僕の執事様



「お坊ちゃま。新八坊ちゃま。朝です、起床の時間ですよ。」

僕の朝は、専任執事の総悟さんの優しいキスから始まる。
総悟さんは礼儀正しく有能な執事で、僕の大切な恋人だ。
僕は、総悟さんの言う事ならどんな事でも聞いてしまう。だって彼の言う事は大抵正しくて………



「…って、何好き勝手なモノローグ入れてんですかっ!?誰が優しくて有能なっ…!」

僕がスリッパでぱしーん!と頭を殴ると、沖田さんは無表情のままじっと僕を見る。

「やっとお目覚めですかィ、新八坊ちゃん。早くお支度を。」

全裸で僕の隣にだらーっと寝転がったまま、お早く、とか言われたって…

「あぁ、歩けないんですかィ?では、私めがお連れ致しましょう。」

「イヤ!歩けるからっ!自分で歩けるからっ!!」

沖田さんの腕に持ち上げられてシャワールームまで連れて行かれ、さくさくと洗われて身支度を整えられる。
いつの間にか用意されていた、お風呂上がりのお茶をのんびり飲んでいる間に朝食が運ばれてくる。
びしっと執事服を着込んだ沖田さんは、てきぱき動いて僕の前に食事を用意していってくれる。
沖田さんの用意してくれる食事は、いつも僕には丁度良い量で…

なんだかんだ言っても、有能なんだよね、この人…なんか、悔しいけど…
食事を終えて少し休んでいると、部屋の戸が控えめにノックされる。

「失礼いたします。新八坊ちゃま、お勉強の時間ですよ?」

僕の家庭教師として派遣されてきている伊東先生が、恭しく頭を下げて入室してくる。
伊東先生は、兄上の会社の社員なんだけど…兄上に頼みこまれて僕に勉強を教えてくれている。

「いつもすみません…伊東先生、お仕事も有るのに…」

「お気になさらずに。近藤さんの大切な方なら、僕にとっても大切なのですから。彼の役に立てるなら光栄ですよ。」

「…はい…」

やっぱり…兄上に頼まれたからなんだよな…
伊東先生も…沖田さんも…兄上の事が大好きだから…
頼みごとされたら…断れないんだよね…

兄上は…以前はうちの会社の社員だった人で…
事故で亡くなった父上の代わりに、社長になってくれた。
その後、姉上と結婚して…僕の兄上になった。
俺が社長をやるのは新八君が有る程度の年齢になるまでだ、と言って僕に社長のなんたるかを叩きこんでくれてるけど…
経営学や帝王学…僕には必要なのかな…ずっと兄上が会社をやっていってくれれば良いのに…
父上や母上、姉上に義理立てしてくれなくたって…

「新八坊ちゃん、お茶にしやしょう。」

僕がそんな事を考えながら勉強していると、沖田さんがそう言って紅茶を淹れてくれる。
良い香りが漂ってくると、すごくホッとする。

「…美味しい…沖田さんは凄いですね、何でもそつなくこなすんですもん…」

僕が感心していると、伊東先生がぷぷっ、と吹き出す。
なっ…何だ…?伊東先生がこんな風に笑うなんて、珍しい…

「良かったですね、沖田君…」

「伊東先生、それ以上言うとただじゃおきやせんぜ…?」

「はいはい、判ってるよ。」

沖田さん、顔が赤い…?何だろ…
なんか良いな、仲良しで羨ましい…


勉強が終わって夕食の時間になる。
夕食だけは家族みんなで食べるんだと、そこだけは頑固に譲らない兄上のおかげで、夕食だけは兄上と姉上と一緒に食べる。
その日1日有った事を話したり、兄上の平社員時代の面白おかしいお話を聞いたりする。
あぁ…やっぱり兄上と皆さんは、強い絆で結ばれているんだよなぁ…

「新八君、どうだい?総悟はちゃんと執事の仕事を出来ているかい?」

「新ちゃん苛められていない?」

「はい!沖田さんはすっごく有能な執事です!お茶も美味しいし、時間も計算してくれるんです!」

僕が意気込んで言うと、2人が笑う。

「あの…すっごく優しいし…でも…本当は…会社の仕事の方がしたいんじゃ…」

僕が俯いて言うと、兄上がはっはっはっと笑う。

「それは無いな。総悟はな、会社の仕事はいっつもサボってばかりでトシに怒られててな?」

そこまで言って、僕の頭をぽんぽんと撫でる。

「新八君にそんなに評価して貰えてるんなら、執事が天職なんだろう…イヤ、新八君の執事が。」

兄上がニヤリと笑うんで、首を傾げてその後を促すけど…兄上も姉上も笑うばかりで話してはくれなかった。
伊東先生も、何か知ってそうだったよな…なんだろ…?


食事が終って自室に戻ると、沖田さんが日本茶を淹れてくれる。
あぁ、美味しい…落ち着くな…
このままで…良いかな…でも…やっぱり…

「…沖田さん…沖田さんはなんで僕の執事なんてやってくれているんですか…?」

「…は…い…?」

「やっぱり兄上に頼まれたからですか…?」

僕が思いきって聞いてみると、沖田さんが悲しそうな顔で僕を見ている…
えっ…?なんで…?

「新八坊ちゃん…俺の気持ちはちゃんと届いてたんじゃないんですかィ…?」

「気持ちって…?」

聞き返すと、はぁ、と溜息をつかれる。
なんだよ!人が頑張って聞いたのにっ!

「そんなのは、俺が新八坊ちゃんに一目惚れしたからに決まってるじゃねぇですか。傍に居たいから、近藤さんに頼みこんだんだ。」

「…はぇ…?」

ひとめ…ぼれ…?って…

「なんでィ、坊ちゃんも俺の事好いてくれてたんじゃねぇのか?じゃぁなんであんな事やこんな事…俺の身体が目当てだったのかィ…」

「何かしたみたいな言い方すんなァァァァァ!何だよ身体って!アンタが勝手に全裸で人のベットに入りこんで来るんじゃねェか!!」

「恥ずかしがんなィ」

「ムカツクなぁ!!」

僕がぷりぷりと怒っていると、沖田さんが優しい目で僕を見ている。
…なんだよ…
でも…色々問題発言は聞いたような気はするけど…兄上の為に、僕の執事をしてくれてるんじゃないんだ…嬉しい…
…嬉しいんだ…僕………

「さ、新八坊ちゃん寝やすぜ?」

いつの間にか全裸になった沖田さんが、僕のベットに入りこんで布団をめくり上げてる…
一瞬スリッパを握りしめたけど…大人しく布団に潜り込んで、ぎゅうと抱きついてみた。

沖田さんが布団をめくり上げたまま固まっちゃったんで、自分で着替えて支度をして、もう1回腕の中に潜り込む。
そろりとおりてきた、優しい腕に包まれて、目を閉じる。
明日の朝は、僕が沖田さんを起こしてあげようかな?なんて…ちょっとだけ思いました。

僕も…沖田さんの事、好きみたいだから…


END


執事企画様に投稿したモノです。