実れ!はつこい!!
この世に生まれ落ちて18年、俺は今ようやっと初恋をしている。
まさかこんな相手に…と思ったりしなくも無いが、ある意味俺らしいと言えば俺らしいかもしれない。
小っせェ頃から男所帯で、身近に居る女子と言えば、たおやかで華奢で綺麗で儚げで強くて優しい姉上か、ゴリラな姐さんか、ションベン臭ェチャイナ娘か、商売女か、俺のビジュアル目当てのクソ煩ェバカ女共か、だったからねェ。
それが、目の前にあんな可愛くて素直でからかいがいの有るツッコミ眼鏡が現れるなんて、惚れねェ訳ねェだろう。
…たとえソレが、男だったとしても…
俺にとって『恋』なんてもんは全くの初めての事だから。
それも、相手が男だなんて、有る訳ねェと思ってたから。
その気持ちが何なのか、全く判らなかった。
初めて逢った時から印象薄かったくせにやたらと気になって、何処を歩いてても目がアイツを探しちまって。
見付けたら嬉しくなって、でも用も無く話しかけるなんて出来なくて、イラッとして山崎に当たったりとかして。
その行動が何なのか判らなくて、又イライラして土方に当たって。
いつもやってる事だけど、それがいつもより頻繁で。
そんな俺があんまりおかしいんで、近藤さんを心配させちまって。
それでも自分の気持ちがどんなモンなんだか判らなくって、ぐるぐるしちまって。
今迄に無く頭使って考えたら、知恵熱とか出ちまって。
それでも考えて、うんうん唸ってたら滅茶苦茶近藤さんが心配して…
アイツを指名して万事屋に俺の看病を依頼しちまった。
なんでもアイツは、近藤さんが風邪ひいた時に優しく看病してくれたそうで…
そんな近藤さんの話にまでイラッとする自分が、より一層判らなくなった。
きっと看病になんか来られたら、イジメ倒すんだろうとか思ってたのに。
依頼で俺の看病に来たアイツと話してみたら、楽しくて楽しくて。
同年代の男となんざ滅多に話さねェけど、『友達』ってのはこういうもんなのか…とか思ったりした。
でも、ソレも何か違う気がして…
行きついた結論は、ただ単にからかいやすいオモチャ。
『江戸一番のツッコミ使い』と言われるだけ有って、ポンポン返ってくる会話が楽しい。
真っ赤になって怒る顔がツボに入って。
それからは、出逢う度にからかって怒られて。
ソレが楽しくて嬉しくて可愛くて。
…可愛い…?
そう思ったら更にイライラしてムカムカしてムラムラして。
ガシガシと頭を撫でたら、思ったより手触りの良い髪や良い匂いにくらっとしたり。
ほっぺたを掴んで伸ばしてやったら、その柔らかさと手触りの良さにもっと触りたくなったり。
むぅっと膨れるほっぺたに、かぶり付きたくなったくなったり。
困ったような怒った表情で上目遣いされたりしたら、そのままきっすしたくなったり。
微笑みかけられたら、そのまま押し倒したくなったり…
そこまでいって、やっとソレが『恋』なんだって判った。
判っちまったら、もう今迄通りになんか出来る訳がねェ。
俺とした事が、その姿を見付けちまったら心臓が壊れそうなほど早鐘を打って。
声を掛けられたり、わっ…笑いかけられたりなんかしたら、人に見せられねェほど顔に血が上っちまって…
まともに話なんか出来なくなっちまって、その度にアイツを避けちまって…
話し掛けてェのに!
触れてェのに!
笑いかけてェのに、俺の体は言う事をきかねェ。
急に変わっちまった俺を、アイツはどう思ったのか。
泣きそうな瞳でジッと俺を見つめてくる。
ソレが又俺の心臓を狂わせて、直視なんか出来やしねェ!
俺が目を逸らすと、パタパタと足音が聞こえてアイツは駆け去って行ってしまった…
このままじゃ、アイツと話せなくなっちまう!
そんなの良い訳が無い。
俺ァ土方さんとは違うんでさァ…あんなヘタレじゃねェ!!
次に出逢った時が勝負でィ!
