あ――――つ―――――――い――――――――あついあついあつい…


空晴れ渡り時々スコール


皆さんこんにちわ、志村新八です。
季節はすっかり夏を迎えました。
あの悲しい予感は見事に当たり、僕はクラスでも部活でも『沖田係』にされてしまいました。
今ではそれにもすっかり慣れて、沖田さんが何処にいるか大体分かるようになってきました…
そんなんで、今も部活の途中で居なくなった沖田さんを探して、校内をウロウロしています。

保健室、屋上、体育倉庫と、校内には居なかったんで、後は裏庭…かなぁ…

 あぁ、しかし暑い!

この夏の真っ只中に剣道着ってのは地獄だよ…
ちょっと行儀悪いけど、前をくつろげてパタパタと風を送る。

「お―、新八ィ、色っぽいねぇ。」

今は葉っぱだけしか残っていない、敷地内で1番大きな桜の木の上から声がかかる。
…やっぱりここだったのか…

「沖田さん!やっぱりここに居たよ!!ちょっと!部活に戻って下さいよっ!!坂本先輩も高杉先輩も怒ってますよっ!!」

僕が木の下で怒鳴っても、沖田さんは何処拭く風。
風通しの良さそうな木の上で、涼しい顔で目をつぶる。

「ゴラァっ!!寝てんじゃね―よ!!涼しそうな顔しやがってっ!!僕はアンタを探し回ったおかげでスンゲー暑いよっ!!!」

あぁぁぁっ!!アノむかつくアイマスクまでしやがった!!

僕も沖田さんが涼しげに寝転がっている木の枝まで登る。木の上はほど良い風が吹いていて、とても涼しく快適だ。

「…あ…涼し…」

「新八も少し涼んでいきなせぇ。部活なんかこの暑い中まじめにやってられっかい。」

沖田さんが至極真面目な顔で言う。

……ぶはっ………思わず笑ってしまった。なんでそんな真面目な顔で言ってんの?コノ人。

「そうですね。僕も少しここで涼んでいきます。どうせ今アンタを連れて戻ったって僕も先輩に怒られるんですから。でも、寝ないで下さいよ?アンタが寝ると、起こすの大変なんですから。」

僕が笑いながら言うと、何故か沖田さんが顔を赤くしながらそっぽを向く。

「ちぇ。新八が来たから木の上も暑くなりやしたぜ。こんな暑い所で寝られっかい。」

「アンタ又そんな事言ってっ!下はもっと熱いんですよっ!!僕が来て暑くなったってんなら下の気温に少し慣れるのに丁度良いでしょうがっ!感謝して欲しいぐらいですよっ!!」

僕がそう言うと、沖田さんはいつもの悪そうな笑顔ではなく、ニコリと笑った。

…あ…久し振りに見た…アノ笑顔……

「ちぇっ、言うなぁ、新八ィ。」


それから僕らは初めてまともに色々な話をした。
剣道部の皆の話とか、先生達の話とか。
こうして話をすると、沖田さんはごく普通の、僕とだってそう変わらない人だった。

「大分涼しくなりましたし、そろそろ部活に戻りましょう?」

僕らが木の下に降りると、突然今までの晴天が嘘のような、物凄い雨が降りだした。

「うわっ!ちょっ…!!何!?この雨っ!!」

「部活に行くなってぇ神様が…」

「何神ですかっ!!ここだって十分濡れますよっ!!」

僕が沖田さんを押して校舎へ避難しようとすると、頭の上に何かがバサリ、と落ちてきた。

…何か良いニオイ……?

走り出そうとした沖田さんを見ると、さっきまで剣道着の上にはおっていたジャージが無い。
あれ?コレはもしや………
頭の上に被さった何かを広げてみると、やっぱり沖田さんのジャージだった。

「ちょっ!沖田さん!!僕いいですからっ!被るんなら沖田さん被って下さいよ!アンタが濡れるじゃないですかっ!!」

僕がわたわたとジャージを差し出すと、沖田さんはぷい、と横を向く。

「俺を探しにきて風邪ひいた、なんて言われちゃぁたまんねぇからねぇ。新八、被っときなせぇ。それから…そろそろ『沖田さん』なんて他人行儀やめなせぇ、クラスメイトだろうが。総悟で良いぜ?総悟で。」

「そっ…んなのダメですっ!沖田さん年上じゃないですかっ!!それと、アンタだって僕にジャージ貸したから風邪ひいた、とか言いそうじゃぁないですかっ!!」

「…そんなこたぁ…言わないと良いですねぃ。」

「願望かよっ!!」

口ゲンカしながらいつまでも木の下に居ても仕方無いので、僕は沖田さんにジャージを押し付けて走り出す。沖田さんは「仕方ない」とかなんとか呟いた後、僕の横に駆け寄って来て言う。

「じゃぁ半分ずつ被りやしょう。その代わり、俺の事は総悟と呼びなせぇ。…なんか友達っぽくないでさぁ…『沖田さん』じゃぁ…」

…少し照れたように微笑みながら、ジャージを僕の手に持たせて横を走る。
えっ…?僕の事…友達だって思っててくれたんだ…!
何か嬉しい…僕はてっきり下僕かパシリと思ってるのかと…

「…じゃぁ…半分お借りします。………総悟君、早く行かないと本当に先輩方が怒り出すよっ!」

僕はちょっと照れながら言ってスピードを上げる。
引っ張られた感じになった総悟君は僕の肩に手を回して、更にスピードを上げる。

「遅ぇぜ新八ィ。やっぱり足の長さが違うと、このスピードは辛いですかねぃ。」

「はぁ!?何言ってんですかっ!!総悟君こそ無理しないで下さい?普段サボッてばっかの人に僕が負ける訳ないでしょう!?もっと早くても良いんですよ?僕は。アンタに合わせてるんですよ!わざと!!」

僕たちがギャーギャーと騒ぎながら剣道場に戻ると、タダでさえ怒っていた先輩達が本気で怒った。

2人とも、校庭30周させられた………

いつも以上に疲れたけど、なんだか楽しかった。
沖…総悟君と凄く近づけたから。
これからも、もっと仲良くなれると良いなぁ…そうなったら、きっと毎日楽しいと思うんだ…


続く