栗、時々…
さあ、手駒は集めた。後は僕の手腕の見せ所だ。
「神楽ちゃんとそよちゃんは2人で組んで拾ってね。僕らがイガを剥くんで、それを袋に詰めていってね―?山崎君と坂田先生はイガを剥いてって下さい。はい、軍手と木の棒。総悟君と僕とで栗を木から落としますんで。総悟君、よろしくね?じゃぁ、アノ木からいきますよ―!!」
は―い、とかうぃ―、とか返事はまちまちだけど、皆ちゃんと動いてくれた。良かった―、総悟君とか総悟君とか総悟君がサボるかと思ったよ…
2人で高い栗の木に登って枝を揺すって栗を落とす。
結構順調に栗が落ちていくんで、次々と落としてどんどん上の方に登って行く。
えへへへへっ、これだけあれば暫らくは家計も助かるぞ―!…まぁ、暫らく栗だらけの食生活になるけどさ…大体今の時代、剣道を習おう!って子供なんてそうそう居るもんじゃないんだよね…父上ももう少し何かさぁ…サイドビジネスとかやれば良いのにさっ…
考え事をしながら枝を揺すっていたので、ミシミシと嫌な音がしているのに気付くのが遅れた。
あっ、と思った時には僕の乗っていた枝が音を立てて折れた。
ギャ―!落ちるっ!!結構上まで登って来てるから、腕の1本ぐらい持ってかれる―――!!!
咄嗟に近くに有った枝に掴まろうと手を伸ばしたんだけど、ちょっと足りなかった。
あ―、なんとか受けるダメージ減らさなきゃ…僕が怪我したら姉上が料理………
なんとか!なんとか!!
妙に冷静に頭が動く。全てがスローモーションに見え始めた…ヤバイ?ヤバイ?コレ………
スローモーな世界の中に、急に総悟君が飛び込んでくる。
洒落や例えじゃなく本当に飛び込んできて、僕の腕を掴んで引き上げる。
…!?総悟君!?アレ…?確か反対側の枝に居たよなぁ…?何か、飛んできた気がするんだけど………
「なっ…なんで総悟君が…?」
「吃驚さすなぃ。思わず飛んじまったぃ…」
口調はいつも通りだけれど、思いっきり真剣な顔で僕の腕をギュウと掴む。
痛いくらいに掴まれた僕の腕に、総悟君の腕の震えが伝わってくる。
…僕が思ってたより僕は危ない所だったんだ…そう思って下を見た途端、僕の体に震えが来た。
なんて高さまで登ってきてたんだ、僕は…こんな高さから落ちたら腕1本なんて言ってられない…
きっと死んでしまう………
震える体に力が入らない。
申し訳ないけど、総悟君の胸にもたれかからせて貰おう…
「…間に合って良かったぜぃ………」
総悟君は僕を安心させるように、ぎゅう、と抱きしめて、背中をぽんぽんと叩いてくれる。
その振動は、だんだんと僕を落ち着かせてくれる。
「あっ…ありがとう…総悟君………ごめんね………」
「イヤイヤ、お礼は手作り弁当1ヶ月で良いですぜ?」
「えっ!?お礼って、そう来たか!!」
…まぁ…何かしたいけどさ。良いのかな、僕のお弁当なんかで…
僕が黙っていると、何か勘違いしたのか総悟君が慌てて言い募る。
「弁当代は払いやすぜ?うちの姉上が作ると、激辛弁当になりやすからねぇ…そろそろコンビニ弁当ばっかりだってのがバレそうなんでさぁ…彼女が弁当作ってきてくれる、って事にでもしとけば姉上も諦めまさぁ。」
総悟君がちょっと哀しい顔になって言う。綺麗な女性なんだけどなぁ…
辛い食べ物が大好きみたいで、皆にご馳走してくれるんだ………僕も1回ご馳走になったけど…
何かが見えた。何かが。
「…分かりました。でも、ミツバさんに彼女紹介してって言われたらどうするつもりです?」
「そりゃぁ、新八に女装…」
「しませんよ!僕はしませんよ!?大体顔バレてるじゃないですか、僕は。」
まぁ良いじゃねぇですかぃ、と総悟君が笑う。
…あ、震えがすっかり止まってる…
「お―い、志村―!もう栗イガばらして良いのかぁ――?」
暫らく栗を落とさなくなったので、坂田先生が声を掛けてくる。もうそろそろ良いかな…?これ以上は持って帰れないかも…
「お願いしま―す!」
下に居る皆に声を掛けて2人で栗の木を降りる。
かなりの数を落としていたらしく、地上は一面イガ栗だった。
僕らもイガ剥きにまわって、神楽ちゃんとそよちゃんが僕らが剥いた栗を拾っていく。
持ってきた籠が一杯になってもまだ余っていたので、皆が持ってたビニール袋にも詰め込んで持って帰る。
思ってた以上に大量に採れた栗にホクホクしながら、これから作る料理をイロイロ考える。
えへへ―、明日は栗パーティーだ!!
続く
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