俺ァ…俺ァやれば出来る子なんでさァ!!
そう心に決めた次の日。
心の準備も出来ないままに、勝負はアチラからやって来た。
「沖田さんっ!僕…僕貴方に何かしましたか!?無視されるような事…しましたかっ!?」
涙を瞳一杯に溜めたその表情は反則でさァ…
俺のヘタレ心に火ィ付けちまう…
でも、ここで引いたらきっと後は無ェ。
「し…新八くん…は…何もしてやせん…」
「じゃぁ銀さんが何か…あ!姉上ですか!?いつも言ってるんですよ、近藤さんの関係者と関わるんじゃありません、とか…」
「…そうなんで…?」
「あっ…あの…でも!僕はそんな事思ってませんし!僕は…沖田さんとお話出来て…楽しくて…」
かぁっ、と頬を染めて俯いてしまう。
でもすぐに顔を上げて、おっきな目玉でしっかりと俺を見る。
…まさか…コレはまさか…
イヤ、コレ、新八くんも俺の事好きだろ。
完璧惚れてるだろ。
告白待ちだろ。
ここで言わなきゃ漢じゃねェダロ。
行け総悟!
今だ総悟!!
やれば出来る総悟ォォォォォォォォォ!!!
男にしちゃぁ柔らかいその手をギュウっと握って、新八くんの方に一歩二歩。
もうすぐそこに顔が有る所まで近付いて、ジッと目を見てゴクリと唾を飲み込む。
「俺も…俺も新八くんと話すんの、スゲェ楽しい。」
俺がそこまで言うと、新八くんの表情がぱぁっと明るくなる。
「でも、俺ァ新八くんの事が好きだって気付いちまったから…それだけじゃ満足出来なくなっちまったんでさァ…アンタとそれ以上の事しちまいたくなって…まともに顔も見れなくなっちまったんでさァ…」
これ以上無いキメ顔で、新八君をじっと見る。
決め台詞の後は、熱いちゅうでィ!
「…愛してまさァ…」
よし!決まった。
新八くん、嬉しくって泣いちまってんじゃ…?
「………ハァ?」
…何でそこで呆れ返ったような声がするんでィ?!
ココは感動して涙する所じゃ…
ちょっと離れてそっと新八くんの表情を伺うと、物凄く覚めた無表情…あれ…?
「…新八くん…?」
「沖田さん、面白く無いですよ、ソレ。」
「…ボケじゃ無いんですがねィ…」
そろそろと唇を近付けると、ビクリと跳ねた新八くんが物っ凄い勢いで後ずさる。
「おっ…おきっ…沖田さんんっ!アンタ何を…新手の嫌がらせか!?嫌がらせだろ!?嫌がらせと言えェェェェェ!!」
「失礼ですぜ。俺ァいつでも本気でさァ…」
ちょっと心外で唇をとがらせて怒ると、真っ青になった新八くんが、何故か尻を押さえながらじりじりと後ずさる。
「なっ…ぼっ…僕はそう言うのちょっとアレなんで…あの…さっきのは無かった事にして下さって構いませんからっ!」
引きつり笑いを浮かべて、ぐりん、と後ろを向いて脱兎の如く走りだす。
「ちょ…新八くん!」
「いやもう無視して下さって構いませんからァァァァァァァァァァ!!!!」
呆然とする俺を置き去りにして、脇目も振らずに行っちまった…
あれ…?コレ…俺振られ…
イヤイヤイヤ!まだ断られてねェから!
まだ一回しか俺の気持ち伝えてねェから!
まだまだこれからだから!!
一遍言っちまうと、何か心が軽くなった気がする。
俺の攻撃は始まったばっかりだから、ゆっくりイキやしょう。
ちゃんと返事するまで、ず―――――――っと毎日告白してやりやすから。
早いトコ素直になりなせェ、新八くん。
俺の初恋、実らせて下せェよ?
「新八くん好きでさァ!俺と一発…」
「ふざけんな馬鹿!誰が…」
「あ、一発じゃ足りねェ?俺も…」
「そうじゃねェよ!一発もヤリたくネェよ!!」
「もー、新八くんの恥ずかしがり屋さん。」
「無表情で言うな!!」
END
→