(05の続きです。)

06・憧れの、


銀さんと神楽ちゃんは、お菓子とご飯でなんとか黙らせた。姉上は、後が怖いので正直に話して泣き落とした。なんとか2人のスケジュールも合わせて…

ついに!ついに!!行く事になりました、1泊2日の温泉旅行!!

実は…結構楽しみにしてたりしました。だって…憧れの、恋人と2人っきりのお泊りだし…
沖田さんも真面目に計画を立ててくれたみたいで、前日に

「明日は朝7時駅集合!遅刻厳禁!!身一つで来なせぇ。」

と言い捨てて、携帯でどこかに連絡を取りながらさっさと帰っていった。

そして、当日の今日。
僕は待ちきれなくて30分も前に着いてしまった…でも、沖田さんを待ってる間も、ドコに行くのかなぁ、とか、夕食はどんなだろう?とか考えていると楽しくて、あっと言う間に待ち合わせ時間になった。

「新八ィ―!待たせちまいやしたかぃ?行きやすぜ、アノ電車に乗るんでぃ。」

待ち合わせ時間に現れた沖田さんは、さっさと僕の手を引いて電車に乗り込む。チケットは先に買ってあったみたいだ。

「ほい、弁当。」

「えっ!?お弁当も買ってあったんですかっ?…って、このお弁当今スゴイ人気のヤツじゃぁないですかっ!良く買えましたね―!!」

「まあね。茶も有りやすぜ?」

ほい、とペットボトルを差し出す。…僕がいっつも飲んでるお茶だった。
…スゴイ…沖田さん、やれば出来るんじゃん。
電車が動き出し、一路温泉へ。
お弁当も美味しかったし、途中のおしゃべりも嬉しかった。いつもは僕の方が沢山しゃべってる気がするけど、今日は沖田さんもいろいろお話してくれた。えへへっ…沖田さんの事もっといろいろ知れた感じで嬉しいや…

温泉地に着いてすぐに、又沖田さんに手を引かれてどこかへ連れていかれる。なんだかバッチリ計画立ててくれたみたいだし、僕は黙ってついて行こう。

「あのバスに乗るんでぃ。あと1分、走るぜ?」

って、え――――っ!?分刻みのスケジュール!?何!?僕ら売れっ子芸能人っ!?
沖田さんに手を引かれ、全力疾走する。なんとかバスに乗り込み、ゼェゼェと肩で息をする。

「ドっ…ドコに行くんですかっ…?」

「着いてからのお楽しみ――――。」

沖田さんはニヤニヤと楽しそうに笑っている。
…周りを見ると、親子連れが多いし…何より沖田さんが嬉しそうだから、良いか。

バスの着いた先は動物園だった。
何?ココ、今1番人気の動物園だよ!へぇ―っ、こんな所に有ったんだ――。

園内は見所一杯で、またまた大忙しだった。
透明なチューブを、こっちを見ながら泳いでいくアザラシだとか、空中散歩するオラウータンとか、木の上で寝て居るユキヒョウの肉球とか!!可愛いものも一杯だったし、僕らを目掛けてダイブしてくる白クマの大迫力も凄かった!!途中で休憩したレストランで食べたプリンも絶品で、もう大満足!!と、思っていたら、ペンギンのお散歩まで見る事が出来た。可愛いなぁ――――――、もぅ!

「さっ、シメはコレですぜ?」

沖田さんがワクワクした顔で巨大な観覧車に乗ろうとする。
いや、ちょっ…デカっ………流石にちょっと高すぎて怖いよっ………

「おっ…沖田さん乗ってきて下さいよっ。僕は下で待ってますから。手、振ってあげますよ?」

「1人でこんなモン乗れるかぃ。一緒に乗りやしょうぜ―!それともなんですかぃ、新八…怖いんですかぃ?」

沖田さんがニヤニヤ笑いで僕に言う。
こっ…この人挑発してるよ、確実に!!いつもなら負けるか!!とそこで乗っちゃう僕だけど、今日のコレは流石に怖いよ…本気で怖いよ…悔しいけど僕が素直に頷くと、沖田さんはものすご――――――――――――――く残念そうな顔をして、諦めてくれた。

楽しかった動物園を後にして、そこから暫らく又バスに揺られて旅館に着く。
商店街の賞品なんであんまり期待してなかったんだけど、そこは素敵な旅館だった。そんなに大きい訳ではないけれど、綺麗で過ごしやすそうな所だった。
仲居さんに部屋に案内されて、一息ついてお茶でも入れようかと沖田さんを振り返ると、既に服を脱ぎ散らかしてパンツ一丁になっていた。なっ…!?

「なっ…アンタ何してんですかっ!?」

「温泉と言えば浴衣じゃぁないですかぃ。新八も早く着替えなせぇ。風呂行きますぜ、風呂。」

…気が早いなぁ…それともこれも分刻みのスケジュール!?
急かされて浴衣に着替えて風呂場に急ぐ。当然ながら風呂場にはまだ誰も居なくて、僕らの貸切状態だった。
うわぁ―――、何か良いかも…
かけ湯で体を慣らしてお湯に浸かる。

はぁ〜〜〜〜〜〜っ、気持ちいい………

僕がゆったりとお湯に浸かっている横で、沖田さんが泳ぎだす。…子供かよ………

「沖田さん!お行儀悪いですよっ!!」

「何言ってんでぃ、この為に早くに風呂場に来たんでぃ!新八も泳ぎなせぇよ。気持ちいいぜ?」

にっこりと笑う沖田さんが凄く嬉しそうで、僕も何だか楽しくなってくる。
…誰も居ないし、良いか…
泳ぐのは結構得意だよ、僕?

2人並んでスイスイ泳いでいると、いつの間にか競争になっていた。フッ…泳ぎは負けませんよっ!
僕の方が優勢になってくると、負けず嫌いの沖田さんが僕にぶつかってきて泳ぎを止める。

「…ぶはっ!何すんですかっ!!」

「勝負の世界は厳しいですぜ!」

「水泳はスポーツでしょうがっ!もっとフェアに出来ないんですかっ!アンタは本当に…」

気がつくと、僕は沖田さんの腕に囲われていた。素肌が直接当たって、沖田さんの少し低めの体温を感じる。…なっ…この体制はマズイよっ…
ちらっと沖田さんの顔を伺うと、凄く優しい顔で僕の方を見ていた。目が合うと、僕を抱きしめる腕が少しきつくなり、綺麗な顔が近付いてくる。
あ…キス…されるっ…?
僕も、そうっ、と目をつぶる…