えっ!?なんで…?心臓…どきどきするなんて…
でも、ぎゅうってされたと思ったのは気のせいみたいで、腕が緩むと私は真っ直ぐ立っていた。
あ、ちゃんと立たせてくれたのか…やだ、はずかしっ…私ったら、親切な人に失礼な事考えちゃった。
慌てて振り向いて、頭を下げる。
顔を上げると、さらりと流れる栗色の髪が印象的な、ひどく整った顔の男の子がビックリ顔で立っていた。
わ…カッコいい…でも…この人が、あの時代劇みたいな喋り方してるの!?
…ビジュアルは王子様みたいなのに…
「あの、えっと、助けてくれて、有難う御座いました!」
「イヤイヤ気にすんねィ。でも、気を付けなせェ。」
…やっぱり時代劇みたい…面白い…
思わずえへへ、と笑うと、その男の子もへへっ、と笑う。
何だろ…心臓が煩いや…
あっ!お兄ちゃん達!!
もう1回ぺこりと頭を下げて、校門に向かって走り始める。
あ…お名前聞くの忘れちゃった…
2人とも受かったら…きっと又逢えるよね…?
そうしたら…お友達になってみようかな…?
受かると良いな…
パチ恵が兄の元に駆け出してすぐ、栗色の髪の少年の所に黒髪の少年が歩み寄る。
「あれ?沖田さん帰らないんですか?って、なんで笑ったまま固まってるんですか!?」
「ヤベェ…ザキィ…俺ァ、一足先に大人の階段登っちまったぜィ…」
「えっ!?何やったんスかアンタ!!そういやぁ女の子に絡んでたでしょ!!」
山崎が、腰に手を当てて沖田に説教を始める。
それを途中で止めて、沖田がぷぅっと頬を膨らます。
「違ェよ。転びそうだったから助けてやったんでィ。」
偉そうに胸を張る沖田の姿に、山崎が、はぁ、と溜息を吐く。
「珍しい…助け賃とか取って無いでしょうね?」
「そんなんしてる余裕なんかねェよ!俺…おっぱい触っちまった…すげー柔らかかった…」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?何こんな所で痴漢行為働いてるんだアンタァァァァァァァァッ!!!訴えられんぞ!?あ、だからあの娘、走って逃げたのか…」
「馬鹿言うねィ。メッチャ礼言われたぜ?あいつァ気付いてねェよ、きっと。」
沖田が涼しい顔で言い放つと、山崎の額に青筋が浮かぶ。
「んなニブい女の子、居るかよっ!!!」
山崎は盛大に突っ込んだが、パチ恵はニブかった。
「…そんな所も可愛い…」
「………へっ………?」
ぽっと頬を染めた沖田を見て、山崎が信じられない物をみたように目を見開く。
まさか!?沖田さんに限って、ぽっ、とか可愛い反応する訳ねぇ!!何だ!?何を企んでる!?
山崎はちょっとパニくった。
「ザキよぅ…俺ァあの娘に惚れやした!あの娘がきっと俺の運命の相手でィ!!あの娘の事調べろィ。」
「イヤイヤイヤ、調べろって…無理!無理だから!!どこの誰だかも判らないし…」
「へー、近藤八恵ってんだ…四中!?えらい遠い所から来るんだねェ…」
そう言えば、机には受験票と照らし合わせるように、そんな情報が貼ってあった。
頬を染めて、幸せそうにそれを読み上げる沖田を見て、なんとなく可愛く思ってしまった山崎は、ちょっとなら調べてあげようかな…?と思い始めてしまった。
「…近藤…八恵…?」
…どこかで聞いたことが有る…
その名前を反芻すると、ゴリラに良く似た恩人の顔が浮かんでくる。
「あっ!近藤八恵!!沖田さん、その娘近藤さんの娘さんだ!姐御の娘さんですよ!!」
思いだした山崎が、ぽん、と手を叩くと、沖田がきょとんと目を見張る。
「…近藤さんの…?って事は…散々近藤さんが自慢してた…ゴリラ女の娘…?」
「ゴリラ女って…姐御の耳に入ったら殺されますよ…?」
山崎がたしなめるが、沖田の耳には全く入っていなかった。
近藤さんがあんだけ薦めてたんだ、親公認、って事じゃねぇですか!!
その上、あの娘とけっ…結婚したら、俺ァ本当に近藤さんの息子になれまさァ…!
「そっか…近藤さんに聞けば、あの娘の事が全部判るんだねィ…仕方ねェなぁ…今日このまま近藤さんの所に行くか。」
いつものニヤリ、という笑い顔ではなく、子供のようなはしゃいだ笑顔でそう言う沖田を見て、山崎は苦笑する。
全く、素直じゃないなぁ…本当は近藤さんに会えるのが嬉しいんだろうに…
「近藤さんの所に行くんなら、手土産はバーゲンダッシュですね。姐御の好物ですよ。」
山崎がニヤリと笑ったのを見て、沖田もニヤリと笑う。
「任せた、山崎ィ。」
「えぇっ!?俺が買うの!?」
大げさに叫んではみたものの、本当に久しぶりにはしゃぐ沖田を見て、まぁ良いか、と思うのだった。
続く
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