そーして、僕らは、家族になった。

ACT 3 志村パチ恵


わたしのおとうさんは、おっきいかいしゃのしゃちょうさんです。
いつもいそがしくはたらいているので、あんまりおうちにかえってこれません。
でもわたしには、ちょっとこわいけど、すごくやさしいおかあさんがいるからへいきです。

…でも…ほんとはもっと、おとうさんとあそびたいです。
まいにちあえたらいいのになぁ…

おとうさん、いっぱいおやすみしないとぱちえしんぱいだよ?
だから、もっといっぱいおうちにかえってきてね?



ちいさい頃は、お父さんは会社が忙しいだけだ、って信じてたけど…本当は違った、って事ぐらい大きくなった今ならもう知ってる。

お父さんには別に奥さんが居て…お母さんは…愛人さんなんだって…

初めて知った時はショックだったけど…でも、たまに会うお父さんは優しくてカッコいいし、運動会とか学芸会とか父親参観日とか、お父さんに来てほしい時は、私が知らせなくても絶対来てくれるし…
だから、それで良いんだって思う事にした。
お母さんも、たまに会うから長続きするのよ?ずっと居られたら鬱陶しいわ。
なんて笑ってたけど…本当はいつも寂しそうにしてたの、知ってる。
とても強い女性だけど…やっぱり辛かったのかな?って。

だから…お母さんに別に好きな人が出来て、ちゃんと結婚する、って決めたって聞いた時、本当に心から嬉しかった。
お父さんの事はもちろん大好きだけど、近藤さんもすっごくいい人で、すぐに大好きになった。
お母さんの事情を全部分かってて、それでもきちんとお母さんの全部を受け止めてくれた。
…ちょっとストーカー入ってたけど…でも、お母さんの事すっごく愛してるし!何よりお母さんも近藤さんの事愛してるし!
きっと2人は幸せになるんだっ!!
でも…折角の新婚さんなのに…私みたいに大きな子供が居たら、邪魔だよなぁ…
いっぱいイチャイチャしたいよね?私だったらしたいもんっ!
でも…私は他に行くトコなんて無いし…どうしよう…


そんなある日、久し振りにお父さんが会いに来てくれた。
学校を出たら、校門の所におっきな車が停まってて、執事の田中さんが優しく微笑んで手を振ってくれる。
車に駆け寄って田中さんに挨拶すると、カチャリと車のドアを開けてくれる。
促されるまま車に乗り込むと、満面の笑顔を浮かべたお父さんが大きく手を広げる。

「パチ恵ー、元気じゃったか?」

「お父さんっ!」

私がぎゅっと抱きつくと、お父さんもぎゅっと抱き返してくれる。
やっぱりお父さん大好きっ!

…あ…!私、お父さんの所に行けば良いんじゃない?
お父さん、奥さん亡くなってしまったって聞いたし…きっと寂しいよっ!

「パチ恵は相変わらず可愛いのー、アイツらも、少しぐらいこの可愛さが欲しいぜよ…」

…あいつら…?誰の事だろ…?
あ!もしかして…お父さんもう新しい恋人出来ちゃったのかな…その人達と一緒に住んでるの…?
ずりずりと頬ずりされながらちょっと悲しくなったけど…でも…一応聞いてみようかな…

「あのね、お父さん…私…お父さんと一緒に暮らしちゃ駄目かな…」

私が恐る恐るお父さんに聞くと、お父さんの顔が怖くなる。
やっぱり…迷惑なのかな…

「近藤が八恵を邪魔にするがか…?苛められちょるんか…?」

「えっ!?ちっ…違うよっ!!近藤さんは凄く優しくて面白くって、いつも一緒に居てくれる、頼りになるおっ…お父さんだよっ!イジワルなんてしないもんっ!!」

私が必死で言うと、お父さんがうじうじといじける。

「どーせワシはいつも一緒になんか、おらんきにー…」

「うっ…お父さんは…忙しいし…仕方ないよ…」

ぽふぽふとお父さんの頭を撫でてあげると、涙目で私を見上げてくる。
なんだか可愛い…

「パチ恵は優しいのー!で?苛められてないんじゃったら、何で家を出ようなんてしとるぜよ?」

急に真面目な顔になったら…カッコいいよ、お父さん…

「あのね、近藤さんとお母さん新婚さんでしょ?それなのに、私みたいなおっきい子供が一緒に住んでたら、らぶらぶ出来ないもん…近藤さん、すっごく頑張ってたのに、お母さんは私が居たら素直になれないから…だから…」

私がお父さんを見上げて一生懸命説明すると、にっこり笑ったお父さんが、ぽふぽふと私の頭を撫でる。

「うん、判ったきに。でもなぁ…今お父さん別の家に住んでてのぅ…そこに一緒に住んじょるのがなぁ…あ、女の人じゃぁなかよ?でも、なぁ…ちょっとなぁ…」

どうしたんだろ…いつもは何でもはっきり言うお父さんの歯切れが悪い…

「私っ!ご飯も作れるし、お掃除もお洗濯も出来るよっ?」

私がもっと頑張って言うと、お父さんが困った顔になる。
どうしよう…困らせちゃってるよぅ…でも…

「パチ恵はそんな事せんでよか。そんなんは、アイツらがやるぜよ。でものぅ…年頃の男女が一つ屋根の下に一緒に住むなんぞ…お父さん心配ぜよー…」

「…あいつら…?」

私のほっぺたを撫でながら、お父さんが泣きそうな顔になる。
お父さん…今誰と一緒に住んでるんだろ…?
私が不思議です、って顔でお父さんを見つめてると、あーとかうーとか言ってたお父さんがはぁ、と溜息を吐く。

「あー…実はのぅ…お父さん、パチ恵の他にも2人子供が居るんじゃ。」

「え―――――っ!?」

私が叫ぶと、お父さんがあっはっはっはっはっはっ、と笑う。

「私、知らなかったよっ!お父さんの浮気者ぉっ!!」

「あー…そう言われると思っちょったから黙ってたぜよ…今、高1の男の子が2人…パチ恵の兄ちゃんじゃ。」

…お兄ちゃんか…

お父さんの子供だもん、きっと明るくて楽しい人達だよね…?

「お父さんっ、私、お兄ちゃんに会ってみたいよっ!きっと仲良く出来るよっ!!」

お父さんの腕に掴まってぶんぶん振ると、ちょっと喜ぶけどすぐに首を振る。

「イヤイヤ駄目じゃ。アイツら顔怖いぜよー?」

「…怖い人達なの…?」

「イヤ!2人とも優しくて良い子じゃ!!…でものぅ…」

「じゃぁ大丈夫だよっ!決まりっ!!」

「でものぅ――――――…」

お父さんはまだシブってるけど、大丈夫だよっ!だってお兄ちゃんなんだもんっ!
うん、お父さんはなんとか認めてくれた。
後は………