まんなかの日
「今日は泊まりに行きやすから。」
買い物の帰りにばったり会った沖田さんが、爆弾発言をする。
えぇっ!?ち…ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?
や、まっ…まぁ、いつかはそんな日が来るとは思ってましたけど!!そんな急に言われても、僕も心の準備がっ…
でも…別にイヤじゃない…だって…僕だって沖田さんの事、大好きだから…
ただ…
初めては…もうちょっとゆっくりが良かったかなぁ…とか…
ううっ…
でも!いつかは来るんだもんね!!それが今日!!沖田さんも…随分待っててくれたんだもんな…覚悟決めなきゃ!!
…何か用意したりしなきゃいけないのかな…?
全然分かんないよっ!!
僕が半分パニックを起こしながら家に帰ると、姉上が仕事に出かける所だった。
「新ちゃん、どうしたの?泣いてるの?」
姉上が心配そうに僕を見る。
…姉上には言えない………
「イエ、なんでもありません!全然普通通りですよ?」
姉上が不審気に僕を見るんで、えへへ、と笑う。
そんな僕を見て、はぁ、と大きな溜息をついて僕の手に何かを握らせる。
………何だ……………?
「新ちゃん、私今日はおりょうちゃんの所に泊まってるから…本当にイヤなら逃げてくるのよ?電話くれたらすぐに帰ってくるから。それと、コレは絶対付けてもらうのよ?」
「姉上、何を…」
握らされた何かをまじまじと見る。
……………!?…こっ…コン…………!!??
「姉上ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「沖田さんから連絡貰ってるから。」
沖田ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!
僕がコレ以上無いぐらい真っ赤になって、ばたばたと動いていると、姉上が静かに僕の頭を撫でる。
「新ちゃん?あなた達が付き合ってる事ぐらい私だって知ってたわ。沖田さんがずっと新ちゃんを大切に扱ってくれてたのも。だから、許したのよ?あんなに真面目な顔の沖田さん、初めて見たもの。ただ、『泊めて欲しい』って言ったけど、そういう事でしょ?」
「…姉上…」
「だから、新ちゃんは自分の体を大切にする事。それだけは約束して。」
「はい…でも姉上………なんでそんなに詳しいんですか…?」
「常識よ?」
うふふ、と姉上が笑う。
そういうものなのか………?
それじゃぁ、と言って姉上が出かける。
…僕は………晩ご飯、作ろう………
晩ご飯が出来た頃、呼び鈴が鳴る。
…どくん…
僕が玄関まで走ると、思ったとおり、沖田さんが玄関に立っていた。
「いっ…いらっしゃい………」
「ん…」
にこり、と笑った沖田さんが、白い箱を差し出す。
「…?…何ですか?」
何も言わず、すたすたと居間に入っていくので、僕も小走りでついていく。
「開けてみなせぇ。」
と言う。
何だろう…?
僕が箱を開けると、そこには誕生日ケーキが入っていた。
「誕生日ケーキ…?誰の誕生日ですか…?」
沖田さんが、又、にこりと笑う。
「俺と新八。今日は丁度真ん中なんでさぁ。」
へぇ…そうだったのか…………
「これから先、忙しくてお互いの誕生日祝いが出来なくなるかもしれねぇからな!そうなったら2人まとめて今日祝っとけば良いだろィ?」
「まんなかの日なんですね!」
「おぅ、まんなかの日!!」
それから僕らは、僕の作った晩ご飯を食べて、沖田さんの買ってきたケーキを半分ずつ食べた。
お腹が一杯になった沖田さんは、お風呂に入ってすぐにうとうとし始めた。
…1日お仕事頑張ったんだな…
「新八ィー、もう寝やしょうぜ…」
びくぅぅぅぅぅぅ!!!!
きっ…来た………
僕が緊張して布団の上に正座していると、沖田さんが隣の布団に大人しく納まって、眠そうな目で自分の隣をぽんぽん、とたたく。
…だっ…ダメだ…ものっそ緊張してきた………
ガチガチに固まって、手と足を一緒に出して前に進む僕を見て、沖田さんがクツクツと笑う。
「新八ィ、何期待してるか知りやせんが、俺ァ何もしやせんぜ?」
「へっ?」
「何かされると思ってんだろィ?そんなガチガチの新八とじゃあ、デキるわけねぇダロ?ここまで待ったんだ。どうせなら新八から腰振って俺にすり寄ってくるまで我慢してやらぁ。」
「なっ…!?」
ドS全開のイジワルな笑顔で、沖田さんが言う。
そっ…そんな事っ!!!!
「そんな事しません!!じゃぁずっとしませんね!!僕ら!!!」
あはははは…と、沖田さんが笑う。
もぅ!
僕がふくれると、こいこい、と手招きする。
ドスドスと寄って行くと、ぎゅうと抱き込まれる。
「まあまあ、そんな日が来たら良いなって事でさぁ。今はこれだけで我慢してやりまさぁ。」
沖田さんに抱きこまれたまま、とくん、とくん、と規則的に聞こえてくる心臓の音を聞いていると僕も眠くなってきた…
あぁ…産まれて来てくれてありがとう…こんな優しい人を産んでくれてありがとう。
…産んでくれてありがとう…産まれてきて良かった…この人と逢えたから…
どんなに忙しくなったって、この日だけは2人でいようね?
まんなかの日だけは、どんな事が有っても…
END
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