クリスマス・ぱーてぃー



ベットに座って夢みたいな昨日の出来事をぼんやり考えていると、姉上が僕の部屋にやってきた。

「新ちゃん支度出来た?そろそろ沖田君が迎えに来る時間よ?」

姉上が言う。
なんでわざわざ『沖田君』って…姉上を迎えに来るのは近藤君なのに…
今日はなんだか特に気合入ってるみたいだ…すっごいオシャレしてる…うっすら化粧もしてないか!?

「姉上…姉上を迎えに来るのは近藤君なんじゃ…」

「新ちゃん?沖田君が迎えに来るのよね?一緒に誰かが来るかもしれないけど、来るのは沖田君よね?」

…姉上…照れるのもほどほどにした方が良いんじゃ…

「…はい…僕はこのままで良いんで、用意できてますよ?」

「あらダメよっ!新ちゃんは何着ても可愛いけど、折角のクリスマスなんだから、沖田君に可愛い所見せないと!!」

むぅ、と怒った姉上が僕のタンスをがらがらと開ける。
イエ、姉上…僕、男ですから…可愛い服とか持ってないですから…

「もぅ!新ちゃん地味な服ばっかり!だから山崎君なんかと友達なのよ?今から買いに行ってたら遅れちゃうし…私の服貸してあげるわ!」

「イエ、姉上、僕男ですから。それに山崎君に失礼だよ!何だと思ってるんですか…」

「ジミー。さ、新ちゃん可愛いの貸してあげるから!」

僕の手を引いて姉上の部屋に連れて行こうとするけど、ちょっと待って!流石に女物の服は勘弁…
なんとか腕を突っ張って拒否していると、玄関の呼び鈴が鳴る。

「ほっ…ホラ姉上、お迎え…って、あれ?…」

僕が助かった、と思って力を緩めると、そこに姉上はもう居なかった。
…玄関にダッシュしてるよ、姉上…速ぇな、オイ…


僕が姉上の荷物と料理の詰まったお重を持って玄関に行くと、直立不動の近藤君が、姉上を絶賛していた。
姉上は姉上で頬染めて俯いたりしちゃってさ…
何かムカツク………

僕がむぅとしながら靴を履いて2人を促すと、近藤君の後ろに居た総悟君が、よっ、と手を上げる。
わ…ジャケットにネクタイ…?何か…カッコいいんですけど…

「新八ィ!今日も可愛いねぃ。」

サラっと言ってにっこりと微笑むと、いつもと変わらない総悟君の筈なのに、なんだかキラキラして見える…
僕も重傷だよ…


今日のパーティーは、とても広いという理由で、そよちゃんのお家をお借りしてひらかれる。
家とは結構なご近所さんだけど、本当に良いのかなぁ…?
忘れがちだけど、現役総理の実家なんだよな…まぁ本人は居ないだろうけど…

時間に余裕は持ってるけど、準備とか色々有るからそろそろ出発しないと間に合わない。
まだもじもじしてた姉上と近藤君を急かして歩き出す。

「ほら、貸しなせぇ、荷物。」

僕が持ってたお料理の詰まった包みを、さっと総悟君が持ってくれる。

「えっ!?いいよ、僕それぐらい持てるよ!」

「何言ってんでぃ。こういうのを持つのは彼氏の仕事って相場が決まってるんだぜ?」

嬉しそうににっこり微笑まれると何も言えないよ…
あっ…赤くなるじゃん…

「あぁ、じゃあ新八はコレ持ってなせぇ。」

総悟君が僕に向かって、開いてる方の手を差し出す。
ちょっ…なっ…

「…気障だよ、総悟君…」

僕が突っ込んで、もじもじしてると、勝手に僕の手を取ってぎゅうと握る。
…敵わないなぁ…幸せな気分になっちゃうよ…

僕らが手を繋いで歩きだすと、真っ赤になった近藤君と姉上もぎくしゃくと歩きだす。
…もぅ!近藤君もこの機に乗じて姉上の手、繋いじゃえば良いのに…
ま、いいや。僕らはそよちゃんの家までの少しの間、幸せ噛み締めて行こうっと。



そよちゃんの家の中は僕の想像をはるかに超えていて…
入ってきてすみません、って感じだった。

あー…姉上の言うとおり、ちゃんとおしゃれしてくるんだった…正装してくれば良かったよ…

一瞬帰ろうかな、と思ったけど、総悟君が手を引っ張ってズンズン入って行っちゃうんで、僕も否応無しに入ってしまった。
まぁ、そうでなくても後ろから近藤君と姉上がズンズン入って来るんで止まれもしなかったけどね…

「こっ…こんにちわ…お邪魔します…」

玄関(て言うか、ホール?)でふかふかのスリッパに履き替えて、足挫くんじゃね?って思うくらいの絨毯を、メイドさん(と言っても、ものっすごいベテランな感じのおばあさん。)に案内されて進んでいくと、ものっすごい天井の高い部屋に着いた。
今日のパーティーはここでやるらしい…何か落ち着かないよー…

「いらっしゃいませ皆さん!お待ちしておりましたわ!」

ぱたぱたとそよちゃんが走ってくる。
あぁ、知った顔が見れてやっと落ち着いたぁ!!

部屋を見渡すと、可愛い赤いワンピースの神楽ちゃんと、珍しくパリッとしたスーツの坂田先生がのんびりソファに座ってお茶をすすっていた。僕らを見て、にへっ、と笑って手を振ってくれる。
隅の方にはちっちゃくなってお茶を飲んでいる山崎君も居た。

「うちでも少しだけお料理をご用意させて頂きましたの。皆さんで食べれるようにしましたの!」

嬉しそうに微笑むそよちゃんの手が向かう先には、凄い御馳走が並んでいた…
ちょっ…!こんな御馳走食べちゃっていいのっ!?

「ぼっ…僕も少し持って来たんだけど…こんなに有るならいらなかったかな…」

「そんな事ありません!新八さんのお料理は美味しいですもの!私、大好きです!!」

そよちゃんが力一杯言ってくれる。
えへへ…そよちゃんって、良い子だよね…

「有難う…」

嬉しくなって僕がそよちゃんの頭を撫でると、にっこりとはにかんだように笑ってくれる。

…って、はっ!?殺気!!

「…君が新八君かい…?」

僕が殺気のした方に振り向くと、そこにはテレビでよく見る顔…
現役総理大臣、徳川茂茂!?
おっ…お兄さん!?何でここに!!??
ってか、僕なんか睨まれてない!?

じろり、と僕を値踏みするように眺めたお兄さんの目が1点で止まり、ふっと柔らかくなる。
何だ…?
…って…あぁっ!僕まだ総悟君と手繋いだままだった!!
…それも恋人繋ぎだよ………

僕が慌ててばっ!と手を離すと、総悟君が不満そうにむぅ、と膨れる。

「今日はゆっくりしていってくれよ?」

そよちゃんのお兄さんは何だか機嫌が良くなったみたいだ。
にこにこ笑って仕事に行ってしまった。