そーして、僕らは、家族になった。

ACT 1 高杉晋助



おかあさん、おかあさん、なんでぼくにはおとうさんがいないの?
みんなのいえにはおとうさんがいるんだよ?
ぼくがわるいこだから、おとうさんいないのかな?
どうして?
どうして?


そんなことばっかりきいてたから、おかあさんいつもかなしいかおでわらってたのかな・・・?



だから・・・俺を置いて・・・逝っちまったのかよ・・・





俺が中学に入ってすぐに、母さんは病気で死んじまった。
2人の生活の為に、働いて、働いて、体を壊して…病気になんざなっちまった。

俺には母さん以外頼れる大人なんか居無くて…親戚とか…そんなんは聞いた事もねぇし…親父と呼べる奴の話も聞いた事は無い。
まぁ、俺が居るんだから、多分居るんだろうけど…母さんは俺が小さい頃から親父らしき奴の話は一切しなかった。
俺がどんなに強請っても、悲しい顔で笑うだけだった。
まぁ、そんな奴居たって…今さら会いたいとも思わねぇし…

でも、現実問題…俺が生きていくにはカネが要る。
どうしたもんかと途方にくれるが、どうにもならねぇ。
やっぱここは…施設とかに入るんだろうなぁ…とか漠然と考えていた。

母さんは案外皆に慕われていたみたいで、職場の同僚の人とか、同じアパートの人が葬式の手伝いをしてくれた。
まぁ、金は俺の学費とかって母さんが貯めてたのが有ったんで、それでなんとか出来た。
約束してたけど…高校には行けそうにねぇや。
それどこか、中学も行けんのか…?俺…

そんな事を考えながら、ぼんやりと坊主のお経を聞いていると、もじゃもじゃ頭の変なおっさんが焼香にやって来た。

そいつは、家に入ってくるなりぼろぼろと涙をこぼして大声で泣いた。
いい大人なのに、恥ずかしくねぇのかよ…
俺がそう思っちまうくらい、そいつは恥も外聞も無く泣いた。
母さん、マジで人望有ったんだな…なんて思っていたら、ひとしきり泣いたそいつは、俺の所に来てぎゅっと俺の手を握る。

あぁ、又…お涙頂戴、良い人な台詞を吐かれるのか…
そんな言葉掛けるぐらいなら、金でもくれねぇかな…なんてちろりとそいつの顔を見ると、やけに真剣な目で俺を見る。
その透き通った真っ直ぐな瞳に見つめられて、何か落ち着かねぇ気分でいると、そいつはグイッと俺に近寄って来た。

「おんしが晋助がか?迎えに来るのが遅くなってすまんかったのぅ…」

…迎え…?…誰だ…コイツ…?

「…テメェ…誰だ…?」

なんとなく嫌な予感がする…
俺が、精一杯の威嚇で下からそいつを睨みつけると、そいつは、にかり、と笑った。

「おんしの父親じゃ、晋助。」

…父…親…?
母さんが死んだ今頃…何でこいつは…のこのこ現れたんだ…

「…俺に親父なんざ居ねぇ!そんな嘘…テメェに何のメリットが有るってんだ!!クソみてぇな冗談止めろ…!」

俺の力一杯の拳を、そいつは顔で受けた。
いくらでも避けられるだろ…?何でわざわざ…詫びのつもりとでも言うのかよ…

恰好悪く、鼻から血を垂らしながらも、又、にかっ、とそいつは笑った…

「父親が子供と一緒に暮らすのは、当り前の事ぜよ。メリットなんぞ、無か。」

そう言って俺の前までやって来て、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
…あったけぇ…大きな…手だ…こんなの…今まで感じた事無かった…
でも…今更…

「…今まで俺達の事…放っておいたんだろうが…母さんは…働いて…働いて…病気になったんだ…そんで…死んじまったじゃねぇか!…何で…もっと早く…っ…」

ちくしょう、気が緩んだ…涙が…出ちまう…

「…すまんのう…全部…ワシが悪いんじゃ…許せとは言わんきに。ワシの事を憎んで構わん。ワシの寝首をかく為で構わんきに、ワシと一緒に暮らさんか?」

俺の涙を隠すように、そいつがギュッと俺を抱きしめる。
広い胸と、力強い腕なんて、今まで無かった…
小さい頃に、欲しくて欲しくて堪らなかった…父親の…感触…
母さんが死んでから、ずっと流せなかった涙を…今この時だけ流そう…
今なら…今だけなら…

「…俺は…まだ子供だ…どんなに粋がったって、1人でなんて生きていけない…アンタが父親だろうと何だろうと、今の俺には関係無ぇ…良いぜ…行ってやるよ…」

精一杯粋がってギロリと睨みつけるけど、そいつはどこ吹く風で、又あの、にかり、とした笑顔を浮かべやがる。
…ちくしょう…そのツラ…何か気が抜けるんだよ…
でも…嫌いじゃない…

なんて思っちまったのは、一生言ってやらねぇ…