「新八ィ…真選組が引っ越す事になりやした…京へ…行かなきゃぁなりやせん。………俺と一緒に来てくれるかィ…?」

今迄見た事も無いぐらい緊張した沖田さんが、僕の手をしっかりと掴んで、これ以上ないぐらい真剣な顔で言う。
…いつも突然だなぁ…この人は…
でも、僕の心はずっと決まってますよ…?
貴方が望んでくれるならば、何処へでも…







僕の引っ越しが決まって1週間。
今日は遂に僕が京へ旅立つ日になりました。
皆に色々言われたり、反対されたりしたけれど、僕の心は変わらないから…最後は皆、なんとか納得してくれた。
沖田さんは色々やらなければいけない事が有るので、真撰組の皆さんと先に京入りしていて、今日旅立つのは僕1人。
駅までの道のりを、銀さんがスクーターで送ってくれる事になりました。

神楽ちゃんは…部屋にこもって出てきてくれなかった。
僕が声を掛けても、行くなヨ!の一点張りで、顔は見せてくれなかった。
チラッと覗いた時に見えた顔は泣き腫らしていて…凄く心が揺れたけど…
でも、沖田さんに逢えない生活は…想像しただけでもゾッとする…
それだけは、譲れないから…
ごめんね?神楽ちゃん…

僕はそっと神楽ちゃんにお別れを行って万事屋を出る。
あぁ…ここも見納めなのかなぁ…

「新八〜?これでお別れって訳じゃねぇだろ?又すぐ会えるって。」

銀さんにせかされて、スクーターの後ろに乗って駅に向かう。
珍しく今日の銀さんは優しくて、いつも以上に饒舌で今日までの事を色々話してくれた。
でも、笑ってる銀さんの顔はちょっと引きつってて…やっぱり寂しい、って思ってくれるのかなぁ…

「新八と初めて会った時はさぁ、オメェ、無茶するガキだと思ったワケよ。それこそ誰か居なきゃ何も出来ねぇガキ、って感じなのにさぁ。そのくせ真っ直ぐでさぁ…だから放っとけなかったってぇ訳よ。」

「そんな事有りませんよっ!僕だって随分大人だったんですよ?」

「あー、まだまだガキだったね。今だってオメェ、銀さんの子供みたいなモンだよ?あ、年齢的にはお兄さんだけど。」

「…何スか、そのフォロー…」

「銀さんまだまだ若いからね!」

振り返ってニヤリと笑う。

「ちょっとぉ!運転中は前見て下さいよっ!!」

僕が叫ぶと、おっと、と言って前を向く。

「オメェが万事屋に来る、って言い出した時はさぁ、銀さんちょっと使命感に燃えちゃった訳よ。こんな頼りないヒヨッコなんだから、俺が立派な大人の見本になってやろう、とかさぁ。」

「銀さんをお手本にしたら、マダオじゃぁないですか。」

「ちょっ、新八君〜、そんな事ないでしょうが!」

銀さんが、ちらっと恨みがましい目で僕を見る。
…知ってますよ、銀さんは立派な侍だって。今でも…これからも、僕のお手本ですよ…

駅について改札口で切符を取り出すと、銀さんが入場券を買いに走る。
中まで見送ってくれるんだ…嬉しい…
ホームで電車を待つ間、ぎゅっと手を繋いで、ずっと話をしてくれる。

「あんなに頼りなかった新八が嫁入りか〜…」

「嫁入りじゃありませんよっ!僕男ですよ?大体…沖田さんと付き合う、って決めてからずっと、僕は覚悟してるんです!沖田さんに女の人で好きな人が現れたら…僕は居なくなろう、って…」

「んな訳無いだろ。沖田君がオメェ以外好きになんかなるかよ。俺に挨拶に来た時の沖田君のツラ、見てなかったのか?新八…」

ふわり、と僕の目の前を栗色の髪がよぎった…
京行きが決まって、銀さんに挨拶にやって来た沖田さんの顔は…
一切ふざける事も、茶化す事も無くて…あんなに真剣な顔、今迄見た事が無かった…

「…見ました…」

「じゃあ、んな事言うな。特に沖田君には絶対言うな。」

「…はい…」

「あのツラ見て、俺はオメェらの事許したんだからな?銀さんちょっと泣きそうだったよ?」

銀さんが、そう言って鼻をすする。

「あははっ…僕でそうなら神楽ちゃんがお嫁に行く時は、銀さん号泣ですよ?」

「バッカ、神楽は嫁になんか行きません―!大体アイツ、嫁になんか行けんのか?んなチャレンジャー居んのか?沖田君辺りが貰ってくれんのかと思ってたけど、アイツ新八持ってくんだもんなぁ…」

「あはは…」

銀さんががっくり肩を落とす。

「…幸せに…なりますから…」

「あったり前だ!ならなきゃ許さん!」

僕らが笑い合うとホームに電車が入ってくる。
あぁ、ここでお別れなのか…

「じゃぁ銀さん、僕行きますね?」

「おぅ…体には気をつけろよ?」

「はい。」

「沖田君が浮気したら、いつでも帰って来いよ?」

「はい。」

「寂しくなったら電話しろ?」

「はい。」

「俺の声、忘れるなよ?」

「はい。」

「それから…」

銀さんが何か言いかけると、発車のベルが鳴る。

「じゃぁ、僕、行きますね?」

僕が銀さんの手を離して車内に入ろうとすると、焦った顔の銀さんが叫ぶ。

「新八っ!」

ぐいっ、と引き寄せられて、抱き締められる…

「忘れるな、俺は何時でも、何処に居ても新八の味方だ。」

「…はい…」

「新八、オメェと会えて良かった。オメェが俺の前に現れてからからの俺の世界は、何もかもが全部変わった。俺の世界全てに色が付いたんだよ。だから…幸せになれ。誰よりも幸せにならねーと許さねぇ!」

「…はい…」

「よし!行って来い!」

僕を電車の中に押しやって、銀さんが離れていく…

「…行ってきますっ!」

ギリギリで電車の扉が閉まり、そのまま電車が走り出す。
ニヤリと笑った銀さんの顔が流れていく…

お世話になりました…有難う御座います…
大きく頭を下げて、顔を上げた時にはもう外の景色は変わっていた。

ふと、僕の頭の中にメロディが流れ出す。
お登勢さんの店で僕の送別会をやってくれた時に、初めて聞いた銀さんの歌…
「透間釦」という人達の歌…
銀さんが意外と歌が上手くってびっくりした。
あの後、そのCDを探して買ったっけ。お通ちゃん以外で初めてのCD。
その歌を聴いたら、何処に居ても銀さんに勇気を貰えるような気がしたから…

新しい生活は期待と不安で一杯だけど、僕、頑張りますから。
いつだって、銀さんが僕の事を胸を張って自慢できるような息子ででいますから。

どうか、いつまでも見守っていて下さいね?
大好きな、銀さん…


END


sukimasuitti/kanade

『奏』はお父さんが巣立っていく子供に贈る歌だと思います。
洗脳…出来るかな…?