ちよこれいと



どうせ愛しいアノ子からは貰える筈もねぇ。
それならいっそ…

いつもの見廻りの途中、今日も今日とて買い物帰りのアノ子を見付けた。
重そうに荷物を運ぶ姿が可愛くて、ついついちょっかい出しちまう…
気配を消して後ろから荷物を掴むと、ビクリ、と跳ねて荷物をぎゅっと握る。

「なっ…何するん…!あ、沖田さん!?こんにちわ…」

物凄い顔で睨んだ新八が、俺と認めて安心する。

「おぅ、新八君重そうだねィ。途中まで持ってってやらぁ。」

「イエっ!良いですよ!僕だってこれぐらい運べますからっ!」

「遠慮すんねィ。さっさと寄こさねぇとちゅうしやすぜ?」

俺が新八の肩越しに言ってやると、真っ赤になって距離を取る。
へへっ…かぁ〜わいいねィ。

「や、ちょっ…!アンタが言うとホントにされそうで怖いよっ!!」

なんでィ、ちゅうされたくないのかよ…ま、男にはされたかねぇだろうねィ…
真っ赤な顔でブツブツ文句を言ってても、可愛いだけだぜ?新八君。

「まったく…人目とかそういうの考えた事あります?なんでこんな公衆の面前で、そーゆー事しようって思えるんですか!?」

怒り所がおかしいぜ、ぱっつあん…

「なんでィ、人前じゃなきゃぁ良いのかィ?」

「んな訳無いでしょうがっ!」

更に赤くなった新八が、俺を睨んでくる。

「さ、さくさく行きやすぜ?」

俺が万事屋方面に歩きだすと、、新八が俺の袖を掴む。

「あ、いえ、今日は家の買い物なんです。」

新八の家、って事は…巡回コースから外れやすね…

「そりゃラッキー。堂々とサボれまさぁ。」

「や、だから!僕1人で運べますからっ!…サボりは良くないですっ…!」

「やぁ、ついでついで。たまにはそっち方面も見廻っとくから良いんでィ。」

俺が方向を変えて歩きだすと、小走りで新八がついて来る。
おっといけねぇ、歩くの速過ぎでィ。
俺がゆっくり歩きだすと、にこりと微笑んで有難う御座います、とか言われちまった…

ゆっくり歩いて新八の家まで荷物を運び込むと、茶と茶菓子を出してくれた
…ちょこれいと…

「沖田さん甘いもの大丈夫ですよね?頂き物のチョコなんですけど、良かったらどうぞ。」

…ちょこ…新八のくれるちょこ…でも…ばれんたいんのちょこじゃねぇ…

「…イヤ…俺ァ洋菓子は…」

「えっ!?チョコ…駄目なんですか…?」

「…あー…まぁ…」

ホントは別に嫌いじゃねぇけど…どうせばれんたいんに新八がくれる訳はない。
そんならいっそ、嫌いな事にしときゃぁ貰えなくても平気だろ…?
旦那やチャイナに配ってんの見ても………

「…えー…じゃぁどうしよう…もうすぐなのに…」

新八が困った顔でチョコを見る。
なんでかしょんぼりした感じだ。

「あー、茶菓子はいらねぇよ?茶ァ飲んだら見廻りに戻りやすし…」

「あ、イエ、そうじゃなくて…あっ!いえ、あの、お茶菓子です!お茶菓子っ!!」

何でィ、何かおかしいねィ…もうすぐ、って…ちょこ…?
あぁ、ナイナイナイ。俺にちょこくれるとしたら、万事屋にそそのかされて辛子入り、とかだろ。
何か企んでんのかィ?チャイナ辺りが…

「沖田さんお団子は好きですよね?でもなぁ…あ、おせんべい!おせんべいは好きですか?」

「へぃ、煎餅は好物ですぜ。」

「そっか…僕も好きです、おせんべい!美味しいのが有るんですよ!!それ出しますね?」

新八がにっこりと微笑んで、いそいそと台所へ戻るんで、出された茶をすする。
あ、美味…

「はい、これです!美味しいですよ?」

新八が煎餅を出してくれるんでバリバリ喰うと、又にっこりと微笑んでくれる。
俺ァそれだけで得した気分になるんですぜ?

「あ、じゃぁバレンタインって大変じゃないですか?沖田さん…いっぱい貰うんですよね…?」

「あ?あぁ…何か来てやすね。ダンボールで2つ3つ…」

「だっ…段ボール!?2つ3つ!?」

新八がビックリした顔で俺を見る。

「何でィ、新八や銀の旦那もそれぐれぇ貰うだろィ?」

「貰いませんよっ!僕は姉上に暗黒兵器貰うくらいですよっ!」

「暗黒兵器…」

確かにアノ卵焼き見りゃぁ想像つかぁ…

「でも大変ですねー…そんな量のチョコなんて想像つかないや…その上沖田さん、チョコ嫌いなんですよね…?」

「まぁどうせ喰わねぇし。俺ら真撰組は貰いモンには手を付けねぇよ。」

「えっ!?もったいない…」

新八の顔が曇る…あー…何か誤解してんな…

「ちょこなんざ貰うようになった初めての年に、隊士が何人かソレ喰ってねぇ…死んだんでさぁ。」

「えっ…死っ…!?」

新八が、ぎょっとした顔で俺を見る。

「俺達ァ結構敵が多くてねぇ…攘夷浪士からのちょこも、沢山来るんでさぁ。だから貰いモンは喰わねぇようにしてる。」

「…あ…」

新八がはっとして、目に見えてしゅんとする。

「まぁ、新八が何かくれる、ってんならどんなもんでも喰いやすぜ?毒入りだろうが暗黒兵器だろうが…」

俺が出された煎餅をバリバリと喰うと、新八がほっとして微笑んでくれる。

「あ、姐さんのちょこも近藤さんなら喰いますぜ?宜しく言っといて下せぇ。」

俺がちょっとふざけると、新八があははと笑う。

「イヤ、姉上のはホントやめた方が良いですよ?近藤さんお腹壊しますよ、すっごく。」

あぁ、イヤな空気は飛んだな…

出された煎餅を全部平らげて、茶も飲みきって新八の家を後にする。
たとえ変な企みだろうと、バレンタインディに新八と逢えるんならかまわねぇ。
暗黒兵器だろうと辛子ちょこだろうと喰ってやらぁ!