08・押して駄目なら引きまくれ


今日も今日とて買い物帰り。沖田さんが待ち伏せしてて甘味屋へと連行される。
イヤ、まぁ、おごってくれるんだから良いっちゃぁ良いんだけど、今日は冷凍食品なんか買っちゃったんで、ゆっくりなんかはしてらんない。折角の贅沢品が溶けちゃうよっ!

「〜でさぁ。新八、聞いてやすかぃ?」

「あ、すみません。今日は冷凍食品買っちゃったんでゆっくりしてられないんですよね、僕。」

そう言うと、沖田さんの表情が目に見えて変わる。

「…俺とのでえとより、レートー食品のが大事なんですかぃ…?」

「いえ、そういう訳じゃなくてですね?僕にだってイロイロ都合が有ってですね…」

「そうですかぃ。じゃぁ、今日はもう帰りやしょうぜ。」

無表情のままさっさと立ち上がって、伝票を掴んで出て行ってしまう。
あれっ…?怒っちゃったのかな…?でも、僕にだってたまには都合の悪い日だって有るし!そういつもいつも沖田さんにつきあってなんかいられないよっ!!

翌日の買い物帰り、沖田さんは居なかった。
毎日必ず来てるくせに…本当に怒っちゃったのかなぁ…イヤ、珍しく土方さんに捕まったのかもしれないし。
まぁ、明日にはフラフラと現れるに決まってるけどさっ。

…そう思って2週間。
沖田さんは、現れるどころか目の端をかすめる事もなく、一切僕の前に姿を現さなかった。
何!?そんなに怒る事っ!?
今日は買い物の帰りにちょっと遠回りして、真選組屯所の前を通って帰ろう。
…居ないのかなぁ―――…

「あれっ?新八君、屯所に何か用?」

僕が屯所の中をちらちらと覗いていると、ちょうど出てきた山崎さんが気付いて駆け寄ってきてくれる。

「いえ、用って程の事でも無いんですけど…沖田さんってここの所何か仕事でも入ってるんですか?」

「隊長?いや別に普通通りサボってるよ?」

山崎さんが笑顔で答えてくれる。
…良いのか…?そんな笑顔で答えて………
僕が複雑な顔で笑っていると、不思議そうに首をかしげる。

「何?又何か迷惑かけた?なんだったら呼んでこようか?」

「…イエ、別に何もされてませんし、用事なんて無いし。」

そうだよな、沖田さんがそのつもりならいいよ、別に僕悪い事してないし。僕の方から折れる事なんてないし。どうでも良いよ。沖田さんがそういうつもりなら、僕だってっ!!
…ちょっと寂しかっただけだし…

そんな風にお互い意地を張っていると、あっという間に1ヶ月がたった。

ちくしょう、なんて頑固なんだよっ!アノ人はっ…こんなに会わないなんて初めてだ…
こうなって分かったけど、僕らは、沖田さんが会いに来なきゃ偶然に会う事も無いんだ…いっつもサボってばっかりだと思ってたけど、もしかしたら僕に会う為に時間を作ってくれてたのかなぁ…偶然会う時は、いつも仕事してる時だったもんな…偶然でも良いから、もうそろそろ会いたいよっ…

久し振りに買い物の帰りに遠回りをして真選組屯所の前を通る。
沖田さんは…居ないのかな…ちらっ、と中を覗いてみるけど、明るい髪色は見当たらない。
会えないと思うと、もっと会いたくなった。
…もう僕の方から折れようかな…沖田さんに会いたいっ…

門の所の警備の隊士さんに沖田さんを呼んでもらおうと一歩踏み出すと、後ろから声がかかる。

「おっ、新八じゃぁねぇですか。屯所に何か用ですかぃ?」

「沖田さんっ!」

久し振りに会ったっていうのに、全然変わらない態度で飄々と現れる。
沖田さんは寂しくなかったのかな………

「新八から俺に会いに来るなんて初めてじゃぁねぇですかぃ。作戦成功でぃ。『押して駄目なら引きまくれ』たぁ良く言ったもんでぇ。」

沖田さんが得意顔でニヤリと笑う。
…僕の額に、ピキリ、と怒りマークが浮かび上がるのが分かる。


それからもう1ヶ月。今度は僕が沖田さんを避けまくったのは言うまでもない。


END