ちょっと流された感じで俺が引っ越した先は、そんなすげぇ豪邸では無いが、それなりにデカイ家だった。
新築の匂いがまだ残ってる家は、中々住み心地が良さそうだ。
あぁ、でも…そこかしこに埃が落ちていやがる…
親父の事だ、料理も掃除も出来ないんだろう、どうせ…
これからは、俺が親父の世話してやらなきゃな!

何でも良い…何か俺が出来る事が有れば…俺はこれからも生きていける…

なんとなく使命感に燃えながら居間に向かうと、そこには親父が居た。

「…親父…?」

「十四郎に紹介しとかんといかん奴がおってのぅ!忘れとった!あっはっはっはっはっ…」

親父がガチャリと居間のドアを開けると、そこには見知った顔が有った…高杉晋助…俺がよく喧嘩先で会う奴だ…

「晋助~!今日からこいつもここで一緒に暮らすぜよ~!ほれ、十四郎、挨拶せんか~」

「・・・よぉ・・・」

「・・・おう・・・」

「なんじゃ~?2人は友達がか?偶然じゃのぅ。仲良くするぜよ~?」

「親父・・・こいつは・・・」

「友達なんかじゃ・・・」

俺達が、凄ぇ嫌な顔をして親父を見ると、何故か泣いていた…

「晋助~!やっと親父ち呼んでくれたぜよ~!」

高杉に抱きついて、おいおいと泣く親父は…ちょっと引いた。
ヤツが助けを求めるように俺を見上げるけど…
イヤ、俺にもどうにもできねぇから…
俺が遠くを見ると、高杉が、チッ、と舌打ちをした。イヤ、無理だって。

俺の生活は、何かと前途多難なようだ…



それから数日。

親父と晋助と俺の3人の生活も、そこそこ慣れてきた。
だからと言って、家族の団らんとかが有ったりとかする訳じゃねぇ。
俺達はそれぞれ好き勝手に生活して、好き勝手にやっていた。

音女さんに鍛えられたスキルがそんなには被っていなかったんで、掃除は俺、料理は晋助がした。
まぁ、家族一緒に食う訳じゃねぇけど、一応3人分、アイツは作ってくれた。
親父は一緒に食いたがったけど、毎日はちょっとキツい。まぁ、代わる代わる、3日に1回ぐらいは親父に付き合った。

晋助とは一緒に住んでるとは思えないぐらい、顔を合わせる事も無かった。

そんな状態もなんとか落ち着いたんで、俺は他にやる事も無くて受験勉強に勤しんだ。
まぁ、1・2年とあんまり勉強なんてしてなかったんで、近くの高校すら受かるかあやしい状態だったんで丁度良かったんだけどな…

その甲斐有ってか、俺は無事近くの銀魂高校に合格した。
驚いた事に、晋助も同じ高校に入学してて、ご丁寧に同じクラスにまでなりやがった…
なんだよ…アイツ勉強してる風じゃ無かったのに…何だ?俺より頭良いのか?
そうなのか!?

だからと言って、今までの生活が変わる訳でもなく、むしろ教室で毎日晋助の顔を見るようになった。
おんなじ『坂本』だから色々面倒くさかったが、それも初めの数日だけで…
俺と晋助、両方ともが強面だから、すぐに皆遠巻きにするようになった。


そんなある日、珍しく親父が俺達2人を居間に呼んだ。
大人しく2人で居間に行ってみると、親父はもう1人、見知らぬ子どもを連れていた。

「今日からこの子もここで一緒に住むぜよ~?間違い無くワシの子供じゃきに、変な気は起こすなや~?」

いつものへらっとした笑顔なのに、その奥が怖ぇ…
何だ親父、そんな顔初めて見るぜ…

親父の陰に隠れたその小さいのは、黒い髪を三つ編みにした女の子で…
眼鏡の奥の真っ黒でデカイ瞳をうるうると潤ませて、ちらちらと俺達を見ている…

…どうせ怖いんだろうよ…
俺も晋助も、喧嘩の時には滅法役立つ顔だけど、女子には好かれた事ねぇしな。
別に?どうって事ねぇし?女子なんか関係無ぇし?

「ほら、パチ恵、お兄ちゃん達に挨拶せぇ?」

親父が促すと、そのちっちゃいのがとてとてと俺達の前に来て、ふわり…と笑った。

「こんにちわ、近藤八恵です。えっと…」

「坂本晋助…」

「坂本十四郎だ…」

俺達が自己紹介すると、にっこり笑ったそいつが、俺達の腕に抱きついてきた!?
ちょっ…何だこのぷにぷにしたのは!?腕に…腕におっぱ…
うおっ!?ヤベ…鼻血が…
ばっ!と顔に手を当てると、隣でも同じ動きをする。

「…すまんのう、パチ恵…2人とも変態だったみたいじゃ…」

「えっ!?」

親父がそいつに囁くと、俺達の腕から柔らかい感触がすっと離れる。

「あぁっ!ティッシュティッシュ!!」

そう叫んだ小さい妹が、慌てて俺達の鼻にティッシュを当てる。
…何か良い匂いだ…

「晋助お兄ちゃん、十四郎お兄ちゃん、よろしくお願いします!」

そう言ってにっこり笑われると…なんでか心臓がどきりと跳ねる。
隣で晋助が全く同じ反応をしてるのが、ムカつく…
実は俺達…結構似てるのかもしれない…


続く